11:30 〜 11:45
[S23-04] S-netを用いた東北日本前弧海域における常時微動トモグラフィー
防災科学技術研究所の日本海溝海底地震津波観測網(S-net)によって、東北日本前弧海域下におけるスロー地震活動や沈み込み帯浅部の構造に関する新たな知見が得られるようになった [e.g., Tanaka et al., 2019; Nishikawa et al., 2019]。しかし、地震発生場の理解に重要だと考えられるS波速度構造の理解は限られている。本研究では、S-netで観測された常時微動の相互相関解析から表面波を抽出し、東北日本前弧海域におけるS波速度構造を推定することが目的である。解析では、2016年8月から2019年8月までの3年分の加速度計データを使用し、センサー設置姿勢の補正 [Takagi et al., 2019] と地震を含むセグメントの除去を行った後、観測点間の相互相関関数を計算した。また、対象とする0.1 Hz以下の周波数帯域では常時微動振幅が機器ノイズレベル以下であるため、Takagi et al. [2020] の方法により観測点間でコヒーレントな機器ノイズの影響を除去した。0.04–0.1 Hzにおいて表面波を抽出でき、SPAC法 [Aki, 1957; Nishida et al., 2008] により位相速度を推定してモードを特定した。Vertical成分同士(VV成分)の相互相関関数とVertical成分とRadial成分(VR成分)の相互相関関数にはレイリー波の基本モードが卓越し、Transverse成分同士の相互相関関数にはラブ波の基本モードが卓越する。また、Radial成分同士の相互相関関数ではレイリー波の卓越モードが海底面の深さによって変化し、浅海域では基本モード、深海域では約0.06 Hzより高周波数帯域において1次高次モードが卓越する。本研究では、まずVV成分とVR成分を用いて、レイリー波基本モードの位相速度マップを推定した。観測点ペア毎の位相速度測定には Nagaoka et al. [2012] の方法、トモグラフィーには Rawlinson and Sambridge [2003] の方法を用いた。0.04–0.06 Hzにおいて、海溝陸側斜面下部では約北緯38度より北部が高速度、南部が低速度と推定された。また、海溝陸側斜面中部では約北緯37度から約北緯39度の範囲で高速度、それより北部と南部で低速度と推定され、特に日高沖と房総沖の低速度領域が顕著である。推定された位相速度分布は主に上盤内のS波速度不均質構造を反映すると考えられるが、レイリー波の1次高次モードおよびラブ波の使用することで、S波速度構造をより拘束できると考えられる。