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[S09P-06] Temporal variation of seismic attenuation around the slow-slip events area in southwestern Ibaraki prefecture
我々は、スロースリップ発生域周辺における地震波減衰構造及び地震活動の時間変化を調べることにより、スロースリップの発生過程を考察している。茨城県南西部に沈み込むフィリピン海プレートの上部境界面では、スロースリップが深さ約50km付近で周期的に発生している。Nakajima and Uchida(2018)は、茨城県南西部で発生する繰り返し地震の活動から推定したプレート境界面の滑り速度と、その直上におけるP波の減衰構造の時間相関を調べ、1年周期のスロースリップの発生がプレート境界から上盤大陸プレートへの排水を引き起こすモデルを提案した。一方、Warren-smith et al.(2019)やKita et al.(2021)は、それぞれニュージーランドのヒクランギ沈み込み帯北部と西南日本の紀伊半島沖で発生するスラブ内地震活動を解析することで、スロースリップに先行して、沈み込むプレート内上部の間隙水圧が上昇していると考察した。本研究では、茨城県南西部において上盤プレートとスラブ内の地震活動と地震波減衰構造を調べることにより、スロースリップ発生前後における水の挙動を定量的に考察し、より理解を深めることを目的としている。 本研究では、次の2つの解析をおこなった。1つ目の解析はNakajima and Uchida (2018)では解析されていない上盤プレート内のQs-1の推定、及びQp−1とQs−1の時間変化の定量的な比較である。二点目はスロースリップ発生域直下に位置する沈み込むフィリピン海スラブ内における地震波減衰構造の時間変化である。これらの解析は、スロースリップを引き起こす原因となりうる水の移動を理解する重要な手がかりとなる。 本研究では、2009年から2021年の間に発生した349個の地震から、上盤-プレート境界地震の地震ペアと、プレート境界-スラブ内地震の地震ペアを使用し、スペクトル比を解析することで、上盤内のQp−1,Qs−1とスラブ内のQp−1を推定した(詳しい手法はNakajima and Uchida, 2018を参照)。また、それぞれのコーナー周波数は、上盤地震とプレート境界地震についてはスペクトル比法で推定したものを使用し、スラブ内地震については応力降下量(100MPa)を仮定して理論的に求めたものを使用した。解析に用いた地震波形はMeSO-netの8観測点において200Hzサンプリングで記録されたものである。周波数帯は20-45Hzを解析の対象とした。震源の情報は、気象庁1元化震源カタログと、Igarashi(2020)の繰り返し地震カタログから使用した。 上記の解析から、3つの主要な結果を得た。 1. Nakajima and Uchida(2018)で提案された約1年周期のスロースリップによる上盤プレートへの排水は,少なくとも2019年まで続いている 2. 上盤プレート内ではQs-1もQp-1と同様な時間変化を示したが、Qp-1よりも小さい値を示した。この結果は、水に起因する地震波の減衰メカニズムの理解につながる可能性がある。 3. スロースリップ発生域直下のスラブ内のQp-1は時間変化し,スロースリップに先行して大きくなる。スロースリップの発生の前に、脱水反応によりスラブ内に水が蓄積される過程を示している可能性がある。