The 2022 SSJ Fall Meeting

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Room C

Regular session » S02. Seismometry and monitoring system

[S02] PM-2

Wed. Oct 26, 2022 3:00 PM - 4:15 PM ROOM C (8th floor (Training Room 820))

chairperson:Hajime Shiobara(Earthquake Research Institute, The University of Tokyo), Toshinori Sato(Chiba University)

4:00 PM - 4:15 PM

[S02-10] Long-term test for practical mobile tilt observation at the seafloor: temperature coefficient

*Hajime SHIOBARA1, Masanao Shinohara1, Toshinori Sato2, Aki Ito3, Hiroko Sugioka4 (1. Earthquake Research Institute, the University of Tokyo, 2. Chiba University, 3. JAMSTEC, 4. KOBEC, Kobe University)

1. はじめに
 機動的な海底傾斜変動観測の実用化に向け、新型の広帯域海底地震計(BBOBS-NX)を基にしたBBOBST-NXによる長期観測について2014年・2017年・2021年の地震学会で報告した[1][2][3]。今回は、2020年に回収したBBOBST-NXの観測データに見られた傾斜値の温度依存性についての続報である。

2. 計測・処理方法
 BBOBS-NXでは独立した広帯域センサー部が海底面に大半埋設されており、底層流の影響による傾斜変動はほぼ無く、海底堆積層との結合も良好である。広帯域センサーの水平動2成分のマスポジション信号(加速度出力)を速度信号3成分と併せ連続記録するBBOBST-NXは、広帯域地震・傾斜変動を同時観測できる(図A)。実際に得られた記録には、広帯域センサーの経時変化とマスのセンタリングによるシフトが見られる。シフトの前後で記録はほぼ連続しており、シフト分を補正した後に適当な関数(1次+対数)をgnuplotを使い当てはめ、経時変化を差し引き、傾斜変動の記録を得る。海底での潮汐による傾斜変動は約0.1µradと小さいがbaytap08プログラム[4]を適用して潮汐成分を取り除く。

3. 長期試験観測と取得データ
 房総半島南東沖で繰り返しSSEが発生している領域で2013–2014年、2015–2017年に長期試験観測を実施した。初回は数m離れた流向流速計で、2回目は自記式精密水温計をBBOBST-NXの外装に取り付け、水温等も記録した。基本的な処理を済ませた傾斜変動には、2成分共に水温変化との明確な関連性(約-30 µrad/°C)が見えた(図B)。同じ個体の広帯域センサーを用いた、2012-2013年と2013-2014年の過去2回での試験観測での結果[5]では、傾斜変動と水温変化の関係が明確に示せなかったが、2015-2017年の観測結果からは温度依存性が確認できた。これらの傾斜変動と水温変化の関係を見ると、全て共通して負の温度係数で傾斜値が変化していることから、水塊移動による傾斜変動ではなく、BBOBST-NX自体での温度依存性であると判断できる。この温度依存性の影響を傾斜変動から除去する方法を試し、周波数領域で温度係数を推定してその分を差し引くことにした。過去2回の傾斜記録に対しても同様な処理を行ったが温度係数が、同じオーダーではあるがやや異なった。この処理後、2014年のSSE時に見られた傾斜変動は、2成分共にその存在が明確になった。

4. 温度依存性の要因
 過去3回の海底傾斜観測時には同一個体の広帯域センサーを使用していたが、温度係数には差があるように見られた。これは広帯域センサーと水温測定場所との距離がそれぞれで異なるのが原因とも考えられる。また一方で、BBOBST-NXのセンサー部の構造(図C)から、3成分の各1成分を内蔵する筒型耐圧容器間を固定しているチタン合金製のバーの膨張係数(8.8x10-6/°C)でも同程度の傾斜変化が起こる可能性もある。そこで、広帯域センサー自体のマスポジション信号の温度依存性を確認するべく、高精度の小型自記温度計を使った室内試験を2022年7-8月に地震研究所内の実験室環境で実施した。安定したマスポジション信号が得られた約3週間分の傾斜変動と広帯域センサーの容器(メーカー出荷用、3成分一体)内での温度変化を比較すると、既知の温度係数より小さい、約-10 µrad/°Cと見られた。但し、この広帯域センサーの個体が上記の海底傾斜観測時(図B)のものとは異なること、温度係数自体が温度に依存する可能性もあることから、まだ完全には結論付けられない。

5. まとめ
 室内試験の結果からは、やはり広帯域センサー内部での精密温度計測を行い、その温度係数を推定することが重要であるのが明確となった。広帯域センサー自体に高精度の温度測定機能を組み込むことが必要であり、今後、製造会社と協議する予定である。

参考文献
[1] 塩原・他, 日本地震学会秋季大会, C32-09, 2014.
[2] 塩原・他, 日本地震学会秋季大会, S02-07, 2017.
[3] 塩原・他, 日本地震学会秋季大会, S02-02, 2021.
[4] Tamura, Y., et al., GJI, 104, 507-516, 1991.
[5] Shiobara, H., et al., Front. Earth Sci., 8:599810, 2021.