日本地震学会2022年度秋季大会

講演情報

ポスター会場(1日目)

一般セッション » S01. 地震の理論・解析法

[S01P] PM-P

2022年10月24日(月) 15:30 〜 18:00 P-1会場 (10階(1010〜1070会議室))

15:30 〜 18:00

[S01P-05] 2次元ランダム不均質媒質中での歪エンベロープの特徴

*江本 賢太郎1 (1. 九州大学)

近年普及してきた光ファイバーケーブルを利用したDAS(Distributed Acoustic Sensing)観測では,一本の光ファイバーケーブルで,数十kmの距離を数m間隔で計測することが可能であり,海底や火山,そして市街地などでの超高密度地震観測を行う新たな観測手法として期待が高まっている.低コストで超高密度観測ができるメリットの一方で,得られるデータには制約がある.DASでは,光ファイバーケーブルに沿った各場所での歪(もしくは歪速度)が出力される.これは従来の地震計の出力の空間微分に相当する物理量であり,従来の波形解析手法をDASのデータにそのままでは適用できない場合もある.また,3成分地震計と異なり,ケーブルに沿った一方向の歪しか得ることができない.
地震波が微細不均質媒質中を伝播すると,散乱の影響で波形が崩れ,エンベロープ幅が広がったり,長く続くコーダ波が励起されたりする.江本・他(2022JpGU)では,多重前方散乱近似に基づき,歪波形のエンベロープは,速度波形のエンベロープに比べて,微細不均質媒質を強く受け,エンベロープ幅が広がることが示された.本研究では,2次元差分法シミュレーションを用いて,歪エンベロープのコーダの特徴を調べる.一般に,S波走時の2倍以降のコーダは,等方的な散乱波によって構成されているとみなされるが,速度と歪では,散乱波の入射方向に対する感度が異なるため,速度と歪のエンベロープ形状が同様の特徴を示すかどうかは自明ではない. 

不均質媒質として,特徴的スケール1km,ゆらぎのRMS値5%の指数関数型自己相関関数で特徴づけられるランダムなゆらぎを考える.平均P波速度,S波速度をそれぞれ,6km/s,3.46km/sとし,2次元弾性体でのP-SVの運動方程式を有限差分法により解く.媒質のサイズは,一辺が約400kmの正方形とし,中心に震源時間関数(3Hz)の等方P波震源を設置する.震源から同心円上に100kmまで10km間隔で観測点を設置する.各距離においては10度間隔で36個の観測点が存在する.各観測点で,動径方向(R方向)とそれに直行する方向(T方向)の速度波形に加えて,RR成分,TT成分,RT成分の歪波形を出力する.シードを変えた50個のランダム不均質媒質でシミュレーションを行い,統計的な特徴を議論する.

各伝播距離での平均二乗エンベロープは,速度のR成分はP波のピーク後単調減少となるが,T成分はPS変換散乱により,一度減少したP波コーダの振幅が徐々に大きくなり,S波到達時刻付近で2つ目のピークが現れる.歪のRR成分やTT成分では,PS変換散乱の影響は少なく,P波のピーク後は,ほぼ単調減少となる.エンベロープの比を調べると,R/TはP波のピーク後からS波走時にかけて一度減少し1以下となるが,その後徐々に増加し1に収束する.歪エンベロープの比(RR/TT)は,P波のピーク後に単調減少し1へと収束する.速度と異なり,歪の場合は,S波の入射方向に対して4象限型の感度を持つ.これにより,PS変換された散乱波に対しても,RR成分とTT成分で差が出にくくなっていると考えられる.R/TもRR/TTも,S波走時の2倍の時刻では,ほぼ1.1以内に収まっており,この時刻以降の解析では,光ファイバーケーブルの向きを気にする必要がない.コーダ部分におけるエンベロープの減少率を示すコーダQは,速度のR成分・T成分,歪のRR成分・TT成分で,有意な差はなかった.今回のシミュレーションでは内部減衰を入れていないが,内部減衰はどの成分も同様に減衰させるとすると,この結果は,歪エンベロープから推定したコーダQも,従来の地震計で推定したコーダQと同様の解釈が可能であることを示唆する.これらの結果から,コーダ部分であれば,物理量が歪であることやケーブルの形状を考慮しない解析が可能であると言える.ただし,コーダは広い領域をサンプルする統計的な量であり,DASの超高密度観測という利点を鈍らせるため,どの場所の構造を反映しているのか,感度カーネルの考察が重要となる.また,歪のRT成分のエンベロープ形状は,速度のT成分と同様に,2つのピークを持つ.この速度のT成分と歪のRT成分のエンベロープ形状の類似性は,多重前方散乱近似から導出した数式表現と同様の特徴である.