10:45 AM - 11:00 AM
[S15-11] Real-time forecast of long-period ground motions using Green's function based on seismic interferometry
1. はじめに
地震波干渉法から求めたグリーン関数を用いて、震源域近傍の強震観測データを入力値として遠地の平野で生成する長周期地震動を即時に予測する手法を検討した。
既往研究では、震源域近傍の基準観測点と予測地点の間のグリーン関数(伝達関数、応答関数)は、自然地震の波形データ(Nagashima et al., 2008; 倉橋ほか、2014)あるいは地震波伝播シミュレーション(吉本・武村、2018)から求められてきた。これに対し本研究では、基準観測点と予測地点の微動の相互相関を求める地震波干渉法により、2地点間のグリーン関数を作成した。地震波干渉法によるグリーン関数の導出は、近年Viens et al.(2017)やDenolle et al.(2018)らにより有効性が示されており、解析データを長期間スタックすることで自然地震を用いた場合よりも長周期側のS/N比の向上が期待される。さらに、自然地震の観測記録がない場所でもグリーン関数を算出できる点や、シミュレーションで見られる速度構造モデルの不正確性の影響を受けない点もメリットである。なお、地震波干渉法によるグリーン関数の絶対振幅は震源―観測点間の地下構造と非弾性減衰(Q)により規定されることが知られており(地元・山中、2012)、本研究ではDenolle et al.(2018)に倣い、微動のグリーン関数と自然地震のグリーン関数の振幅を比較することで、振幅補正係数を得た。
2. データと手法
解析には防災科学技術研究所のHi-netのデータを用いた。基準観測点はN.AKWH(愛川)観測点とし、観測点間距離400 km以内、方位角210度から260度(南海トラフ地震の想定震源域の方向)に位置する88点のHi-net観測点(Fig. 1a)を予測対象地点として相互相関を計算した。Viens et al.(2017)の手順を参考とし、50 %のオーバーラップの下で長さ60分に分割した微動データに対して、4 Hzのダウンサンプリング、トレンド除去、コサインテーパー適用を行った上で、FFTを用いて各予測地点の波形記録から基準観測点の波形記録をdeconvolutionした。これを2022年5月1日〜30日までスタックして、基準観測点―各予測地点間のグリーン関数を求めた。
次に、得られたグリーン関数の振幅補正係数を求めるため、茨城県南部を震源とするM 5.6の地震についてdeconvolutionにより基準観測点―各予測地点間のグリーン関数を計算し、最大振幅を調べた。地震波干渉法による微動のグリーン関数との振幅比は、基準観測点と各観測点の平均的な速度構造や減衰構造を反映するものであり、距離依存性があると考えられる。しかし、本研究で対象とする長周期地震動ではQの影響は小さいと考え、全予測地点における最大振幅比の平均値(64.9)を振幅補正係数として用いた。
3. 結果
地震波干渉法により得られた基準観測点(N.AKWH)から各予測地点への地震波伝播のグリーン関数(EW成分)をFig. 1bに示す。図では、得られたグリーン関数に周期2-10 sのバンドパスフィルターをかけ最大値で規格化したものを、N.AKWHからの距離順に200 kmまで並べている。縦軸はN.AKWHから各観測点の距離、横軸はLag timeである。グリーン関数のシグナルは、t > 0のcausal partにおいて明瞭に表れており、微動が主に基準観測点の東側から到来したことを意味している。
得られた微動のグリーン関数を、各予測地点と基準観測点の並びの延長線上近傍で起きた茨城県南部の地震(M 5.6、深さ47 km)の基準観測点での観測波形に対してconvolutionし、振幅補正係数をかけることで、各地点における長周期地震動波形を予測した。Fig. 2に結果の例として、基準観測点N.AKWHでの入力波形、11 km及び138 km離れた予測地点N.KIYH(清川)とN.KG3H(掛川3)とのグリーン関数、及び2つの予測地点における予測波形・速度応答スペクトル(h=5%)を示す。また、比較のために実際の観測波形と速度応答スペクトルを赤線で重ねて示す。
予測波形と観測波形は良い一致を示し、波形の最大振幅比はN.KIYHで1.0、N.KG3Hで0.9となり、振幅補正係数を含めて適切に予測できていることが確認できた。周期2-10 sにおける速度応答スペクトルの計算/観測比 は、N.KIYHで1.26、N.KG3Hで0.85となり、この他の地点においても6割で0.4〜2.5の範囲であった。一方、波形の山谷を含めた一致は難しく、N.KG3Hの予測波形はP波の立ち上がり時刻が観測波形よりも早くなったほか、2地点とも予測波形のSコーダ波の振幅は観測波形よりも大きくなり、観測波形と予測波形の相関係数は、N.KIYHで0.36、N.KG3Hで0.18のやや小さい値となった。
4. まとめと今後の課題
本研究では、長周期地震動の即時予測に向けて、地震波干渉法により得られたグリーン関数を用いた地震動予測の実現性を確認した。グリーン関数の高精度化に向けて、微動データのスタック期間の影響や、振幅補正係数の震源や伝播経路の依存性など、より詳細な検討が必要である。また、今回は関東地方の地震を対象に西南日本の地点の地震動の予測を行ったが、大きな被害が予想される南海トラフや日本海溝沿いの巨大地震への応用に向け、これらの想定震源域で発生した地震を用いた予測手法の検証が必要である。
