日本地震学会2020年度秋季大会

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Award lecture

Regular session » S20. Commemorative lectures from SSJ award recipients

[S20]AM

Thu. Oct 29, 2020 9:00 AM - 12:00 PM ROOM A

chairperson:Ryosuke Ando(University of Tokyo)

10:33 AM - 10:53 AM

[S20-03] Study of stress magnitude in the lithosphere based on earthquake data

〇Keisuke Yoshida1 (1.Research Center for Prediction of Earthquakes and Volcanic Eruptions, Tohoku University )

1.はじめに
 地球内部で進行する変形過程の統合的な理解のためには,応力状態の知識が不可欠である.これまでの研究により,地球内部の応力場の“方向“の特徴が大まかに明らかになってきた.しかしその一方で,応力場の”大きさ“に関する情報は,その推定の困難さにより中々得られないままでいて,このことが地震の発生をはじめとした地球内部の変形機構の理解を困難にしている.本講演では,筆者がこれまでの研究で得た日本列島地震発生域の応力状態およびそれと地震発生機構の関係に関する知見を紹介する.

2. 応力場の回転を利用した応力の大きさの推定に関する研究
 東北日本の応力状態は大局的には東西圧縮の逆断層型であることが知られており,一つの支配的な考えは,それがプレート相対運動に由来する強い東西圧縮応力に起因するというものだった.筆者らは,地震データを用いた応力テンソル・インバージョンにより,応力場の方向の空間変化を調べ,それが実際にはプレート相対運動だけでなく地形や過去の地震活動などの様々な影響を受け変化していることを示した.例えば,標高が高い地域に横ずれ断層場が分布する (Yoshida et al., 2015a, Tectonophysics).また,複数の大地震震源域において,その静的応力変化と非常によく似た特徴的な応力場の空間変化のパターンが存在する (e.g. Yoshida et al., 2014a, JGR, 2015b, GJI, 2016a, GJI)ことが分かった.
 筆者らは,観測応力場と理論に基づくモデル応力場の比較により,東北日本の差応力が数十 MPa程度と小さい場合にのみ,前者は地形による影響により,後者は本震の静的応力変化の影響により説明可能であることを示した.それに基づき,東北日本の地震発生場の差応力が数十 MPaと非常に小さく,同程度の大きさの外的影響を受けた際に応力場の方向が擾乱されてしまうモデルを提案した (Yoshida et al., 2015a, 2019, PAGEOPH).
 東北日本内陸域では,2011年東北沖地震後に東西圧縮逆断層型と大きく異なる地震が生じるようになった.Yoshida et al. (2012, GRL)は,それが2011年東北沖地震による応力変化により応力場が回転したことに起因する可能性を示したが,Yoshida et al. (2019)は上記モデルの空間不均質な応力場に起因する選択的地震トリガリングが原因である可能性を考え,観測データ解析からそれを支持する結果を得た.このことは,応力場の地震前後の変化などの検出・議論の際には,額面的な誤差だけでなく,仮定,特に空間変化に関するものの妥当性についての注意深い考慮が極めて重要であることも示す.

3. 間隙水圧・断層強度変化に伴う地震活動・震源過程の変化に関する研究
 上記で推定したような差応力が非常に小さい場で地震を生じさせる機構として,間隙水圧増加による断層強度低下が考えられる.筆者らは,2011年東北沖地震後にせん断応力が減少したにも拘らず生じた東北日本の誘発地震活動を用いることにより,間隙水圧・断層強度低下が地震活動・震源過程に与える影響を調べた.特に,東北沖地震のおよそ 1週間後から生じた山形-福島県境周辺の顕著な群発活動を調べることにより,通常推定できない断層強度・間隙水圧の時間変化を推定することに成功した (Yoshida et al., 2016b, JGR).また,地震活動度,b値,応力降下量などのパラメータが,それと同期して変化することを示し (Yoshida et al., 2017, JGR),それらが断層強度・間隙水圧の変化を反映している可能性を示した.

4.小地震の震源過程・構造推定手法の高度化に関する研究
 上記で得た応力降下量と間隙水圧・断層強度の同期した時間変化から,地震の応力降下量から断層強度や間隙水圧の情報が得られる可能性が示唆される.一方,小中地震の応力降下量の推定手法には様々な仮定が含まれており解釈が非常に難しい.一つの大きな仮定は破壊伝播の等方性に関するもので,実際に観測されている directivity効果と明らかに矛盾している.そこで非対称な破壊伝播も考慮して応力降下量・破壊伝播速度等を同時推定する新しいアプローチを模索している (Yoshida, 2019, Geoscience letters).また近傍の地震の波形 を用いて地震波に含まれる伝播の影響を除去して震源過程の情報を抽出する方法 (経験的グリーン関数法)が広く用いられているが,多くの場合に微妙な位置の違いにも影響を受けるはずである.そのわずかな差を用いて地震発生域の流体の情報を取り出す試みを行っている (Yoshida, 2020, GJI).

5.おわりに
 以上,筆者が自然地震データを用いて行ってきた応力・断層強度に関する研究についてまとめてきた.講演時には上記で取り上げられなかった著者以外の研究も含めて紹介を行う予定である.これらの研究の中で幾度も直面したように,地震データを用いた解析では現実と異なる仮定が必要な場合が多く,得られた結果・誤差を鵜呑みにできないことが少なくない.そのような一筋縄でいかない状況下で,常に解析結果の前提を疑い何が妥当か自分の頭で考え,可能であればそこから何か引き出せるような研究を行っていきたいと考えています.