16:00 〜 17:30
[S17P-07] 2016年福島県沖の地震を基準とした断層モデルパラメータに対する津波高分布の感度
1. 背景
2016年11月22日に福島県沖の深さ12kmを震源とするマグニチュード(M)7.4の北西―南東方向に張力軸を持つ正断層型の地震が陸のプレート内で発生し、宮城県の仙台港で 144cmをはじめ北海道から和歌山県にかけての太平洋沿岸などで津波が観測された(気象庁, 2016)。この海域では、かつては逆断層型の地震が主体だったが、東北地方太平洋沖地震の発生以降は正断層型の地震が比較的多く発生するようになった(気象庁, 2016)。気象庁が量的津波予報に用いるデータベース(以下、津波DB)では、2016年当時、この海域ではほぼ南北方向の逆断層を想定した津波計算結果が収録されていた。事前計算と異なる走向の地震であったことが2016年福島県沖の地震で宮城県における津波高さの過小評価の原因であることと、津波予報の精度低下の大きな要因となる計算条件の改善の必要性が指摘されている(例えば、倉本ほか,2018)。気象庁では、過去に発生した地震のCMT解とその海域で津波DB作成に用いた地震シナリオの間で、走向が大きく異なる海域について全国的に調査し、2018年までに津波DBに収録するシナリオを一部追加する改善を施した。
2. 手法
想定と異なる地震の発生が津波予測に与える影響を検討するため、2016年福島県沖の地震を基準に、走向を含む断層モデルパラメータに対する津波高分布の感度を分析した。まず、「津波レシピ」(地震調査委員会, 2017)を参考に、CMT解、Mwと断層長・断層幅・平均すべり量のスケーリング則、アスペリティの面積とすべり量の規模の経験則で特性化した断層モデル(基準モデル)を作成した。次に、走向、傾斜、断層中央位置のいずれか一つだけが基準モデルから異なる断層モデル(派生モデル)群を作成した。その際、断層中央位置を震源から断層長の1/2程度の範囲で変化させるなど、パラメータの変化の許容範囲が、津波予報時点までの即時地震解析で知りえない不確実さの範囲に相当するように決定した。基準モデルと各派生モデルに基づく津波伝播計算を実施し、牡鹿半島から福島県の5検潮所の位置での津波の高さの最大値等を抽出し、モデル間の計算値を比較し、各パラメータに対する津波高分布の感度を測定した。ここでは、各パラメータの単位変化量(走向・傾斜では1°、断層面中央位置では1km)に対する、5か所の津波の高さの最大値の相乗平均を感度として求めた。
3. 結果と議論
基準モデルからは、従来(例えば、倉本他、2018; Nakata et al., 2019)から指摘されてきたように、仙台港での比較的高い津波が、波源から福島県の海岸に達した後に反射した波による津波後続相によることが確認できた。一方、どの断層モデルパラメータを変化させた場合であっても、派生モデル群の中に、仙台港の津波の高さの最大値の出現が第一波による場合と第二波以降による場合があった。これは、2016年福島県沖の地震は、津波予報時点までに即時解析で知りうる地震学的情報のみに基づく限り、津波の最大波出現要因は原理的に予測不可能な事象であったことを意味する。
傾斜角を変化させた場合は、5か所の測定点とも津波が高く(あるいは低く)なりやすいため、トレンドを除去する方法でも測定したところ、低角度と高角度で感度が大きく異なることが分かった。得られた各パラメータに対する感度の大きさの比較から解釈すると、走向の想定と45°異なることによる津波高分布の典型的な予測誤差は、傾斜角を45°と鉛直の場合で取り違える、あるいは、震源を断層面からも外れる程度(断層長の1/2以上)ずれて決定される場合の予測誤差の大きさに匹敵する。
本研究は2016年福島県沖の地震を標準とした場合のみに基づく感度測定結果に基づいた。このような断層モデルパラメータに対する津波の高さ分布の感度測定の考え方は、今後も想定外の地震が発生した後に、津波DBを修正する方針を合理的に決定する目的で活用できるだろう。また、津波DBを新たに設定する場合には、各シナリオの配置間隔(空間的位置に加えて地震規模・走向・傾斜なども)が隣接シナリオ間の予測の違いが均等に近くなる設定であれば効率的だが、本研究で示した考え方は、計算量に応じた予測精度の最適化を図る事前調査に利用できるだろう。
文献
地震調査委員会 (2017): 波源断層を特性化した津波の予測手法(「津波レシピ」).
気象庁(2016): 平成28年11月地震・火山月報(防災編).
倉本和俊, ほか(2018): 土木学会論文集B2(海岸工学), 74(2), I_535-I_540.
