日本地震学会2020年度秋季大会

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Room A

Special session » S24. Pioneering the future of seismology with machine learning

[S24]AM-1

Sat. Oct 31, 2020 9:00 AM - 10:15 AM ROOM A

chairperson:Takahiko Uchide(Geological Survey of Japan, AIST), chairperson:Hisahiko Kubo(NIED), chairperson:Yuki Kodera(Meteorological Research Agency, JMA)

9:45 AM - 10:00 AM

[S24-04] Attempt to detect tectonic tremors in Sanriku-oki by applying a Convolutional Neural Network to S-net data

〇Keisuke Yano1, Hidenobu Takahashi2, Kazuya Tateiwa2, Masayuki Kano2 (1.The Institute of Statistical Mathematics, 2.Tohoku University)

近年,世界各地の沈み込み帯を中心に,スロー地震と呼ばれる,通常地震に比べてゆっくりとした断層の滑り現象が観測されるようになった(Obara & Kato, 2016).低周波微動はスロー地震の一形態と考えられており,南海トラフやカスケディア,日本海溝では想定巨大地震震源域の深部や浅部で観測されている.微動は海溝型巨大地震同様,プレート境界面上の断層の滑り現象である可能性が高く,その時空間的活動の把握は巨大地震震源近傍のプレート境界面の断層のすべりを捉えるという観点から重要である.

微動検出の際,観測点間の波形のエンベロープの類似性に着目したイベント検出・震源決定手法であるエンベロープ相関法(e.g., Obara, 2002)がよく使用される.しかし,その原理として微動のみならず,通常地震も検出してしまう.この問題に対し,Nakano et al. (2018)は,畳み込みニューラルネット(CNN)を利用した通常地震・微動・ノイズの判別器を作成し,南海トラフ沿いの海域に設置されている地震・津波観測監視システム (DONET)の観測記録に対してその有効性を示した.Nakano et al. (2018)のCNNの特徴として、CNNの入力データにランニングスペクトルを利用している.ランニングスペクトルは,観測波形そのものと比較して,イベントの継続時間や震源の物理的な性質を示す周波数成分を顕著にするため,通常地震と微動の判別に適していると考えられる.

一方,近年敷設された日本海溝海底地震津波観測網(S-net)により,日本海溝における低周波微動の存在が明らかになった(Nishikawa et al., 2019).微動検出にはエンベロープ相関法を用い,継続時間により微動と通常地震の区別をしている.S-net はDONETに比べて観測点数が多く日本海溝全域に渡って配置されており,三陸沖のみならず,襟裳沖,宮城沖,そして茨城沖など広域で発生する地震や低周波微動の検出,モニタリングが期待される.

本研究では,S-netを用いた日本海溝で発生する通常地震・微動・ノイズのリアルタイム波形分類を最終目標として据え,手始めに1観測点を対象とした波形のランニングスペクトルを入力データとするCNNに基づく通常地震,微動,ノイズの判別器を作成した.対象の観測点として微動が時空間的に続発する領域の一つである,三陸沖の観測点を使用した.この観測点で捉えられた微動,通常地震,ノイズの典型例を図1に示す.ノイズ波形では,時間窓全体でおおよそ均質にパワーが分布している.微動と通常地震では,S波到着時に最も強いシグナルが観測される.通常地震ではS波到着後もコーダ波などの観測シグナルは続くが,微動では通常地震に比べてシグナルは小さく,S波到着後ただちにノイズレベルに収束する.CNNの教師データとして,通常地震については気象庁一元化カタログに記載されている通常地震のうち震央が観測点近傍120kmにあるものを,微動についてはNishikawa et al. (2019)による微動カタログに記載されている微動のうち震央が観測点近傍120kmにあるものを利用した.観測期間は,通常地震と微動のカタログの期間が重複する2016年8月15日から2018年8月15日の2年間とした.2017年12月3日までのイベントを学習用に,以降のイベントを検証用に利用した.微動,通常地震共にS/Nの良いイベントを教師データとして学習させることを目的に,イベントを含む時間窓でのPower spectral density (PSD) のレンジが大きい上位1/4のデータを教師データとして用いた.この操作により学習に利用した通常地震・微動・ノイズの個数はそれぞれ633個,1593個,1407個となった.

CNNの構成はNakano et al. (2018)を参考にした.ただし,DONETとS-netで観測されるイベント波形の違いを考慮して,以下のような変更を行った.周波数領域の信号のパワーの大小関係ではなく,形状の違いを特徴量として抽出することを狙い,入力をPSDの最大値で規格化した.PSDが周波数方向に必ずしも細かく変化しないため,周波数方向に対するプーリングを導入した.時間窓長に関して,時間分解能の向上を期待して,Nakano et al. (2018)で用いられた240秒より短い120秒の時間窓を用いた.
学習の結果、通常地震・微動・ノイズに関してそれぞれ100%,94.5%,100%の精度で分類を行うことに成功した(図2).また,CNNの判別確率と震央距離とマグニチュードの関係を調べた結果,微動に関しては震央距離が近いほど判別確率が高くなり,通常地震に関してはMwが大きいほど,震央距離が近いほど判別確率が高くなる傾向を示した.最後に連続記録に対して適用した結果,微動全体が入力時間窓に入ると微動の判別確率が上がり,窓から外れると下がることを確認した(図3).
謝辞:防災科学技術研究所より公開されているS-netの波形データを使用しました.