11:45 〜 12:00
[S15-14] 成層構造における直達S波の透過率を考慮した地震動距離減衰特性の検討:中国地方における内陸地震群の距離減衰特性
■はじめに
内陸地震の震源近傍地震動の予測は工学的に重要な課題の一つである.震源近傍では震源からの直達S波(DS)が最大の入射成分であるが,DSは成層構造内の透過率(CTR)の影響で震央距離(Δ)とともに急減するため,遠方では地殻内部で反射・屈折を経た間接的なS波群(IS)が支配的となる1).そこで本研究では,DSとISの距離減衰モデルをそれぞれ設定し,両者の和によって地震動全体の距離減衰特性を表すモデル化を試みている.既往研究1), 2)では近畿地方,福島県浜通・茨城県北部において適用性を検討し,震源近傍地震動の再現性の観点で有効性を確認した.今回は中国地方に適用した結果を報告する.
■距離減衰特性のモデルと解析法
本研究ではS波部分の観測地震動(OBS)を観測地点の相対サイトファクター(RSF)で除して得られる基盤地震動(BRM)を扱う3).震源距離rにおける周波数fのBRMの振幅をABRM(f)とし,これをDSの振幅ADS(f)とISの振幅AIS(f)を用いて次式で表す.
ABRM 2 (f) = ADS2(f)+ AIS2(f) …(1).
また,ADS(f)とAIS(f)はそれぞれ次のように表す.
ADS(f) = SDS(f)×r −1 CTR(h, Δ) exp[−bDS(f) r] …(2), AIS(f) = SIS(f)×r −0.5 exp[−bIS(f) r] …(3).
ただし,SDS(f)とSIS(f)はDS,ISの地震項であり,両者の間に一定の倍率:CIS(f) = SDS(f) / SIS(f)を仮定する.また,CTR(h, Δ)はJMA20014)を仮定した場合のDSの透過率,bDS(f)とbIS(f)はそれぞれDSとISのQ値効果による距離減衰係数である.
このモデルを観測データに当てはめる場合,未知数は地震毎のSDS(f)と全地震共通のCIS(f),bDS(f),bIS(f)であり,対数振幅のrms誤差を評価関数として非線形最適化手法を適用して求める.
なお,BRMの算出(OBS/RSF)は線形地盤応答が前提であるが,震源近傍の大振幅記録では地盤応答が非線形化する問題がある.今回はPGA≧200Galの地表記録を対象に,KiK-net地点では地表/地中(GL/DH),K-NET地点では水平/上下(H/V)について,小振幅時の平均値に対する強震時の比RNL(f)を求め,OBS(f)/RNL(f)によって線形化補正を試みた.
■データ
今回は表1に示すM≧5.0の10地震を対象とし,既検討2)と同様にr≦90kmの記録を扱った.震央と観測地点の分布を図1に示す.また,解析データの例として,7Hz帯域における線形化補正前後のBRM振幅の距離減衰分布を図2に示す.
■結果
2000/10/06鳥取県西部地震の7Hz帯域を例にして得られた距離減衰曲線とBRMとの対応関係を図3に示す.DSは震源近傍で卓越するがr = 40 km付近で消失し,遠方ではISが主要な成分となる.
最適化によるCIS(f)を他の地域の結果1), 2)と合わせて図4に示す.CIS(f)はいずれの地域でも概ね0.1前後の値である.また,各地震のSDS(f)を図5に示す.SDS(f)の大小関係は概ねMwに従っている.図6では2016/10/21鳥取県中部の地震(M6.6)のSDS(f),SIS(f)を波形インバージョン5)による震源スペクトルS(f)と比較した.SDS(f)>S(f)>SIS(f)の傾向は他地域1), 2)と同様である.
図7はDSとISのQ値と従来の線形回帰(lnA = c-lnr-br)によるQ値であり,それぞれ大振幅データに線形化補正をした場合(Corrected Data),しなかった場合(Observed Data)の結果を示している.DSのQ値だけが線形化補正で大きく変わっている.
■誤差
全距離範囲ではモデルや線形化補正による誤差の違いは小さい(図8).しかし,震源近傍(r≦20km)では,従来法(LSQ)が高周波数側で過小評価になること(図9),線形化補正が高周波領域のばらつき低減に効果があること(図10)が分かる.
■まとめ
本研究の距離減衰モデルの震源近傍における適用性を確認し,大振幅記録に対する線形化補正が高周波数領域の精度向上に関して有効であることを確認した.
■謝辞
防災科学技術研究所K-NET, KiK-net, F-netのデータを使用させていただきました.記して感謝します.
