4:40 PM - 4:50 PM
[S24P-06] Numerical experiments towards detection of deep low-frequency tremors from seismic waveform images via convolutional neural network
概要:
深部低周波微動は防災科学技術研究所高感度地震観測網Hi-netの構築によって初めて観測的に見出された[1]ため,それに関するデジタルデータは直近の約20年分しか存在しない.数十年〜数百年という地震発生サイクルの時間スケールを考えると,過去の地震波形データにスロースリップイベントに伴う深部低周波微動が記録されているかどうかを詳しく調べ,その特徴をさらに明らかにすることは,地震学において当然検討すべき重要課題である(例えば [2]).
現在のようなデジタル記録以前においては,地震波形データはペンによって振動を連続的に記録紙に直接書き記したドラム式のアナログ紙記録として保存されていた.このようなアナログ紙記録には,深部低周波微動や通常の地震などの自然現象や,波浪起源の脈動や人為的振動などに由来するノイズの振動が記録されているだけでなく,一定時間ごとに挿入される刻時のためのパルス波形,ペンまたは記録紙の駆動部分の不具合が原因と思われる不自然な波形,ペンの消耗や記録紙の交換によって発生したと思われるデータの欠損なども含まれる.そのため,深部低周波微動を解析対象とする場合,その振幅は微弱でノイズとほぼ同等であり,しかも刻時パルスなどが重畳するため,微動の波形をデジタイズし解析に用いることは極めて困難である.
本研究では,畳み込みニューラルネットワークに基づき,アナログ紙記録から深部低周波微動を自動で検出するためのアルゴリズム開発を目指す.畳み込みニューラルネットワークとは,主に画像認識や手書き文字認証などで用いられる深層学習の手法の一種であり,人間の視覚細胞のはたらきを層の重なりによって数理的なモデルとして表現するのが特徴である.2010年代に入ってから画像認識のタスクにおいて従来の手法を遥かに上回る性能を発揮したことで注目されるようになり,現在ではスマートフォンのアプリなど我々の身近なものまで支える技術である.畳み込みニューラルネットワークの学習において人間が指定するのは主にモデルの構造のみであり,画像から特徴を抽出するために必要な内部のパラメータのチューニングはすべてコンピュータによって自動的に行われるため,人間の労力をあまり必要としない上に人間の画像認識の精度を上回る結果を得られることが期待される.そのため,モデルの構造や学習手法に関する研究は現在も盛んに行われている.例えば,2016年に発表されたResidual Network (ResNet) [3]においては,残差学習の考え方を取り入れており,一定数の層を通過したあとの出力値に元々の入力値を足し合わせるShortcut Connectionと呼ばれるシンプルな構造をモデルに組み込むことによって,深層化による過学習やパラメータ数の増加などのデメリットを軽減しつつ汎化性能を向上させることに成功している.
はじめから多種多様のノイズが入った実データを用いて一からモデルを学習させるのは困難であるため,まずは実際のアナログ記録を参考に振動現象や観測ノイズを模した疑似データを作成し,ノイズの大きさや種類を変えながらモデルの学習を行う.背景ノイズとして脈動を再現した波形と正規ノイズを加え,深部低周波微動が観測された場合と観測されなかった場合の疑似画像をそれぞれ作成し,ResNet と同じくShortcut Connectionの構造を持ったモデルにおいて学習を行った.脈動および微動を再現する波形については,正規ノイズを実際の周波数帯域に合わせてバタワースフィルタに通過させることによって作成した.その結果,図(a)のように学習済みモデルは微動の観測の有無をほぼ確実に正しく判定することができた.また,Grad-CAM [4]に基づきモデルの判定に影響を与えた部分を可視化したヒートマップを作成したところ,図(b)のように微動が観測された場合のデータに関して微動の発生時間帯まで正しく検出できることが確認できた.最終的には実データと同レベルのノイズが入った疑似データで学習させたモデルを初期モデルとして,そこから実データによる学習を行うというファインチューニングと呼ばれる手法を用いる. 本研究の目標であるアナログ紙記録からの深部低周波微動の自動検出が達成されれば,現在よりも長期間の深部低周波微動に関するデータベースの構築が可能になることが期待される.
参考文献
[1] K. Obara, Nonvolcanic deep tremor associated with subduction in southwest Japan, Science, 296, 1679-1681, 2002.
[2] M. Kano and Y. Kano, Possible slow slip event beneath the Kii Peninsula, southwest Japan, inferred from historical tilt records in 1973, Earth, Planets and Space, 71(95), 2019.
[3] K. He, X. Zhang, S. Ren and J. Sun, Deep residual learning for image recognition, 2016 IEEE Conference on Computer Vision and Pattern Recognition (CVPR), 2016.
[4] R. R. Selvaraju, M. Cogswell, A. Das, R. Vedantam, D. Parikh and D. Batra, Grad-CAM: Visual explanations from deep networks via gradient-based localization, International Journal of Computer Vision, 128, 336–359, 2020.