Nakata, K., et al. (2019): Earth, Planets Space, 71(1), 30.
2016年11月22日に福島県沖の深さ12kmを震源とするマグニチュード(M)7.4の北西―南東方向に張力軸を持つ正断層型の地震が陸のプレート内で発生し、宮城県の仙台港で 144cmをはじめ北海道から和歌山県にかけての太平洋沿岸などで津波が観測された(気象庁, 2016)。この海域では、かつては逆断層型の地震が主体だったが、東北地方太平洋沖地震の発生以降は正断層型の地震が比較的多く発生するようになった(気象庁, 2016)。気象庁が量的津波予報に用いるデータベース(以下、津波DB)では、2016年当時、この海域ではほぼ南北方向の逆断層を想定した津波計算結果が収録されていた。事前計算と異なる走向の地震であったことが2016年福島県沖の地震で宮城県における津波高さの過小評価の原因であることと、津波予報の精度低下の大きな要因となる計算条件の改善の必要性が指摘されている(例えば、倉本ほか,2018)。気象庁では、過去に発生した地震のCMT解とその海域で津波DB作成に用いた地震シナリオの間で、走向が大きく異なる海域について全国的に調査し、2018年までに津波DBに収録するシナリオを一部追加する改善を施した。
2. 手法
想定と異なる地震の発生が津波予測に与える影響を検討するため、2016年福島県沖の地震を基準に、走向を含む断層モデルパラメータに対する津波高分布の感度を分析した。まず、「津波レシピ」(地震調査委員会, 2017)を参考に、CMT解、Mwと断層長・断層幅・平均すべり量のスケーリング則、アスペリティの面積とすべり量の規模の経験則で特性化した断層モデル(基準モデル)を作成した。次に、走向、傾斜、断層中央位置のいずれか一つだけが基準モデルから異なる断層モデル(派生モデル)群を作成した。その際、断層中央位置を震源から断層長の1/2程度の範囲で変化させるなど、パラメータの変化の許容範囲が、津波予報時点までの即時地震解析で知りえない不確実さの範囲に相当するように決定した。基準モデルと各派生モデルに基づく津波伝播計算を実施し、牡鹿半島から福島県の5検潮所の位置での津波の高さの最大値等を抽出し、モデル間の計算値を比較し、各パラメータに対する津波高分布の感度を測定した。ここでは、各パラメータの単位変化量(走向・傾斜では1°、断層面中央位置では1km)に対する、5か所の津波の高さの最大値の相乗平均を感度として求めた。
3. 結果と議論
基準モデルからは、従来(例えば、倉本他、2018; Nakata et al., 2019)から指摘されてきたように、仙台港での比較的高い津波が、波源から福島県の海岸に達した後に反射した波による津波後続相によることが確認できた。一方、どの断層モデルパラメータを変化させた場合であっても、派生モデル群の中に、仙台港の津波の高さの最大値の出現が第一波による場合と第二波以降による場合があった。これは、2016年福島県沖の地震は、津波予報時点までに即時解析で知りうる地震学的情報のみに基づく限り、津波の最大波出現要因は原理的に予測不可能な事象であったことを意味する。
傾斜角を変化させた場合は、5か所の測定点とも津波が高く(あるいは低く)なりやすいため、トレンドを除去する方法でも測定したところ、低角度と高角度で感度が大きく異なることが分かった。得られた各パラメータに対する感度の大きさの比較から解釈すると、走向の想定と45°異なることによる津波高分布の典型的な予測誤差は、傾斜角を45°と鉛直の場合で取り違える、あるいは、震源を断層面からも外れる程度(断層長の1/2以上)ずれて決定される場合の予測誤差の大きさに匹敵する。
本研究は2016年福島県沖の地震を標準とした場合のみに基づく感度測定結果に基づいた。このような断層モデルパラメータに対する津波の高さ分布の感度測定の考え方は、今後も想定外の地震が発生した後に、津波DBを修正する方針を合理的に決定する目的で活用できるだろう。また、津波DBを新たに設定する場合には、各シナリオの配置間隔(空間的位置に加えて地震規模・走向・傾斜なども)が隣接シナリオ間の予測の違いが均等に近くなる設定であれば効率的だが、本研究で示した考え方は、計算量に応じた予測精度の最適化を図る事前調査に利用できるだろう。
文献
地震調査委員会 (2017): 波源断層を特性化した津波の予測手法(「津波レシピ」).
気象庁(2016): 平成28年11月地震・火山月報(防災編).
倉本和俊, ほか(2018): 土木学会論文集B2(海岸工学), 74(2), I_535-I_540.
Nakata, K., et al. (2019): Earth, Planets Space, 71(1), 30.