日本地震学会2022年度秋季大会

講演情報

D会場

一般セッション » S17. 津波

[S17] PM-1

2022年10月25日(火) 13:30 〜 14:45 D会場 (5階(520研修室))

座長:今井 健太郎(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、鴫原 良典(防衛大学校)

14:15 〜 14:30

[S17-07] 静岡県沿岸を対象とした1498年明応東海地震の波源モデルに関する課題

*楠本 聡1、今井 健太郎1、堀 高峰1、菅原 大助2 (1. 海洋研究開発機構、2. 東北大学)

1498年明応東海地震は南海トラフで発生した海溝型巨大地震であり,その地震に伴って生じた津波は静岡県沿岸部を中心に甚大な被害を及ぼした.これまで安中ほか(2003)や阿部(2017) によって津波波源モデルの推定が試みられているが,一部の痕跡高を再現できないことからさらなる検証の余地がある.なお,阿部(2017)やKitamura et al. (2020)では,駿河湾内での海底地すべりの関与も示唆されている.明応東海地震は古文書記録の痕跡信頼度が低く,波源推定には文献記録だけでなく津波堆積物を利活用する必要がある.そこで本研究では本地震の解明に向けて,文献記録と堆積物記録を数値シミュレーションとの比較により再検討した. まず文献記録に基づく検証では,津波痕跡データベースから痕跡信頼度B~Dのものを選び,このうち外海に面した計60地点を抽出した.日本近海の全域50mメッシュの海底地形データ(Chikasada, 2020)と安中ほか(2003)によって提案された津波波源モデルを基に高性能津波計算コード(JAGURS;Baba et al., 2017)を使って津波伝播の数値シミュレーションを実行した. その結果,計算津波高は痕跡高より全体的に低く,波源モデルは過小評価であることが分かった(図1a).静岡県伊豆市小土肥集落にある栄源寺では,津波被害記述が残されており,都司ほか(2013)による現地測量の結果,津波痕跡高は18 mで,痕跡信頼度はDと結論付けた.現在の小土肥集落は海岸線からおよそ200 mの範囲に広がっており,これは大日本帝國陸地測量部五万分の一地形図と大差ない.明応東海地震発生当時の集落も現在と同じ位置にあったと仮定すれば,数値解析による検証が可能と考えられる.しかしながら,従来の波源モデルでは小土肥八幡神社まで津波は到達しない. 次に堆積物記録に基づく検証では,明応東海地震の津波堆積物が確認されている静岡県湖西市白須賀(Komatsubara et al., 2008)において,同様に津波土砂移動計算(高橋・他,1999;高橋・他,2011;Sugawara et al., 2019)を実施した. 図1bに地震発生から3時間後における土砂堆積量を示す.津波堆積物を確認できる掘削地点(SRL04)まで津波は到達するものの土砂は全く堆積しなかった.これは白須賀の海岸に到達する津波が低く,掘削地点まで土砂を移動させるだけの流速を確保できないためである. 以上の検証から,現在提唱されている明応東海地震の津波波源モデルは文献記録・堆積物記録どちらからみても過小評価となっていることが明らかとなった.南海トラフ巨大地震の推移予測のためにも早急に波源モデルも再検証を行う必要がある.また静岡県伊豆市小土肥集落では津波痕跡が確認されているにもかかわらず,堆積物調査が実施されていない.今後伊豆市によって調査されたボーリング調査の結果を精査したのち掘削調査を実施する予定である. 図1. (a)明応東海地震の計算津波高と津波痕跡高.丸は実測された津波痕跡高,灰色の棒が最寄りの海岸線における計算浸水高をそれぞれ示す.(b) 静岡県湖西市白須賀における最大浸水範囲と津波土砂移動数値解析による土砂堆積量.地形コンターは1m間隔である. 謝辞:本研究は R2-6年度文部科学省「防災対策に資する南海トラフ地震調査研究プロジェクト」(研究代表者:海洋研究開発機構 小平秀一)の一環として行われました.