09:30 〜 12:00
[S16P-02] DONET海底地震計の高周波数S波およびS波コーダの特性の差異
南海トラフや日本海溝の巨大地震発生域周辺の地震活動をモニタリングする上で,特にDONETやS-netなどの海底地震計で観測される1 Hz以上の高周波数帯の解析が重要となる(例えば,Yabe et al., 2021).しかし,海底地震計で記録される地震波形は、沈み込む海洋プレート,厚く堆積した海洋堆積物,海水,海底地形などの影響を受け複雑化したものである.特に,厚い(> 2km)海洋堆積物内に地震波のエネルギーがトラップされ,大きなピーク遅延やエンベロープ拡大現象が引き起こされる(Takemura, Yabe & Emoto, 2020).本研究では,南海トラフに敷設されたDONETの記録解析と大規模地震波伝播シミュレーションを基に,海底地震計で得られるS波およびS波コーダの特徴を明らかにする.
2014年10月以降にDONET1周辺で発生したM 3.5以上の地震について,DONET強震計記録とF-net広帯域地震計記録を用いてS波最大振幅とS波コーダ振幅の解析を行った.発震時刻からの経過時間が70-90秒の時間窓で速度波形エンベロープの平均を計算し,それらをS波コーダ振幅とした.すると,DONETのS波コーダ振幅は,水平動および上下動の両方についてF-netよりS波コーダ振幅より数倍から数十倍大きく,これはDONET下の地盤によるサイト増幅の影響と考えられる(例えば,Philipps & Aki 1986; Takemoto et al., 2012).しかし,上下動のS波最大振幅はDONETとF-netで同様の減衰特性を示しており,コーダ振幅から予測される結果と矛盾する.OpenSWPC(Maeda et al., 2017)を用いて地震波伝播シミュレーションをすることで,この矛盾について検討した.シミュレーション結果は,S波振幅はF-netとDONETで同様の減衰曲線に乗り増幅が見られないのに対し,S波コーダ振幅のみDONETで大きくなるという観測の特徴を再現した.地下構造モデルから海水や堆積層を除いたモデルを作成しシミュレーションを実施したところ,厚い(> 2 km)堆積層がDONETのコーダ振幅に大きく寄与していることがわかった.
南海トラフ域だけでなく,堆積層の厚い陸域の平野においてもコーダ規格化法によるサイト増幅特性の評価は過大評価となる可能性がある.この可能性は,出射・堀家・岩田(1985)で指摘されていたが,本研究の観測データ解析および数値シミュレーションにより原因が明らかとなった.堆積盆地外の岩盤点の観測点と異なり,DONETなどの厚い堆積層直上の観測点のコーダ波は空間的にランダムに分布した散乱体ではなく,堆積層内にトラップされたS波エネルギーにより構成されており,コーダ規格化法の基本となる伝播経路一様の仮定が成り立たなくなる.そのため,岩盤点を基準としてコーダ規格化法により推定されたサイト増幅特性は,過大評価の傾向となる.
文献
出射・堀家・岩田, 1985, 地震 第2輯,https://doi.org/10.4294/zisin1948.38.2_217
Takemura, Yabe, & Emoto, 2020, GJI, https://doi.org/10.1093/gji/ggaa404
Takemura, Emoto, & Yamaya, 2022, https://doi.org/10.21203/rs.3.rs-1674758/v1
謝辞
防災科学技術研究所が管理・運用するDONET https://doi.org/10.17598/NIED.0008 とF-net https://doi.org/10.17598/NIED.0005 の波形記録を利用しました.地震波伝播シミュレーションは海洋研究開発機構の地球シミュレータと東京大学 情報基盤センターのWisteria/BDEC-01を利用しました.本研究は、JSPS科研費21K03696および21H05205の助成により実施されました.
2014年10月以降にDONET1周辺で発生したM 3.5以上の地震について,DONET強震計記録とF-net広帯域地震計記録を用いてS波最大振幅とS波コーダ振幅の解析を行った.発震時刻からの経過時間が70-90秒の時間窓で速度波形エンベロープの平均を計算し,それらをS波コーダ振幅とした.すると,DONETのS波コーダ振幅は,水平動および上下動の両方についてF-netよりS波コーダ振幅より数倍から数十倍大きく,これはDONET下の地盤によるサイト増幅の影響と考えられる(例えば,Philipps & Aki 1986; Takemoto et al., 2012).しかし,上下動のS波最大振幅はDONETとF-netで同様の減衰特性を示しており,コーダ振幅から予測される結果と矛盾する.OpenSWPC(Maeda et al., 2017)を用いて地震波伝播シミュレーションをすることで,この矛盾について検討した.シミュレーション結果は,S波振幅はF-netとDONETで同様の減衰曲線に乗り増幅が見られないのに対し,S波コーダ振幅のみDONETで大きくなるという観測の特徴を再現した.地下構造モデルから海水や堆積層を除いたモデルを作成しシミュレーションを実施したところ,厚い(> 2 km)堆積層がDONETのコーダ振幅に大きく寄与していることがわかった.
南海トラフ域だけでなく,堆積層の厚い陸域の平野においてもコーダ規格化法によるサイト増幅特性の評価は過大評価となる可能性がある.この可能性は,出射・堀家・岩田(1985)で指摘されていたが,本研究の観測データ解析および数値シミュレーションにより原因が明らかとなった.堆積盆地外の岩盤点の観測点と異なり,DONETなどの厚い堆積層直上の観測点のコーダ波は空間的にランダムに分布した散乱体ではなく,堆積層内にトラップされたS波エネルギーにより構成されており,コーダ規格化法の基本となる伝播経路一様の仮定が成り立たなくなる.そのため,岩盤点を基準としてコーダ規格化法により推定されたサイト増幅特性は,過大評価の傾向となる.
文献
出射・堀家・岩田, 1985, 地震 第2輯,https://doi.org/10.4294/zisin1948.38.2_217
Takemura, Yabe, & Emoto, 2020, GJI, https://doi.org/10.1093/gji/ggaa404
Takemura, Emoto, & Yamaya, 2022, https://doi.org/10.21203/rs.3.rs-1674758/v1
謝辞
防災科学技術研究所が管理・運用するDONET https://doi.org/10.17598/NIED.0008 とF-net https://doi.org/10.17598/NIED.0005 の波形記録を利用しました.地震波伝播シミュレーションは海洋研究開発機構の地球シミュレータと東京大学 情報基盤センターのWisteria/BDEC-01を利用しました.本研究は、JSPS科研費21K03696および21H05205の助成により実施されました.