日本地震学会2020年度秋季大会

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Room B

Regular session » S19. Seismology, general contribution

[S19]AM-1

Sat. Oct 31, 2020 9:45 AM - 10:00 AM ROOM B

chairperson:Satoko Murotani(National Museum of Nature and Science)

9:45 AM - 10:00 AM

[S19-01] A database of digitized seismic records and seismogram image copies for major historical earthquakes in Japan

〇Satoko Murotani1, Kenji Satake2, Hiroshi Tsuruoka2, Hiroe Miyake2, Toshiaki Sato3, Tetsuo Hashimoto4, Hiroo Kanamori5 (1.National Museum of Nature and Science, 2.Earthquake Research Institute, the University of Tokyo, 3.Ohsaki Research Institute, Inc., 4.National Research Institute for Earth Science and Disaster Resilience, 5.Seismological Laboratory, California Institute of Technology)

我が国には明治以来130年以上に渡る地震計・検潮儀による地震・津波観測の歴史があり,膨大な記録が残されている.気象庁や大学機関などの甚大なる努力によって蓄積されてきた地震・津波波形に関するアナログ記録は,所蔵リストや画像のデータベースとして公開され,誰もが利用しやすいよう整備されてきている(Furumura et al., 2020, SRL; Matsu’ura et al., 2020, SRL; Satake et al., 2020, SRL).しかしその一方で,観測機器で得られたアナログ記録を数値化し,科学的な解析に耐えうるデジタルデータとするためにはかなりの精査時間と労力が必要であるため,波形記録が数値化されたデータベースは極めて少ない(例えば,消防庁消防大学校消防研究センターによる「気象庁1倍強震計記録の数値化データ公開システム」がある).近年,地震の解析手法の高度化や計算機の高性能化が進み,速度構造等の新しい知見も得られており,貴重な歴史観測データを用いて過去の被害地震について再解析することにより,地震や津波の発生メカニズムや防災に対する新たな研究成果が生み出されることが期待される.そこで,1920年代~1940年代の歴史的に重要な被害地震・津波(例えば,1923年関東地震や1944年東南海,1946年南海地震)に関する記録の画像化・数値化を行い,将来発生が懸念される大地震に対する防災・減災対策への一助となるよう学術データベースの構築を進めているところである.

このデータベースは地震名や観測点名などで検索できるようにしており,可能な限り大振幅の波形の円弧補正を施し,地震計の特性も併せて提供する.大地震の場合,中央気象台や各地測候所の記録紙には地震計の特性が一緒に書かれていることが多い.しかし,東京大学地震研究所に残る帝国大学時代からの記録紙には特性は書かれておらず,別途観測帳などを参照する必要があり,時期によっては値にばらつきも見られる.いつの情報なのかということも,できるだけ付記する必要がある.公開は数年後を目指しており,国立科学博物館と東京大学地震研究所で公開することを計画している.科博での公開は広く一般の方々に,東大地震研での公開は研究者にとって有用であろう.地震学分野においては,過去の地震の震源パラメータ等の解明や,各地での震度や長周期地震動の検証等への利用,地震工学,社会防災学などの分野では,公開された地震波形や津波波形の数値が,建物構造物等に関連する耐震設計や沿岸域での津波防災対策等に利用されることが期待される.学校教育や博物館分野においては,数値化されたデータを提供することにより,専門的な知識や計算機等を必要とせずに容易に波形データを利用することができ,地震に関する展示や教育の普及への利用価値はかなり高いと思われる.さらには,歴史分野や防災教育の分野でも利用できるであろう.

日本は歴史的な観測記録が充実している数少ない地震大国であり,国際的にも重要な研究対象である.歴史観測データ保存と活用の重要性は国際的にも認識されており,本データベースは貴重な歴史観測データを数値的に提供するとともに,元画像を保存公開することで研究の再現性担保やデータのバックアップとなる意義もある.海外の研究者から東大地震研に問い合わせが多いのは,海外で発生した大地震を本郷の地震計で記録した波形の利用についてである.英語でのページも作成予定であるので,日本で観測した海外の大地震などの記録も数値化できれば,より多くの海外の研究者にとっての利便性も高まるだろう.当面は1920年代~1940年代に日本周辺で発生した主要な歴史地震記象の数値化を行うが,将来的には,1950年以降の記録や海外で記録された波形記録についても蓄積できればと考えている.本データベースに関しては,Murotani et al., (2020), Seismol. Res. Lett., doi: 10.1785/0220190287においても紹介している.


謝辞:本データベースの作成は,国立科学博物館における2017年度館長支援経費,JSPS科研費 JP18HP8037,JP18H01289,東京大学地震研究所共同利用(2020-G-16)によって実施されています.記して感謝いたします.