16:00 〜 17:30
[S23P-01] 「現代」の地震観測による「過去」の揺れの検証と「未来」の地震動の予測
1.はじめに
近年,地震計測に関する技術開発と環境整備が急速に進められ,「現在」進行中の地震活動の監視と地震発生場および地震発生メカニズムの解明が進められている.一方で,我われは,「現代」の地震観測を通して,「過去」の地震動を検証したいと考えている.昨年は,1855年安政江戸地震による「過去」の揺れの検証のための臨時観測を実施した(石瀬・他,2020JpJU-AGU).本研究では,そこから得た知見を「未来」の首都直下地震の地震像の解明や地震動の予測に繋げることを目指している.
本発表では,1855年安政江戸地震による江戸郊外での揺れの検証を目的として実施した北総地域(成田市・佐倉市・印西市・我孫子市周辺)における地震観測について報告するとともに,これに基づいた「未来」の地震動を考える.
2.「過去」の揺れ:1855年安政江戸地震
1855年安政江戸地震は,江戸市中に甚大な被害をもたらしたM7級(例えば,宇佐美・他(2013)ではM7.0~7.1)の地震である.その被害の様子が,古文書の記述や絵図の描写として残されており,これらの史料に基づく被害分布の推定が行われている(例えば,佐山,1973;宇佐美,1995;中村・松浦,2011).しかし,郊外の北総地域については史料数が少ないため,既知の史料(『豊田家日記』,『年寄部屋日記』,『安政地震の書留』,『中根村旧誌』,『萩原名主役用日記』)の再検討と新たな史料調査を実施し,約100ヶ所の被害地点の特定とその震度判定とを行った.
3.「現代」の地震観測
上記の史料分析において場所が特定された被害地点での地震観測を行った.被害地点のうちの15地点とこれに関係する5点,および被害記述はないが地震動評価の基準とする成田空港敷地内の2点を含む7地点の合計27地点において,約2か月間(2019年9月25日から12月5日まで)の地震観測を実施した.使用した機材は,固有周期1秒の3成分速度計(Lennartz electronic社製LE-3Dlite MkIII)とバッテリー駆動型のデータ収録装置(HAKUSAN DATAMARK LS-8800)である.観測場所は学校,公共施設,寺社,個人宅である.地震計の設置場所は全て屋外であり,可能な限り埋設した.埋設できない場合にはコンクリートに接着させた.
4.「過去」の揺れの検証
この観測期間中に発生した地震のうち,成田市に設置されている震度計で震度1以上が観測されたものは14個であった.これらの地震を対象に,計測震度相当値の地域性を検討した.たとえば,安政江戸地震で震度Ⅵが推定された成田市田町では,常に周辺の観測点よりも揺れが大きくなる傾向が観測された.一方,成田空港では,常に周辺より小さな揺れであった。成田空港周辺には、当時、人が住んでいなかったため、被害の記述が残されていなく、震度が不明であったが、現代の観測を同時に行うことで、当時の揺れを推定することができた。なお,LE-3Dlite MkIIIの記録を用いた計測震度相当値の見積りについては,本大会の中村・他(2020)を参照されたい.
5.「未来」の地震動予測:安政江戸地震の再来による揺れの推定(今後の課題)
次に首都圏に被害を及ぼす地震がどのようなものなのかは不明であるため,過去に被害をもたらした地震が,現代の首都圏で発生したら,どのような揺れになるのかを推定することはできる.そこで,池浦・加藤(2010)による相対増幅率の方法を震度に拡張することを考えている.現代の観測で得られた震度の相対的関係から,基準点に対する各観測点での相対震度を推定する.得られた相対震度を用いることで,被害記述が残されていない地点における震度の推定が可能となる.今後は,「過去」の記述にある地点での観測と同時に多くの地点で観測さえすれば,当時の震度を推定することができ,さらに「未来」の地震発生による揺れを推定することができるのである。都内には,MeSO-netやSUPREME(東京ガス)などの地震計が密に配備されているため,これらも活用した稠密な観測計画を検討している.
謝辞:本研究は文部科学省受託研究「首都圏を中心としたレジリエンス総合力向上プロジェクト」の一環として実施されました.また,地震観測の際には,以下の皆様方にご協力をいただきました.記して感謝いたします:成田市立成田小学校,成田中学校,私立成田高校,佐倉市立佐倉中学校,我孫子市立新木小学校,布佐小学校,印西市立大森小学校,本埜小学校,滝野小学校,小林中学校,成田市教育委員会,佐倉市教育委員会,印西市教育委員会,我孫子市教育委員会,成田山新勝寺,霊光館,佐倉城址公園,国立歴史民俗博物館,利根町役場,竜腹寺,嶺南寺,麻賀多神社,成田空港株式会社,取手市倉持様,印西市中村様,成田市徳田様,山野様.
