日本地震学会2022年度秋季大会

講演情報

D会場

一般セッション » S10. 活断層・歴史地震

[S10] PM-1

2022年10月26日(水) 13:30 〜 14:45 D会場 (5階(520研修室))

座長:木村 治夫(電力中央研究所)、大上 隆史(産業技術総合研究所 地質調査総合センター 活断層・火山研究部門)

14:00 〜 14:15

[S10-03] 1896年陸羽地震地表地震断層南端部周辺の重力異常

*木村 治夫1、青柳 恭平1、髙橋 秀暢1、戸村 元史2、野田 克也2 (1. 一般財団法人 電力中央研究所 サステナブルシステム研究本部 地質・地下環境研究部門、2. 株式会社 ジオシス)

【はじめに】 本研究では横手盆地東縁断層帯について,1896年の陸羽地震(Mjma = 7.2)の際に明瞭な地表変位を生じた北部区間と,1896年地震の際の地表地震断層の出現が報告されていない南部区間で,地下構造の特徴にどのような違いがあるかを明らかにするために,重力探査を実施した.

【横手盆地東縁断層帯】 本断層帯は,東北地方の秋田県仙北市から横手市を経て湯沢市に至る,南北走向で約56 kmの断層長を有する東側隆起の逆断層であり,大局的には横手盆地と東方の山地との境界に沿うように分布する(地震調査研究推進本部地震調査委員会, 2005, 横手盆地東縁断層帯の評価, 23p).同断層帯は1896年の陸羽地震時に,北方の駒ヶ岳西麓断層群および東方の真昼山山地東縁断層帯の一部と共に活動し,横手盆地東縁断層帯の北部(約26 km,白岩断層・太田断層・千屋断層・金沢断層北部)では,明瞭な地表地震断層が出現した(例えば,山崎,1896, 震災予防調査会報告, 11, 50–74; 松田ほか, 1980, 東京大学地震研究所彙報, 55, 795–855).しかし,同断層帯の南部(約30 km,金沢断層南部・杉沢断層・大森山断層)では顕著な地表変位は報告されていない.

【重力探査】 本探査は,横手盆地東縁断層帯北部の仙北郡美郷町北部を北縁とし,同断層帯南部の湯沢市稲川地区付近を南端とする南北約40 km,また,同断層帯の主部をほぼ中心軸とする東西約10 kmの範囲において実施した.重力測定にはカナダScintrex社製CG-6 Autograv(相対重力計)を用いて,東西南北約1 kmの間隔で,総数410点において測定を実施した.各々の重力観測点では,GPS測量によって位置座標と標高値を計測した.また,重力観測点近傍(観測点から0~20m程度の範囲)の地形の特徴について記載した.これらの現場データ取得作業は2組の機材を用いて,2グループに分かれて実施した.データ取得作業の実施期間は,2020年8月20日から9月15日である.

【重力異常】 取得したデータをもとに,機械高補正,閉合ドリフト補正,地形補正,緯度補正,フリーエア補正,ブーゲー補正を行い,仮定密度を2.00, 2.30, 2.67 g/cm3とするブーゲー異常図を作成した.いずれの仮定密度によるブーゲー異常図でも,1896年陸羽地震地表地震断層南端部(横手盆地東縁断層帯の北部区間の南端部)周辺は,東西に伸びる高重力異常部の嶺に相当することがわかった.また,同断層帯付近および東方地域に注目すると,北部区間に比べて南部区間では低重力異常部-高重力異常部の境界がステップするように西側へ張り出していることがわかった.加えて,より広域的な重力異常に基づく北北東-南南西走向の一次傾向面除去を行って,残差重力図を作成した.得られた残差重力図でも,上記ブーゲー異常図で見られたものと同様の特徴が見られた.さらに,同断層帯の北部区間-南部区間境界付近~やや南方においてとくに高重力異常が大きい場所が見られ,こうした場所は弥勒層中の安山岩の表層分布域(臼田ほか, 1976, 秋田県総合地質図幅「六郷」および説明書,1:50,000)に対応していることがわかった.

【三次元密度構造】 先述した探査範囲について100 mグリッドの三次元インバージョン解析を行って地表から深度約4.5 kmまでの密度構造モデルを作成した.この三次元モデルから,断層とほぼ平行な方向の断面を切り出して,横手盆地東縁断層帯北部区間-南部区間周辺の密度構造の変化について検討した.その結果,上述した同断層帯の北部区間-南部区間境界付近~やや南方のとくに大きな高重力異常部に対応する地下の高密度領域は,地下2 km以深へも連続していることがわかった.したがって,この高重力異常部は,表層に分布する弥勒層中の安山岩だけではなく,探査範囲でより深部に分布する真昼川層中の玄武岩,あるいはさらに深部の地質に起因するものと考えられる.いずれにせよ,本研究で見られた1896年陸羽地震地表地震断層南端部周辺の高重力異常は,地下深部の地震発生層における密度構造を反映している可能性がある.