地震波干渉法から求めたグリーン関数を用いて、震源域近傍の強震観測データを入力値として遠地の平野で生成する長周期地震動を即時に予測する手法を検討した。
既往研究では、震源域近傍の基準観測点と予測地点の間のグリーン関数(伝達関数、応答関数)は、自然地震の波形データ(Nagashima et al., 2008; 倉橋ほか、2014)あるいは地震波伝播シミュレーション(吉本・武村、2018)から求められてきた。これに対し本研究では、基準観測点と予測地点の微動の相互相関を求める地震波干渉法により、2地点間のグリーン関数を作成した。地震波干渉法によるグリーン関数の導出は、近年Viens et al.(2017)やDenolle et al.(2018)らにより有効性が示されており、解析データを長期間スタックすることで自然地震を用いた場合よりも長周期側のS/N比の向上が期待される。さらに、自然地震の観測記録がない場所でもグリーン関数を算出できる点や、シミュレーションで見られる速度構造モデルの不正確性の影響を受けない点もメリットである。なお、地震波干渉法によるグリーン関数の絶対振幅は震源―観測点間の地下構造と非弾性減衰(Q)により規定されることが知られており(地元・山中、2012)、本研究ではDenolle et al.(2018)に倣い、微動のグリーン関数と自然地震のグリーン関数の振幅を比較することで、振幅補正係数を得た。
2. データと手法
解析には防災科学技術研究所のHi-netのデータを用いた。基準観測点はN.AKWH(愛川)観測点とし、観測点間距離400 km以内、方位角210度から260度(南海トラフ地震の想定震源域の方向)に位置する88点のHi-net観測点(Fig. 1a)を予測対象地点として相互相関を計算した。Viens et al.(2017)の手順を参考とし、50 %のオーバーラップの下で長さ60分に分割した微動データに対して、4 Hzのダウンサンプリング、トレンド除去、コサインテーパー適用を行った上で、FFTを用いて各予測地点の波形記録から基準観測点の波形記録をdeconvolutionした。これを2022年5月1日〜30日までスタックして、基準観測点―各予測地点間のグリーン関数を求めた。
次に、得られたグリーン関数の振幅補正係数を求めるため、茨城県南部を震源とするM 5.6の地震についてdeconvolutionにより基準観測点―各予測地点間のグリーン関数を計算し、最大振幅を調べた。地震波干渉法による微動のグリーン関数との振幅比は、基準観測点と各観測点の平均的な速度構造や減衰構造を反映するものであり、距離依存性があると考えられる。しかし、本研究で対象とする長周期地震動ではQの影響は小さいと考え、全予測地点における最大振幅比の平均値(64.9)を振幅補正係数として用いた。
3. 結果
地震波干渉法により得られた基準観測点(N.AKWH)から各予測地点への地震波伝播のグリーン関数(EW成分)をFig. 1bに示す。図では、得られたグリーン関数に周期2-10 sのバンドパスフィルターをかけ最大値で規格化したものを、N.AKWHからの距離順に200 kmまで並べている。縦軸はN.AKWHから各観測点の距離、横軸はLag timeである。グリーン関数のシグナルは、t > 0のcausal partにおいて明瞭に表れており、微動が主に基準観測点の東側から到来したことを意味している。
得られた微動のグリーン関数を、各予測地点と基準観測点の並びの延長線上近傍で起きた茨城県南部の地震(M 5.6、深さ47 km)の基準観測点での観測波形に対してconvolutionし、振幅補正係数をかけることで、各地点における長周期地震動波形を予測した。Fig. 2に結果の例として、基準観測点N.AKWHでの入力波形、11 km及び138 km離れた予測地点N.KIYH(清川)とN.KG3H(掛川3)とのグリーン関数、及び2つの予測地点における予測波形・速度応答スペクトル(h=5%)を示す。また、比較のために実際の観測波形と速度応答スペクトルを赤線で重ねて示す。
予測波形と観測波形は良い一致を示し、波形の最大振幅比はN.KIYHで1.0、N.KG3Hで0.9となり、振幅補正係数を含めて適切に予測できていることが確認できた。周期2-10 sにおける速度応答スペクトルの計算/観測比 は、N.KIYHで1.26、N.KG3Hで0.85となり、この他の地点においても6割で0.4〜2.5の範囲であった。一方、波形の山谷を含めた一致は難しく、N.KG3Hの予測波形はP波の立ち上がり時刻が観測波形よりも早くなったほか、2地点とも予測波形のSコーダ波の振幅は観測波形よりも大きくなり、観測波形と予測波形の相関係数は、N.KIYHで0.36、N.KG3Hで0.18のやや小さい値となった。
4. まとめと今後の課題
本研究では、長周期地震動の即時予測に向けて、地震波干渉法により得られたグリーン関数を用いた地震動予測の実現性を確認した。グリーン関数の高精度化に向けて、微動データのスタック期間の影響や、振幅補正係数の震源や伝播経路の依存性など、より詳細な検討が必要である。また、今回は関東地方の地震を対象に西南日本の地点の地震動の予測を行ったが、大きな被害が予想される南海トラフや日本海溝沿いの巨大地震への応用に向け、これらの想定震源域で発生した地震を用いた予測手法の検証が必要である。