日本地震学会2020年度秋季大会

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Award lecture

Regular session » S20. Commemorative lectures from SSJ award recipients

[S20]AM

Thu. Oct 29, 2020 9:00 AM - 12:00 PM ROOM A

chairperson:Ryosuke Ando(University of Tokyo)

10:53 AM - 11:13 AM

[S20-04] Research on the seismogenic environment bridging the gap between laboratory rock experiments and natural earthquakes

〇Nana YOSHIMITSU1 (1.Earthquake Research Institute, The University of Tokyo)

はじめに
 直接観測が難しく複雑な地震現象の素過程を観察する手段として,室内実験を用いた観測が1970年代頃から盛んになった.その後さらに,断層サイズ数mm~数cmという室内実験スケールと自然地震の間を埋めることを目指して,金鉱山における半制御地震発生実験のような観測も行われるようになった.岩石の圧縮破壊実験は,地震発生に至るまでの破壊面近傍での詳細な観測を可能とし,大きな断層滑りに向けて微小破壊が増加する様子や(Yanagidani et al., 1985),弾性透過波の速度・振幅の低下(Lockner et al., 1977; Yukutake et al., 1989)などが報告されてきた.これらの記録には収録機器や観測の制約により自然地震の解析手法をそのまま適用できないという課題があったが,近年の技術の進歩によりこの課題を解決できる見通しが立ってきた.本講演では課題解決のための著者らの取り組みを周辺の研究動向や今後の展望と併せて紹介する.

実験システムの改良
 岩石試料や鉱山地震観測の利点である震源極近傍観測のメリットを生かし,波形から震源や伝播経路の情報を明瞭に検出するには,媒質の微細な変化を捉えるために波の高周波成分を逃さず収録する必要がある.実験用の広帯域センサには耐圧性能がないため,地震発生環境に近い圧力下では利用することができなかった.また,自然地震と同様の解析を実施するには,高速・多点での観測が求められる.著者らは波形収録システムの改良とセンサの耐圧性能向上に取り組み,広帯域・高速・多点・連続での波形収録を実現した(Kawakata et al., 2011).このシステムで収録した実験波形には一般的な自然地震解析と全く同じ手法を適用できるという点で,革新的である.
 収録された波形を後続波まで利用するためには,有限の実験試料の中で反射波や変換波がどのようにふるまうのか把握する必要がある.筆者らは3次元差分法計算で,反射・変換波や表面波などの後続波を含む岩石試料内の全波動場を再現し,将来のより詳細な透過波研究への道を拓いた(Yoshimitsu et al., 2016).

破壊進行過程
 円柱状の岩石試料の圧縮破壊にともなう断層成長を観察する実験では,人工的に弾性波を透過させて震源断層付近の応力状態や不均質状態を推定する.Yoshimitsu et al. (2009) やYoshimitsu and Kawakata (2011) では上述の計測システムを用いて破壊中の岩石試料内で断層透過波をモニターし,破壊に至るはるか前から媒質の不均質性が高まるだけでなく,破壊直前に急激に波が通りにくくなるフェーズがあることを明らかにした.さらに,繰り返し地震を人工波源のように利用することによって,金鉱山における地震についても破壊の前から震源近傍で媒質の不均質性が地震発生前から進行していることを明らかにした (Yoshimitsu et al., 2012) .断層サイズ数百mの金鉱山と,数cmの実験室という中・小2つの異なるスケールで,破壊面近傍における減衰の強化が観測されたことは非常に興味深い.

震源特性の階層性
 岩石試料内の破壊現象と自然地震の破壊サイズには数桁にわたるスケールギャップがあり,これらを直接比較してよいのかという疑問があった.規模の違う破壊の比較には,地震の震源特性を表す震源パラメタが用いられる.自然地震においては既往研究により震源パラメタが規模依存性を持つことが示されていた(e.g., Kwiatek et al., 2011).Yoshimitsu et al. (2014) はこのスケーリング則がマグニチュード-7に相当する実験試料内での微小破壊にも当てはまることを初めて明らかにし,破壊サイズ数mm~cmの岩石試料,数m~kmの誘発地震,そして数km~数十の自然地震までが同一の表現で説明できることを示した.この発見は実験地震学の有用性を高めるとともに,破壊現象の幅広い階層性を示した.

今後に向けて
 実験室における広帯域観測システムを用いた研究はまだ始まったばかりである.軽量・小型の広帯域センサの開発などもおこなわれており,今後さらなる観測・解析の深化が期待される.また,小スケールの研究を他のスケールと比較するうえで考慮すべき点や,微小イベント波形ならではの解析上の課題解決などについて,統計学的手法の導入などによる他分野の研究者との協働の可能性についても紹介する.