The 2022 SSJ Fall Meeting

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Room A

Special session » S22. Earthquakes, tsunamis, and related phenomena around Hokkaido subduction zone

[S22] AM-1

Mon. Oct 24, 2022 9:30 AM - 10:45 AM ROOM A (1st floor (Kaderu Hall))

chairperson:Takashi Chiba(Rakuno Gakuen University)

10:15 AM - 10:30 AM

[S22-03] Geological evidence of coastal erosion generated with 17th-century tsunami in a beach ridge plain, eastern Hokkaido

*Yuki SAWAI1, Toru Tamura1, Yumi Shimada1, Koichiro Tanigawa1 (1. Geological Survey of Japan, AIST)

文書の記録が多く残されている本州西南部では,過去約1300年間に発生した巨大地震・津波の履歴が古文書・歴史書から検討されている.これに対して北海道東部の歴史記録は19世紀以降に限られているため,それ以前における地震・津波の繰り返し間隔は地質学的手法によって明らかにするしかない.こうした背景から,過去に発生した海溝型地震とそれに伴った津波の履歴を調べるため,津波堆積物に関する研究が,北海道東部の湿原域で1990年代より行われてきた.その結果,過去数千年間にわたり平均して約340-380年の間隔で巨大な津波が発生していたこと(Nanayama et al., 2003; Sawai et al., 2009; Ishizawa et al., 2017),最後の巨大津波は17世紀頃(1630年頃?)に発生したこと(Ishikawa, 2013; Nanayama, 2020)が明らかにされた.発表者らは,こうした巨大津波によって過去の海岸がどのような影響を受けたのかを明らかにするため,地形・地質の調査を行ってきた.本講演では,その成果の一部を報告する.

地形・地質の調査は,北海道浜中町の浜堤列平野である霧多布湿原において行った.まず,地形の特徴を詳細に把握するため,無人航空機を使用したフォトグラメトリ(写真測量)を行った.浜堤は海岸線と平行に分布する地形的な高まりだが,現在の海岸線から約300m内陸に位置する浜堤において,海岸線と直行方向に浜堤を切るような池沼・湿地が点在することが明らかになった.次に,地下の堆積構造を推定するために池沼を横断・縦断する方向で地中レーダー探査(GPR)ところ,浜堤の砂層を示すGPR反射面が池沼の地下において切断されていることがわかった.さらに,GPR反射面が示す堆積物を確認するため,ジオスライサーによって柱状堆積物試料を採取した.試料を肉眼と医療用CTで観察したところ,浜堤の砂層が侵食され,その上に砂層と泥炭層が堆積していることが確認できた.侵食痕の直上で認められた砂層は,中礫~大礫サイズの泥炭の塊を含むイベント層と考えられた.本研究で確認された池沼は,その地形的特徴,GPR反射面が示す堆積構造,地下で見られた堆積物を総合的に判断し,津波や暴浪によって形成された穿掘池(scour pond)と推定された.

Scour pondの形成年代は,堆積物中の火山灰層によって推定した.ジオスライサーによって採取された試料には明瞭な火山灰層が認められる.火山灰層の起源を推定するためにEDX分析を行ったところ,本研究で見られた火山灰層は,上位より樽前aテフラ(Ta-a,1739年),駒ヶ岳c2テフラ(Ko-c2,1694年),駒ヶ岳dテフラ(Ko-d,1640年)と考えられた.Scour pondの泥炭層は駒ヶ岳dテフラの少し前から堆積が始まっていることから,scour pondは17世紀の巨大津波によって穿掘されたものと考えることができる.なお,scour pondの湖底堆積物中に見られたイベント堆積物は,海岸が穿掘された直後に堆積した津波堆積物と解釈することができる.

仮に,本研究で検討されたscour pondが17世紀の巨大津波によるものであるとすれば,当時の海岸線は現在よりも約300m内陸に位置していたことを意味している.17世紀のイベントが発生した当時の地殻変動を復元した研究によれば,地震が発生する前に海岸は継続的に沈降し,地震が発生した後に数十年かけて隆起し離水した(Sawai et al., 2004).現在の海岸は,その離水イベントによって300m程度広がったものと考えれば矛盾がない.

本研究の一部はJSPS科研費(20H01988)により実施した.

引用文献
Ioki, K., Tanioka, Y., Earth Planet. Sci. Lett. 433, 133–138 (2016).
Ishikawa, S., Ph D thesis. Kyushu University, Fukuoka, Japan (2013).
Ishizawa, T. et al., Quat. Geochronol. 41, 202–210 (2017).
Nanayama, F. et al., Nature 424, 660–663 (2003). Nanayama, F. Geological Society of London, Special Publications 501, 131–157 (2020).
Sawai, Y. et al., Science 306, 1918–1920 (2004). Sawai, Y. et al., J. Geophys. Res. 114, https://doi.org/10.1029/2007JB005503 (2009).