深部低周波微動は防災科学技術研究所高感度地震観測網Hi-netの構築によって初めて観測的に見出された[1]ため,それに関するデジタルデータは直近の約20年分しか存在しない.数十年〜数百年という地震発生サイクルの時間スケールを考えると,過去の地震波形データにスロースリップイベントに伴う深部低周波微動が記録されているかどうかを詳しく調べ,その特徴をさらに明らかにすることは,地震学において当然検討すべき重要課題である(例えば [2]).
現在のようなデジタル記録以前においては,地震波形データはペンによって振動を連続的に記録紙に直接書き記したドラム式のアナログ紙記録として保存されていた.このようなアナログ紙記録には,深部低周波微動や通常の地震などの自然現象や,波浪起源の脈動や人為的振動などに由来するノイズの振動が記録されているだけでなく,一定時間ごとに挿入される刻時のためのパルス波形,ペンまたは記録紙の駆動部分の不具合が原因と思われる不自然な波形,ペンの消耗や記録紙の交換によって発生したと思われるデータの欠損なども含まれる.そのため,深部低周波微動を解析対象とする場合,その振幅は微弱でノイズとほぼ同等であり,しかも刻時パルスなどが重畳するため,微動の波形をデジタイズし解析に用いることは極めて困難である.
本研究では,畳み込みニューラルネットワークに基づき,アナログ紙記録から深部低周波微動を自動で検出するためのアルゴリズム開発を目指す.畳み込みニューラルネットワークとは,主に画像認識や手書き文字認証などで用いられる深層学習の手法の一種であり,人間の視覚細胞のはたらきを層の重なりによって数理的なモデルとして表現するのが特徴である.2010年代に入ってから画像認識のタスクにおいて従来の手法を遥かに上回る性能を発揮したことで注目されるようになり,現在ではスマートフォンのアプリなど我々の身近なものまで支える技術である.畳み込みニューラルネットワークの学習において人間が指定するのは主にモデルの構造のみであり,画像から特徴を抽出するために必要な内部のパラメータのチューニングはすべてコンピュータによって自動的に行われるため,人間の労力をあまり必要としない上に人間の画像認識の精度を上回る結果を得られることが期待される.そのため,モデルの構造や学習手法に関する研究は現在も盛んに行われている.例えば,2016年に発表されたResidual Network (ResNet) [3]においては,残差学習の考え方を取り入れており,一定数の層を通過したあとの出力値に元々の入力値を足し合わせるShortcut Connectionと呼ばれるシンプルな構造をモデルに組み込むことによって,深層化による過学習やパラメータ数の増加などのデメリットを軽減しつつ汎化性能を向上させることに成功している.
はじめから多種多様のノイズが入った実データを用いて一からモデルを学習させるのは困難であるため,まずは実際のアナログ記録を参考に振動現象や観測ノイズを模した疑似データを作成し,ノイズの大きさや種類を変えながらモデルの学習を行う.背景ノイズとして脈動を再現した波形と正規ノイズを加え,深部低周波微動が観測された場合と観測されなかった場合の疑似画像をそれぞれ作成し,ResNet と同じくShortcut Connectionの構造を持ったモデルにおいて学習を行った.脈動および微動を再現する波形については,正規ノイズを実際の周波数帯域に合わせてバタワースフィルタに通過させることによって作成した.その結果,図(a)のように学習済みモデルは微動の観測の有無をほぼ確実に正しく判定することができた.また,Grad-CAM [4]に基づきモデルの判定に影響を与えた部分を可視化したヒートマップを作成したところ,図(b)のように微動が観測された場合のデータに関して微動の発生時間帯まで正しく検出できることが確認できた.最終的には実データと同レベルのノイズが入った疑似データで学習させたモデルを初期モデルとして,そこから実データによる学習を行うというファインチューニングと呼ばれる手法を用いる. 本研究の目標であるアナログ紙記録からの深部低周波微動の自動検出が達成されれば,現在よりも長期間の深部低周波微動に関するデータベースの構築が可能になることが期待される.
参考文献
[1] K. Obara, Nonvolcanic deep tremor associated with subduction in southwest Japan, Science, 296, 1679-1681, 2002.
[2] M. Kano and Y. Kano, Possible slow slip event beneath the Kii Peninsula, southwest Japan, inferred from historical tilt records in 1973, Earth, Planets and Space, 71(95), 2019.
[3] K. He, X. Zhang, S. Ren and J. Sun, Deep residual learning for image recognition, 2016 IEEE Conference on Computer Vision and Pattern Recognition (CVPR), 2016.
[4] R. R. Selvaraju, M. Cogswell, A. Das, R. Vedantam, D. Parikh and D. Batra, Grad-CAM: Visual explanations from deep networks via gradient-based localization, International Journal of Computer Vision, 128, 336–359, 2020.