09:30 〜 12:00
[S15P-02] 条件付き敵対的生成ネットワークで作成した時刻歴波形の逆問題への適用
1.はじめに
条件付き敵対的生成ネットワーク (Conditional Generative Adversarial Networks; cGAN) とスペクトルインバージョン解析を組合せ,振幅特性と経時特性にある確率分布をもった時刻歴波形群を出力する手法の検討を進めている(山口・他,本大会)。本報告では,この新しい提案手法に基づき生成した時刻歴波形の妥当性の確認の一つとして,生成した時刻歴波形群を用いて,観測記録を再現する破壊開始点の推定を行った。
2.推定手法
観測点ごとの経験的特徴を反映した時刻歴波形群の生成は山口・他(本大会)の手法を用い,観測点ごとの経験的地盤増幅率と,伝播経路特性の不均質Q値は友澤・引田(本大会)の結果を用いた。インバージョン手法については,エンベロープインバージョン (Nakahara et al., 1998) 等の先行研究があるが,本検討では生成した時刻歴波形の妥当性の確認を主目的とし,以下のような簡易な逆問題を検討した。誤差関数は,加速度波形の全パワーで正規化された累積パワー曲線Pc(Husidプロット)の観測と計算の差で定義した。Mw等の震源特性を表すパラメータは,F-netの値や仮定した値で固定し,波形の経時特性を用いて破壊開始点の位置と破壊開始時刻の推定を行った。震源パラメータの推定は今後の課題である。
3.解析結果
例題1として,2018年10月22日19時47分頃に福島県沖で発生したMJ 5.0,MW 5.0 (F-net) の地震の破壊開始点を推定した。推定に用いた観測点分布と解の探索範囲を図1に示す。図中の16ポイントの中から最小誤差となる解をグリッドサーチで推定した。破壊開始点の推定結果は図1に併せて記しており,JMAカタログによる震央位置と整合した。Pcの比較を図2に示す。計算によるPcは,出力した30波の中央値と四分位範囲を示している。P波とS波の到達時刻は,精度よく推定できている。加速度波形の比較を図3に示す。計算による加速度波形はPcの中央値に最も近いサンプルを示している。主要動区間やコーダ部分の振幅に違いがある地点もあるが,時刻歴波形の形状は概ね再現できている。
例題2として,2011年9月17日に岩手県沖で2地震が近接して発生した例を検討する。16時33分54秒頃に1つ目の地震が発生し(MJ 5.5,F-netのMWなし),その約22秒後の16時34分16秒頃に2つ目の地震が発生した(MJ 5.8,F-netのMW 5.9)。K-NET,KiK-netの観測記録では,この2地震が1ファイルに収録されている。解の探索範囲と観測点分布を図4に示す。未知パラメータの数は,地震1と2の破壊開始点と2地震の時間差の3つである。1つ目の地震の破壊開始点は,JMAカタログと整合するが,2つ目の地震の破壊開始時刻は,JMAカタログよりやや早い1つ目の地震の20秒後,破壊開始点はやや沖合に推定された。Pcの比較と時刻歴波形の比較を図5,図6に示す。1つ目の地震のP波とS波の到達時刻と,2つ目の地震のS波区間は,概ね観測記録と整合し,検討対象とした地震規模の範囲では,空間分解能や時間分解能を有することが確認された。今後は,振幅情報も併せたインバージョンの検討や,震源特性の推定の可能性についても検討する。
謝辞
防災科学技術研究所K-NET,KiK-net,F-netを活用させていただきました。記して感謝します。
参考文献
Nakahara et al. (1998), JGR, Vol. 103, pp. 855-867. 友澤・引田 (2022), SSJ秋季大会 (本大会) . 山口・他 (2022), SSJ秋季大会 (本大会).
条件付き敵対的生成ネットワーク (Conditional Generative Adversarial Networks; cGAN) とスペクトルインバージョン解析を組合せ,振幅特性と経時特性にある確率分布をもった時刻歴波形群を出力する手法の検討を進めている(山口・他,本大会)。本報告では,この新しい提案手法に基づき生成した時刻歴波形の妥当性の確認の一つとして,生成した時刻歴波形群を用いて,観測記録を再現する破壊開始点の推定を行った。
2.推定手法
観測点ごとの経験的特徴を反映した時刻歴波形群の生成は山口・他(本大会)の手法を用い,観測点ごとの経験的地盤増幅率と,伝播経路特性の不均質Q値は友澤・引田(本大会)の結果を用いた。インバージョン手法については,エンベロープインバージョン (Nakahara et al., 1998) 等の先行研究があるが,本検討では生成した時刻歴波形の妥当性の確認を主目的とし,以下のような簡易な逆問題を検討した。誤差関数は,加速度波形の全パワーで正規化された累積パワー曲線Pc(Husidプロット)の観測と計算の差で定義した。Mw等の震源特性を表すパラメータは,F-netの値や仮定した値で固定し,波形の経時特性を用いて破壊開始点の位置と破壊開始時刻の推定を行った。震源パラメータの推定は今後の課題である。
3.解析結果
例題1として,2018年10月22日19時47分頃に福島県沖で発生したMJ 5.0,MW 5.0 (F-net) の地震の破壊開始点を推定した。推定に用いた観測点分布と解の探索範囲を図1に示す。図中の16ポイントの中から最小誤差となる解をグリッドサーチで推定した。破壊開始点の推定結果は図1に併せて記しており,JMAカタログによる震央位置と整合した。Pcの比較を図2に示す。計算によるPcは,出力した30波の中央値と四分位範囲を示している。P波とS波の到達時刻は,精度よく推定できている。加速度波形の比較を図3に示す。計算による加速度波形はPcの中央値に最も近いサンプルを示している。主要動区間やコーダ部分の振幅に違いがある地点もあるが,時刻歴波形の形状は概ね再現できている。
例題2として,2011年9月17日に岩手県沖で2地震が近接して発生した例を検討する。16時33分54秒頃に1つ目の地震が発生し(MJ 5.5,F-netのMWなし),その約22秒後の16時34分16秒頃に2つ目の地震が発生した(MJ 5.8,F-netのMW 5.9)。K-NET,KiK-netの観測記録では,この2地震が1ファイルに収録されている。解の探索範囲と観測点分布を図4に示す。未知パラメータの数は,地震1と2の破壊開始点と2地震の時間差の3つである。1つ目の地震の破壊開始点は,JMAカタログと整合するが,2つ目の地震の破壊開始時刻は,JMAカタログよりやや早い1つ目の地震の20秒後,破壊開始点はやや沖合に推定された。Pcの比較と時刻歴波形の比較を図5,図6に示す。1つ目の地震のP波とS波の到達時刻と,2つ目の地震のS波区間は,概ね観測記録と整合し,検討対象とした地震規模の範囲では,空間分解能や時間分解能を有することが確認された。今後は,振幅情報も併せたインバージョンの検討や,震源特性の推定の可能性についても検討する。
謝辞
防災科学技術研究所K-NET,KiK-net,F-netを活用させていただきました。記して感謝します。
参考文献
Nakahara et al. (1998), JGR, Vol. 103, pp. 855-867. 友澤・引田 (2022), SSJ秋季大会 (本大会) . 山口・他 (2022), SSJ秋季大会 (本大会).