11:13 AM - 11:33 AM
[S20-05] Improvement and Prospect of GNSS Earth Observation Network system (GEONET)
1.GEONETについて
国土地理院のGNSS連続観測システム(GEONET:GNSS Earth Observation Network system)は、南関東・東海地域のGPS観測網(110 点)と、全国GPS 連続観測網(100点)を引き継ぐ形で、1996 年4 月に運用を開始したシステムで、全国に展開したGNSS連続観測局(電子基準点、2020年現在1,318点)と観測データの収集、解析、提供を行う中央局から構成されている。
GEONETは、地震調査研究の基盤的観測網であり、平時においては、プレート運動に伴う日本列島の定常的な地殻変動、地震発生時には地震時の地殻変動や余効変動を捉えている。またスロースリップ現象を日本各地で発見する等、地震調査研究に不可欠なツールとなっている。
2.システムの高度化
GEONETは、運用開始から20年以上が経過しており、その間、GPSを始めとする衛星測位システムを巡る環境は、利活用の観点を中心として急速に変化してきた。そういった変化に対応するため、GEONETではデータ収集のリアルタイム化やマルチGNSS対応等を行い、常に高精度な位置情報を提供する基盤となってきた。
1)データ収集のリアルタイム化
2002年に地殻変動の監視を強化するため、電子基準点の1秒間隔の観測データを常時接続の通信回線(IP-VPN)を使ってリアルタイムで収集するシステムを整備した。このリアルタイムデータを利用するとリアルタイムでcm級測位が可能となるため、測量の効率化や測位の高精度化を期待する民間の要望に応え、リアルタイムデータの民間事業者への配信を開始した。開始当初、配信は200点だけだったが、2004年には約1,200点に拡大し、全国で電子基準点を用いたネットワーク型RTK(Realtime Kinematic)によるcm級のリアルタイム測位が可能な環境が整った。
また、2018年11月から正式な運用を開始した、我が国の準天頂衛星システム(QZSS)のサービスの一つであるセンチメータ級測位補強サービス(CLAS:Centimeter Level Augmentation Service)は、特に自動走行・安全運転支援や高精度位置情報サービスでの利用が期待されており、その実現のためにはGEONETのリアルタイムデータが必要不可欠なものとなっている。
2)マルチGNSS対応
GEONETは、当初米国のGPS だけを観測していたが、2010 年に準天頂衛星システムの初号機が打ち上げられたことを契機に、各国が整備を進めてきた衛星測位システムを利用できるよう、観測機器の更新や中央局の拡充を進めた。その結果、2012年には準天頂衛星とグロナス(GLONASS、ロシア)の観測を、2016年にはガリレオ(Galileo、欧州連合)の観測を開始し、これにより利用できる衛星数が増え、都市部や山間部等、上空の視界に制約がある地域においても電子基準点を使った測量や測位が可能となった。特に、ネットワーク型RTKによる測位の性能を安定的なものとし、リアルタイム測位が不可欠な建設機械の自動制御を行うICT施工の利用が拡大した。
3.システムの安定運用
GEONETは、止めてはならないインフラであり、観測データの取得率99.5%以上、リアルタイムデータの遅延時間1秒以内という目標を設けている。現在、取得率(99.77%)や遅延時間(0.4秒程度)は目標を満たすが、その維持には確実な保守が必要である。現地の電子基準点の保守は外部委託しており、異常発生時には原則7 日以内に復旧される。中央局の運用・保守も外部委託しており、夜間・休日も含めGEONETの状況を常に監視している。また、電子基準点は、比較的観測条件の良い場所に設置されているが、周辺環境の変化によって観測データの品質が低下し、測位結果に影響が出ることがある。一番多いのは、周辺の樹木が伸長し低仰角の衛星が観測できなくなり、測位結果のバラツキが大きくなるケースである。そのため、電子基準点は5年に一度現地調査を行い、適宜伐採も行っている。
4.今後
GEONETは、これまで、位置情報の基盤として、測量や測位における利活用はもちろん、巨大地震における震源断層モデルの推定、余効変動の詳細な把握、またプレート間の固着分布の推定やスロースリップ現象の発見をはじめとした様々な地殻変動の把握に真価を発揮してきた。例えば、GEONETが捉えた地震・火山活動に伴う地殻変動情報は、遅滞なく、気象庁、南海トラフ沿いの地震に関する評価検討会、地震防災対策強化地域判定会、地震調査委員会、火山噴火予知連絡会、地震予知連絡会等の関連機関に提供され、地震・火山活動のメカニズムの評価や減災のための活動に活用されている。
今後も、国土地理院では、GEONETの安定的な運用と、高精度な位置情報の提供を行うとともに、電子基準点の高度化や解析方法の改良等を行い、観測データの品質やサービスの向上等に努めていく。
最後に、GEONETの20年以上にわたる運用と高度化は、国土地理院に在籍した多数の職員の尽力によるものであり、今回の技術開発賞の受賞はこうした長年の努力の成果を評価していただけたものだと感じている。また、GEONETは数多くの研究者や測量関係者に支えていただいており、関係各位に深く謝意を表する。
