16:00 〜 17:30
[S17P-12] 沿岸津波観測データへのリアルタイム線形回帰による近地津波の減衰予測手法の開発
はじめに
近地巨大地震や遠地地震では,津波の収束までに時間を要するため,津波警報・注意報が発表された状態が長時間継続する.たとえば,2011年東北地方太平洋沖地震では,津波警報・注意報がすべて解除されたのは地震から48時間後であった.津波警報の解除の見通しをたてて,防災対応に資するうえで,津波の減衰予測は重要である.
本研究では,近地津波の減衰に着目し,過去の津波観測データから判明している統計的な特徴に基づく予測を試みる.林・他(2011,海岸工学)は,2003年十勝沖地震(Mw 8.3)等の際に日本沿岸で観測された津波波形の減衰部を統計的に解析し,減衰部の包絡線の時間推移は,地震からの経過時間tに概ね反比例すること(1/t)を見出した.また,2011年東北地方太平洋沖地震の津波波形の観察によれば,同地震の津波の減衰過程も1/tで概ね近似できうる.そこで,本研究は,この特徴に着目し,リアルタイムに得られる沿岸観測波形から,その後の津波の時間推移を予測する手法を考案する.
データと解析手法
沿岸潮位観測点の潮位時系列の波形データを使用する.この波形データに一定幅の時間窓をかけて移動二乗平均振幅(MRMS振幅)(林・他,2010,海岸工学)を算出し,減衰予測解析に用いる.ここではMRMS振幅算出の窓幅は2時間とした.
本研究が提案する津波減衰予測手法は,減衰の時間推移は関数1/tにしたがうものと仮定し,津波のおおよその規模を観測データから推定して,その後の時間推移を予測するものである.具体的には,現時刻の直近の時間窓内のMRMS振幅(を定数倍した)時系列に関数k/tを当てはめて振幅係数kを推定し,それを関数k/tに代入することで,それ以降の津波減衰の時間推移を予測する.減衰の時間推移を表す関数を1/tに固定するため,逆問題の未知数が振幅係数のみとなり,予測結果が安定することが期待できる.ここでは,当てはめの対象とするMRMS振幅は3倍している.これは,林・他(2010,海岸工学)による遠地津波の統計解析に基づく知見「減衰過程においては,津波高さがMRMS振幅の3倍を超えることは稀である」ことを参考にした.また,当てはめの時間窓は6時間とした.
結果
本提案手法の減衰予測性能を検証するため,2011年東北地方太平洋沖地震に適用した.一例として,北海道の釧路の予測結果を示す(図1).本手法による推移予測曲線(赤線)が,観測波形(灰線)の上限付近を概ね予測できている.こうした推移予測曲線に基づき,日本の太平洋沿岸の潮位観測点において50 cmの津波の高さが最後に観測される時刻(最終観測時刻)を,地震発生後15時間の時点(多くの沿岸潮位観測点でMRMS振幅の最大ピークが出現してすでに減衰過程に移行した段階)でどのくらい予測できるかを評価した.その結果,ほとんどの観測点において,最終観測時刻の±12時間の減衰見込み時刻が得られることがわかった(図2).
謝辞
本研究では,国土交通省港湾局及び気象庁の沿岸潮位観測データを使用しました.記して感謝します.
引用文献
林 豊・他(2010),海岸工学論文集,66, 1, I_211-I_215.
林 豊・他(2011),海岸工学論文集,67, 2, I_216-I_220.
近地巨大地震や遠地地震では,津波の収束までに時間を要するため,津波警報・注意報が発表された状態が長時間継続する.たとえば,2011年東北地方太平洋沖地震では,津波警報・注意報がすべて解除されたのは地震から48時間後であった.津波警報の解除の見通しをたてて,防災対応に資するうえで,津波の減衰予測は重要である.
本研究では,近地津波の減衰に着目し,過去の津波観測データから判明している統計的な特徴に基づく予測を試みる.林・他(2011,海岸工学)は,2003年十勝沖地震(Mw 8.3)等の際に日本沿岸で観測された津波波形の減衰部を統計的に解析し,減衰部の包絡線の時間推移は,地震からの経過時間tに概ね反比例すること(1/t)を見出した.また,2011年東北地方太平洋沖地震の津波波形の観察によれば,同地震の津波の減衰過程も1/tで概ね近似できうる.そこで,本研究は,この特徴に着目し,リアルタイムに得られる沿岸観測波形から,その後の津波の時間推移を予測する手法を考案する.
データと解析手法
沿岸潮位観測点の潮位時系列の波形データを使用する.この波形データに一定幅の時間窓をかけて移動二乗平均振幅(MRMS振幅)(林・他,2010,海岸工学)を算出し,減衰予測解析に用いる.ここではMRMS振幅算出の窓幅は2時間とした.
本研究が提案する津波減衰予測手法は,減衰の時間推移は関数1/tにしたがうものと仮定し,津波のおおよその規模を観測データから推定して,その後の時間推移を予測するものである.具体的には,現時刻の直近の時間窓内のMRMS振幅(を定数倍した)時系列に関数k/tを当てはめて振幅係数kを推定し,それを関数k/tに代入することで,それ以降の津波減衰の時間推移を予測する.減衰の時間推移を表す関数を1/tに固定するため,逆問題の未知数が振幅係数のみとなり,予測結果が安定することが期待できる.ここでは,当てはめの対象とするMRMS振幅は3倍している.これは,林・他(2010,海岸工学)による遠地津波の統計解析に基づく知見「減衰過程においては,津波高さがMRMS振幅の3倍を超えることは稀である」ことを参考にした.また,当てはめの時間窓は6時間とした.
結果
本提案手法の減衰予測性能を検証するため,2011年東北地方太平洋沖地震に適用した.一例として,北海道の釧路の予測結果を示す(図1).本手法による推移予測曲線(赤線)が,観測波形(灰線)の上限付近を概ね予測できている.こうした推移予測曲線に基づき,日本の太平洋沿岸の潮位観測点において50 cmの津波の高さが最後に観測される時刻(最終観測時刻)を,地震発生後15時間の時点(多くの沿岸潮位観測点でMRMS振幅の最大ピークが出現してすでに減衰過程に移行した段階)でどのくらい予測できるかを評価した.その結果,ほとんどの観測点において,最終観測時刻の±12時間の減衰見込み時刻が得られることがわかった(図2).
謝辞
本研究では,国土交通省港湾局及び気象庁の沿岸潮位観測データを使用しました.記して感謝します.
引用文献
林 豊・他(2010),海岸工学論文集,66, 1, I_211-I_215.
林 豊・他(2011),海岸工学論文集,67, 2, I_216-I_220.