■参考文献
1)池浦(2021)地震学会年大会, 2)池浦(2022)JpGU, 3)池浦(2020)日本地震工学会論文集, 4)上野他(2002)験震時報, 5)気象庁(2017)国内の地震の解析結果
内陸地震の震源近傍地震動の予測は工学的に重要な課題の一つである.震源近傍では震源からの直達S波(DS)が最大の入射成分であるが,DSは成層構造内の透過率(CTR)の影響で震央距離(Δ)とともに急減するため,遠方では地殻内部で反射・屈折を経た間接的なS波群(IS)が支配的となる1).そこで本研究では,DSとISの距離減衰モデルをそれぞれ設定し,両者の和によって地震動全体の距離減衰特性を表すモデル化を試みている.既往研究1), 2)では近畿地方,福島県浜通・茨城県北部において適用性を検討し,震源近傍地震動の再現性の観点で有効性を確認した.今回は中国地方に適用した結果を報告する.
■距離減衰特性のモデルと解析法
本研究ではS波部分の観測地震動(OBS)を観測地点の相対サイトファクター(RSF)で除して得られる基盤地震動(BRM)を扱う3).震源距離rにおける周波数fのBRMの振幅をABRM(f)とし,これをDSの振幅ADS(f)とISの振幅AIS(f)を用いて次式で表す.
ABRM 2 (f) = ADS2(f)+ AIS2(f) …(1).
また,ADS(f)とAIS(f)はそれぞれ次のように表す.
ADS(f) = SDS(f)×r −1 CTR(h, Δ) exp[−bDS(f) r] …(2), AIS(f) = SIS(f)×r −0.5 exp[−bIS(f) r] …(3).
ただし,SDS(f)とSIS(f)はDS,ISの地震項であり,両者の間に一定の倍率:CIS(f) = SDS(f) / SIS(f)を仮定する.また,CTR(h, Δ)はJMA20014)を仮定した場合のDSの透過率,bDS(f)とbIS(f)はそれぞれDSとISのQ値効果による距離減衰係数である.
このモデルを観測データに当てはめる場合,未知数は地震毎のSDS(f)と全地震共通のCIS(f),bDS(f),bIS(f)であり,対数振幅のrms誤差を評価関数として非線形最適化手法を適用して求める.
なお,BRMの算出(OBS/RSF)は線形地盤応答が前提であるが,震源近傍の大振幅記録では地盤応答が非線形化する問題がある.今回はPGA≧200Galの地表記録を対象に,KiK-net地点では地表/地中(GL/DH),K-NET地点では水平/上下(H/V)について,小振幅時の平均値に対する強震時の比RNL(f)を求め,OBS(f)/RNL(f)によって線形化補正を試みた.
■データ
今回は表1に示すM≧5.0の10地震を対象とし,既検討2)と同様にr≦90kmの記録を扱った.震央と観測地点の分布を図1に示す.また,解析データの例として,7Hz帯域における線形化補正前後のBRM振幅の距離減衰分布を図2に示す.
■結果
2000/10/06鳥取県西部地震の7Hz帯域を例にして得られた距離減衰曲線とBRMとの対応関係を図3に示す.DSは震源近傍で卓越するがr = 40 km付近で消失し,遠方ではISが主要な成分となる.
最適化によるCIS(f)を他の地域の結果1), 2)と合わせて図4に示す.CIS(f)はいずれの地域でも概ね0.1前後の値である.また,各地震のSDS(f)を図5に示す.SDS(f)の大小関係は概ねMwに従っている.図6では2016/10/21鳥取県中部の地震(M6.6)のSDS(f),SIS(f)を波形インバージョン5)による震源スペクトルS(f)と比較した.SDS(f)>S(f)>SIS(f)の傾向は他地域1), 2)と同様である.
図7はDSとISのQ値と従来の線形回帰(lnA = c-lnr-br)によるQ値であり,それぞれ大振幅データに線形化補正をした場合(Corrected Data),しなかった場合(Observed Data)の結果を示している.DSのQ値だけが線形化補正で大きく変わっている.
■誤差
全距離範囲ではモデルや線形化補正による誤差の違いは小さい(図8).しかし,震源近傍(r≦20km)では,従来法(LSQ)が高周波数側で過小評価になること(図9),線形化補正が高周波領域のばらつき低減に効果があること(図10)が分かる.
■まとめ
本研究の距離減衰モデルの震源近傍における適用性を確認し,大振幅記録に対する線形化補正が高周波数領域の精度向上に関して有効であることを確認した.
■謝辞
防災科学技術研究所K-NET, KiK-net, F-netのデータを使用させていただきました.記して感謝します.
■参考文献
1)池浦(2021)地震学会年大会, 2)池浦(2022)JpGU, 3)池浦(2020)日本地震工学会論文集, 4)上野他(2002)験震時報, 5)気象庁(2017)国内の地震の解析結果