国土地理院のGNSS連続観測システム(GEONET:GNSS Earth Observation Network system)は、南関東・東海地域のGPS観測網(110 点)と、全国GPS 連続観測網(100点)を引き継ぐ形で、1996 年4 月に運用を開始したシステムで、全国に展開したGNSS連続観測局(電子基準点、2020年現在1,318点)と観測データの収集、解析、提供を行う中央局から構成されている。
GEONETは、地震調査研究の基盤的観測網であり、平時においては、プレート運動に伴う日本列島の定常的な地殻変動、地震発生時には地震時の地殻変動や余効変動を捉えている。またスロースリップ現象を日本各地で発見する等、地震調査研究に不可欠なツールとなっている。
2.システムの高度化
GEONETは、運用開始から20年以上が経過しており、その間、GPSを始めとする衛星測位システムを巡る環境は、利活用の観点を中心として急速に変化してきた。そういった変化に対応するため、GEONETではデータ収集のリアルタイム化やマルチGNSS対応等を行い、常に高精度な位置情報を提供する基盤となってきた。
1)データ収集のリアルタイム化
2002年に地殻変動の監視を強化するため、電子基準点の1秒間隔の観測データを常時接続の通信回線(IP-VPN)を使ってリアルタイムで収集するシステムを整備した。このリアルタイムデータを利用するとリアルタイムでcm級測位が可能となるため、測量の効率化や測位の高精度化を期待する民間の要望に応え、リアルタイムデータの民間事業者への配信を開始した。開始当初、配信は200点だけだったが、2004年には約1,200点に拡大し、全国で電子基準点を用いたネットワーク型RTK(Realtime Kinematic)によるcm級のリアルタイム測位が可能な環境が整った。
また、2018年11月から正式な運用を開始した、我が国の準天頂衛星システム(QZSS)のサービスの一つであるセンチメータ級測位補強サービス(CLAS:Centimeter Level Augmentation Service)は、特に自動走行・安全運転支援や高精度位置情報サービスでの利用が期待されており、その実現のためにはGEONETのリアルタイムデータが必要不可欠なものとなっている。
2)マルチGNSS対応
GEONETは、当初米国のGPS だけを観測していたが、2010 年に準天頂衛星システムの初号機が打ち上げられたことを契機に、各国が整備を進めてきた衛星測位システムを利用できるよう、観測機器の更新や中央局の拡充を進めた。その結果、2012年には準天頂衛星とグロナス(GLONASS、ロシア)の観測を、2016年にはガリレオ(Galileo、欧州連合)の観測を開始し、これにより利用できる衛星数が増え、都市部や山間部等、上空の視界に制約がある地域においても電子基準点を使った測量や測位が可能となった。特に、ネットワーク型RTKによる測位の性能を安定的なものとし、リアルタイム測位が不可欠な建設機械の自動制御を行うICT施工の利用が拡大した。
3.システムの安定運用
GEONETは、止めてはならないインフラであり、観測データの取得率99.5%以上、リアルタイムデータの遅延時間1秒以内という目標を設けている。現在、取得率(99.77%)や遅延時間(0.4秒程度)は目標を満たすが、その維持には確実な保守が必要である。現地の電子基準点の保守は外部委託しており、異常発生時には原則7 日以内に復旧される。中央局の運用・保守も外部委託しており、夜間・休日も含めGEONETの状況を常に監視している。また、電子基準点は、比較的観測条件の良い場所に設置されているが、周辺環境の変化によって観測データの品質が低下し、測位結果に影響が出ることがある。一番多いのは、周辺の樹木が伸長し低仰角の衛星が観測できなくなり、測位結果のバラツキが大きくなるケースである。そのため、電子基準点は5年に一度現地調査を行い、適宜伐採も行っている。
4.今後
GEONETは、これまで、位置情報の基盤として、測量や測位における利活用はもちろん、巨大地震における震源断層モデルの推定、余効変動の詳細な把握、またプレート間の固着分布の推定やスロースリップ現象の発見をはじめとした様々な地殻変動の把握に真価を発揮してきた。例えば、GEONETが捉えた地震・火山活動に伴う地殻変動情報は、遅滞なく、気象庁、南海トラフ沿いの地震に関する評価検討会、地震防災対策強化地域判定会、地震調査委員会、火山噴火予知連絡会、地震予知連絡会等の関連機関に提供され、地震・火山活動のメカニズムの評価や減災のための活動に活用されている。
今後も、国土地理院では、GEONETの安定的な運用と、高精度な位置情報の提供を行うとともに、電子基準点の高度化や解析方法の改良等を行い、観測データの品質やサービスの向上等に努めていく。
最後に、GEONETの20年以上にわたる運用と高度化は、国土地理院に在籍した多数の職員の尽力によるものであり、今回の技術開発賞の受賞はこうした長年の努力の成果を評価していただけたものだと感じている。また、GEONETは数多くの研究者や測量関係者に支えていただいており、関係各位に深く謝意を表する。