The 2022 SSJ Fall Meeting

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Room A

Special session » S22. Earthquakes, tsunamis, and related phenomena around Hokkaido subduction zone

[S22] AM-1

Mon. Oct 24, 2022 9:30 AM - 10:45 AM ROOM A (1st floor (Kaderu Hall))

chairperson:Takashi Chiba(Rakuno Gakuen University)

9:30 AM - 10:00 AM

[S22-01] [Invited]Recurrence and forecast of great earthquakes along Kuril Trench

*Kenji SATAKE1 (1. Earthquake Research Institute, the University of Tokyo)

19~20世紀に発生したM8クラスの巨大地震の履歴に基づき,宇津(1972)は日本海溝北部~千島海溝南部を7つの領域に区分,根室沖が(第1種)地震空白域であると指摘,1972年以降の30年間に巨大地震が発生する確率が40~57%と推定した.その翌年,1973年根室半島沖地震(M 7.4)が発生した.
 その後の研究によって千島海溝の地域区分は見直され,地震調査委員会は2003年に公表した「千島海溝沿いの地震活動の長期評価」において,十勝沖・根室沖・色丹島沖・択捉島沖に分け,十勝沖におけるM8クラスの地震の30年発生確率を60%程度とした.その半年後の2003年9月26日に,十勝沖地震(M 8.0)が発生したが,その震源域は1952年十勝沖地震(M 8.2)の津波波源域よりも小さかった. そこで,地震調査委員会(2004)では「千島海溝沿いの地震活動の長期評価(第二版)」において,「十勝沖」「根室沖」の領域を2003年地震に合わせて変更,両地域におけるM8クラスの地震の30年発生確率をそれぞれ0.02~0.5%,30~40%と推定した.
 十勝沖と根室沖の中間にある厚岸沖は,1952年には十勝沖地震で,1894年には根室沖地震で破壊したようである.地震調査委員会(2017)は,「千島海溝沿いの地震活動の長期評価(第三版)」において,過去の震源域の多様性を考慮し,根室沖の両側に境界領域を設定し,M8クラスの地震の30年確率を十勝沖で8%,根室沖で80%程度とした.また,それまで考慮されていなかった,海溝軸付近の津波地震や,海溝軸外側の正断層地震についても評価した.
 千島海溝では,東北地方太平洋沖地震と同じようなM9クラスの地震が17世紀に発生していた.これは,1990年代後半から北大・道地質研や産総研のグループによって行われてきた,津波堆積物や過去の海水準変動の復元に基づく古地震調査の成果である.
 霧多布湿原では,泥炭層の中に火山灰層とともに数枚の砂層が挟まっており,最上位の砂層は,17世紀に噴火した北海道南部の駒ケ岳や樽前山からの火山灰層の直下に位置していることから,海岸から数kmまで砂を運ぶような巨大な津波が17世紀に発生したとされた(Nanayama et al., 2003).この地震について,三陸地方で記録されている1611年慶長奥州地震と対比する見解もあるが,釧路春取湖の湖底堆積物の年縞によれば,発生年は1637年前後とされている(Nanayama, 2020).
 17世紀の砂層の下位では,過去2500年間に6枚の津波堆積物層が発見されたことから,これらの津波の発生間隔はおよそ500年とされていたが,火山灰層に加えて,泥炭層中の炭化物の放射性炭素年代からそれぞれの砂層の堆積年代を推定したところ,再来間隔は100~800年とばらつき,その平均は約400年となった(Sawai et al., 2009).
 同様な津波堆積物は海岸段丘上や段丘崖でも発見されており,それらの標高から,17世紀の津波の沿岸での高さは,十勝から根室の海岸で15~20 mと推定されている(平川,2012).
 17世紀の地震の断層モデルとして,Satake et al. (2008)は十勝沖・根室沖のプレート間地震の連動モデル(Mw 8.5)を提唱した.断層面のすべり量は十勝沖で10 m,根室沖で5 m,深さは15~50 km程度である.Ioki and Tanioka (2016)は,2011年東北地方太平洋沖地震を踏まえ,海溝付近に25mのすべりを加えた,プレート間地震と津波地震の同時発生モデル(Mw8.8)を提案した.
 地震調査委員会(2017)は,このような超巨大地震について,過去の地震の発生時期の不確定さも考慮し,30年確率を7~40%とした.
 内閣府の日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震モデル検討会(2022)は,東北・北海道地方の各地で発見された過去6000年間の津波堆積物に基づいて最大規模の津波の推定を行った.千島海溝(十勝・根室沖)モデルは,襟裳岬より東側の津波堆積物・歴史資料に基づき,十勝沖の海溝軸付近のプレート境界浅部に最大すべり(約80m)を持つ断層で,Mwは9.3である.日本海溝(三陸・日高沖)モデルは,岩手県・青森県・北海道襟裳岬以西のデータに基づき,三陸沖北部の海溝軸付近のプレート境界浅部及び日高・下北沖のプレート境界やや深部(40~50㎞)に大きなすべり(約40m)を持つ断層モデル(Mw 9.1)を提案している.これらの地震から想定される津波高は宮古市で約30m,えりも町で約28mとなり,最悪(冬の深夜)の場合,死者数は日本海溝地震で約199,000人,千島海溝地震は約100,000人とされている.