近年,地震計測に関する技術開発と環境整備が急速に進められ,「現在」進行中の地震活動の監視と地震発生場および地震発生メカニズムの解明が進められている.一方で,我われは,「現代」の地震観測を通して,「過去」の地震動を検証したいと考えている.昨年は,1855年安政江戸地震による「過去」の揺れの検証のための臨時観測を実施した(石瀬・他,2020JpJU-AGU).本研究では,そこから得た知見を「未来」の首都直下地震の地震像の解明や地震動の予測に繋げることを目指している.
本発表では,1855年安政江戸地震による江戸郊外での揺れの検証を目的として実施した北総地域(成田市・佐倉市・印西市・我孫子市周辺)における地震観測について報告するとともに,これに基づいた「未来」の地震動を考える.
2.「過去」の揺れ:1855年安政江戸地震
1855年安政江戸地震は,江戸市中に甚大な被害をもたらしたM7級(例えば,宇佐美・他(2013)ではM7.0~7.1)の地震である.その被害の様子が,古文書の記述や絵図の描写として残されており,これらの史料に基づく被害分布の推定が行われている(例えば,佐山,1973;宇佐美,1995;中村・松浦,2011).しかし,郊外の北総地域については史料数が少ないため,既知の史料(『豊田家日記』,『年寄部屋日記』,『安政地震の書留』,『中根村旧誌』,『萩原名主役用日記』)の再検討と新たな史料調査を実施し,約100ヶ所の被害地点の特定とその震度判定とを行った.
3.「現代」の地震観測
上記の史料分析において場所が特定された被害地点での地震観測を行った.被害地点のうちの15地点とこれに関係する5点,および被害記述はないが地震動評価の基準とする成田空港敷地内の2点を含む7地点の合計27地点において,約2か月間(2019年9月25日から12月5日まで)の地震観測を実施した.使用した機材は,固有周期1秒の3成分速度計(Lennartz electronic社製LE-3Dlite MkIII)とバッテリー駆動型のデータ収録装置(HAKUSAN DATAMARK LS-8800)である.観測場所は学校,公共施設,寺社,個人宅である.地震計の設置場所は全て屋外であり,可能な限り埋設した.埋設できない場合にはコンクリートに接着させた.
4.「過去」の揺れの検証
この観測期間中に発生した地震のうち,成田市に設置されている震度計で震度1以上が観測されたものは14個であった.これらの地震を対象に,計測震度相当値の地域性を検討した.たとえば,安政江戸地震で震度Ⅵが推定された成田市田町では,常に周辺の観測点よりも揺れが大きくなる傾向が観測された.一方,成田空港では,常に周辺より小さな揺れであった。成田空港周辺には、当時、人が住んでいなかったため、被害の記述が残されていなく、震度が不明であったが、現代の観測を同時に行うことで、当時の揺れを推定することができた。なお,LE-3Dlite MkIIIの記録を用いた計測震度相当値の見積りについては,本大会の中村・他(2020)を参照されたい.
5.「未来」の地震動予測:安政江戸地震の再来による揺れの推定(今後の課題)
次に首都圏に被害を及ぼす地震がどのようなものなのかは不明であるため,過去に被害をもたらした地震が,現代の首都圏で発生したら,どのような揺れになるのかを推定することはできる.そこで,池浦・加藤(2010)による相対増幅率の方法を震度に拡張することを考えている.現代の観測で得られた震度の相対的関係から,基準点に対する各観測点での相対震度を推定する.得られた相対震度を用いることで,被害記述が残されていない地点における震度の推定が可能となる.今後は,「過去」の記述にある地点での観測と同時に多くの地点で観測さえすれば,当時の震度を推定することができ,さらに「未来」の地震発生による揺れを推定することができるのである。都内には,MeSO-netやSUPREME(東京ガス)などの地震計が密に配備されているため,これらも活用した稠密な観測計画を検討している.
謝辞:本研究は文部科学省受託研究「首都圏を中心としたレジリエンス総合力向上プロジェクト」の一環として実施されました.また,地震観測の際には,以下の皆様方にご協力をいただきました.記して感謝いたします:成田市立成田小学校,成田中学校,私立成田高校,佐倉市立佐倉中学校,我孫子市立新木小学校,布佐小学校,印西市立大森小学校,本埜小学校,滝野小学校,小林中学校,成田市教育委員会,佐倉市教育委員会,印西市教育委員会,我孫子市教育委員会,成田山新勝寺,霊光館,佐倉城址公園,国立歴史民俗博物館,利根町役場,竜腹寺,嶺南寺,麻賀多神社,成田空港株式会社,取手市倉持様,印西市中村様,成田市徳田様,山野様.