16:00 〜 17:30
[S17P-10] Multi-index法による津波遡上即時予測の模擬データのばらつきを考慮した検証
海底水圧計データを用いた津波即時予測のため、データベース(津波シナリオバンク)から観測された海底水圧計データに近いシナリオ群を選別するMulti-index法が提案されている(Yamamoto et al., 2016, EPS)。Multi-index法では評価時刻での水圧変動の絶対値の最大値について、観測値で正規化したVR(Variance Reduction)、シナリオの値で正規化したVR及び相関係数の3つの指標により、観測とシナリオの類似度の評価を行う。Multi-index法を用いることで、事前に準備したシナリオを即時に選び出すことで計算負荷の高い津波遡上まで予測対象とすることができ、S-netデータを用いた津波遡上即時予測システムとしてシステム実装されている(Aoi et al., 2019, JDR)。津波遡上即時予測システムでは震源情報の不確実性に左右されないように、毎時刻Multi-index法での評価を行い、閾値を満たすシナリオが選別されると予測を開始する。そのためYamamoto et al. (2016)では検討されていなかった、リアルタイムデータ処理のための帯域制限フィルタ、オフセット除去及び最大値を取る区間の設定やシナリオデータが地震発生から何分後にあたるかを様々に変えて検索する機能が津波遡上即時予測システムでは採用されている。本研究では、沖合にS-netが敷設された東日本太平洋沿岸での概観的な津波予測のために構築した津波シナリオバンク(近貞・他, 2019, 防災科研研究資料)を用い、津波遡上即時予測システムと同じ検索処理により選別されたシナリオ群に基づき、Multi-index法による津波遡上即時予測の検証を行う。検証には既往研究で推定された波源断層モデルから計算した模擬データ(S-net水圧計データ及び陸域浸水深分布)を用いるが、推定された波源断層モデルに固有の特性、バイアス等のため、生成される模擬データが必ずしも実際の津波現象全てを代表できる訳ではない。そこである1つの波源断層モデルの例に最適化するのではなく、大局的な予測性能を向上することを目的に、1つの地震に対して異なる研究による波源断層モデルに基づく複数の模擬データを用いて検証を行う。
概観的な予測のための津波シナリオバンクでは、伊豆諸島から根室半島の沖合をカバーするように太平洋プレートのプレート間地震とアウターライズ地震を設定し、沿岸で90m格子の地形モデルを用いて津波浸水計算を行ったシナリオを有している。断層面内では一様すべりを仮定しているが、プレート間地震については地震規模と断層面積の関係式を3パターン用いることにより、多様な震源特性を考慮している。波源断層モデルの走向方向位置と沿岸波高分布の感度解析結果を基に、プレート間地震は走向方向に約25kmずらして設定している。模擬データとして2011年東北地方太平洋沖地震についての27波源断層モデルから計算されるデータを用いた。これらの波源断層モデルは主に津波データもしくは地震波形データの解析に基づき推定されている。なお海底水圧計データについては波源断層モデルによるシミュレーション波形に、2018年台風13号襲来時の観測波形をノイズとして付加している。
北緯38.3度~38.5度、東経141.1度~141.4度の領域(宮城県石巻市から東松島市付近)での地震発生から10分後までのデータから予測される最大浸水深分布を確認したところ、Multi-index法で選別されたシナリオ群のうち観測値とシナリオの両方で正規化したVRが最大となるシナリオは6模擬モデルに対して過小な予測となる傾向が見られた。一方でMulti-index法で選別されたシナリオ群から計算される平均値を予測とすると、過小となるのは1模擬モデルのみとなった。また平均値を、選別されたシナリオ群全てから求める場合と、VRが全シナリオの最大値から0.1以内となるシナリオ群から求める場合では、予測の傾向は概ね似ているが、シナリオ群全体から求める方が過小予測の傾向が小さかった。なお、模擬データの推定に用いられたデータ(津波データか地震波形データか)と、良好な予測結果が得られたかどうかには関連性は見られていない。津波遡上即時予測システムでは、VR最大シナリオによる予測と、選別されたシナリオ群の平均値による予測の双方に対応している。他領域や他地震に対する検証、予測精度評価方法や予測の時間発展の整理を行い、適切な津波予測に向けて検証結果をシステムに反映していくことが今後の課題である。
謝辞:本研究は、総合科学技術・イノベーション会議の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「レジリエントな防災・減災機能の強化」(管理法人:JST)の成果を利用した。
概観的な予測のための津波シナリオバンクでは、伊豆諸島から根室半島の沖合をカバーするように太平洋プレートのプレート間地震とアウターライズ地震を設定し、沿岸で90m格子の地形モデルを用いて津波浸水計算を行ったシナリオを有している。断層面内では一様すべりを仮定しているが、プレート間地震については地震規模と断層面積の関係式を3パターン用いることにより、多様な震源特性を考慮している。波源断層モデルの走向方向位置と沿岸波高分布の感度解析結果を基に、プレート間地震は走向方向に約25kmずらして設定している。模擬データとして2011年東北地方太平洋沖地震についての27波源断層モデルから計算されるデータを用いた。これらの波源断層モデルは主に津波データもしくは地震波形データの解析に基づき推定されている。なお海底水圧計データについては波源断層モデルによるシミュレーション波形に、2018年台風13号襲来時の観測波形をノイズとして付加している。
北緯38.3度~38.5度、東経141.1度~141.4度の領域(宮城県石巻市から東松島市付近)での地震発生から10分後までのデータから予測される最大浸水深分布を確認したところ、Multi-index法で選別されたシナリオ群のうち観測値とシナリオの両方で正規化したVRが最大となるシナリオは6模擬モデルに対して過小な予測となる傾向が見られた。一方でMulti-index法で選別されたシナリオ群から計算される平均値を予測とすると、過小となるのは1模擬モデルのみとなった。また平均値を、選別されたシナリオ群全てから求める場合と、VRが全シナリオの最大値から0.1以内となるシナリオ群から求める場合では、予測の傾向は概ね似ているが、シナリオ群全体から求める方が過小予測の傾向が小さかった。なお、模擬データの推定に用いられたデータ(津波データか地震波形データか)と、良好な予測結果が得られたかどうかには関連性は見られていない。津波遡上即時予測システムでは、VR最大シナリオによる予測と、選別されたシナリオ群の平均値による予測の双方に対応している。他領域や他地震に対する検証、予測精度評価方法や予測の時間発展の整理を行い、適切な津波予測に向けて検証結果をシステムに反映していくことが今後の課題である。
謝辞:本研究は、総合科学技術・イノベーション会議の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「レジリエントな防災・減災機能の強化」(管理法人:JST)の成果を利用した。