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[S01-03] S-net観測波形を用いたM6クラス地震のセントロイド・モーメントテンソル解析
地震の発震機構解は、地震のメカニズムや地下の応力場を理解する上で重要である。セントロイド・モーメントテンソル(CMT)解析は、発震機構解推定の有用な手段の1つである。これまで、海域で発生した地震のCMT解析には、震源から遠い陸域観測網が主に使用されてきた。近年整備された海域観測網を導入すると観測点カバレッジが改善するため、CMT解析の精度向上が期待される。しかし、地下構造の強い不均質性や海水の影響によって海域観測網の観測波形は複雑になるため、CMT解析への活用には検討すべき課題が多い。近年の大型計算機の発展に伴って、3次元構造モデルを用いた地震波伝播シミュレーションが容易になりつつある。そこで本研究では、東北沖を対象に、3次元構造モデルを用いて、F-net(陸域観測網)とS-net(海域観測網)の観測記録を組み合わせたCMT解析を行った。さらにS-net観測記録を使用することの有用性や3次元構造モデルを用いることの必要性を検証した。
本研究では、2017年1月1日から2021年3月31日までに、東北沖で発生したマグニチュード5.5以上の68個の地震を対象とした。CMT解析には、S-net及びF-netの3成分 (東西・南北・鉛直成分) 加速度波形を利用し、周期20–50秒のバンドパスフィルタを適用した。観測点は、震央距離が50–400 kmの範囲で使用した。S-netについては、ケーブル回転の影響が大きい20 gal以上の最大加速度を持つ観測点は除外した。グリーン関数は、最小のS波速度を1.0km/sと設定した 3次元構造モデル(全国1次地下構造モデル: Koketsu et al., 2012)に海水層を仮定し、差分法を用いた地震波伝播シミュレーション(Maeda et al., 2017)で計算した。また、モーメントテンソルインバージョンにおいては、F-netとS-netの観測点数の逆数による重み付けを行った。セントロイド位置及び時刻を推定する際には、各々のセントロイドで求めたモーメントテンソル解に基づく理論波形と観測波形の残差が最小となる解をグリッドサーチで探索した。
対象とする68個の地震について、CMT解を得た。プレート境界型地震(低角逆断層)のセントロイド位置とdip角の推定値は、プレート境界の深さと傾斜角に調和的であった。特に、陸に近く20 km以深で発生した地震については、最適なCMT解に基づく理論波形と観測波形がよく一致した。ただし、20 km以浅で発生した地震においては、S-net観測波形の主要な表面波は再現できたが、後続波の再現性は低い傾向にあった。
さらに、陸海の観測網の影響を評価するために、F-netとS-netをそれぞれ単独で使用したCMT解析を行い、結果を比較した。F-netを単独で使用した場合と比較して、S-netの観測網内で発生した地震については、S-netを使用することで発震機構解がより制約されることがわかった。特に、dip角の誤差範囲は最適値から±5ºと推定精度が向上したことにより、地震の発生場所 (プレート境界・プレート内)の判別に資すると考えられる。アウターライズ地震(S-net観測網外)に対しては、S-netをCMT解析に加えた場合、セントロイド位置の誤差範囲は±1ºとなり、F-netを単独で使用した場合よりも小さくなった。S-net観測網の陸側の端で発生した地震においては、F-netとS-netを組み合わせた場合、セントロイド位置の誤差範囲は±1ºとなり、観測網を単独で使用した場合と比べて小さくなった。一方で、全ての地震に対して、観測網にかかわらず、CMT解推定による最適な発震機構解及びセントロイド位置には大きな差がなかった。これは、周期20-50秒の帯域では、全国1次地下構造モデルが主要な地震波伝播を十分に再現していることを示唆する。
また、1次元構造モデル(Kubo et al., 2002)を使用した場合のCMT解とも比較した。3次元構造モデルを使用した場合と比較して、1次元構造モデルを用いた場合、最適なCMT解に基づく理論波形と観測波形の残差が大きくなった。プレート境界型地震については、得られたセントロイド位置が異なる傾向にあった。特にアウターライズ地震に対しては、最適なセントロイド位置だけでなく、発震機構解も大きく異なる場合があり、3次元構造モデルの利用が重要であることを確認できた。
本研究では、適切な3次元構造モデルに基づくグリーン関数を用いることで、海域観測網の観測波形を使用したCMT解析が実現可能であることが示された。本手法を用いることで、沈み込み帯における地震活動の理解が一層深まることが期待される。
本研究は、科研費22K20388及び、文部科学省の情報科学を活用した地震調査研究プロジェクト(STAR-Eプロジェクト)JPJ010217の助成を受けた。防災科学技術研究所のF-net及びS-netデータ(https://doi.org/10.17598/NIED.0005、 https://doi.org/10.17598/NIED.0007)を使用した。
本研究では、2017年1月1日から2021年3月31日までに、東北沖で発生したマグニチュード5.5以上の68個の地震を対象とした。CMT解析には、S-net及びF-netの3成分 (東西・南北・鉛直成分) 加速度波形を利用し、周期20–50秒のバンドパスフィルタを適用した。観測点は、震央距離が50–400 kmの範囲で使用した。S-netについては、ケーブル回転の影響が大きい20 gal以上の最大加速度を持つ観測点は除外した。グリーン関数は、最小のS波速度を1.0km/sと設定した 3次元構造モデル(全国1次地下構造モデル: Koketsu et al., 2012)に海水層を仮定し、差分法を用いた地震波伝播シミュレーション(Maeda et al., 2017)で計算した。また、モーメントテンソルインバージョンにおいては、F-netとS-netの観測点数の逆数による重み付けを行った。セントロイド位置及び時刻を推定する際には、各々のセントロイドで求めたモーメントテンソル解に基づく理論波形と観測波形の残差が最小となる解をグリッドサーチで探索した。
対象とする68個の地震について、CMT解を得た。プレート境界型地震(低角逆断層)のセントロイド位置とdip角の推定値は、プレート境界の深さと傾斜角に調和的であった。特に、陸に近く20 km以深で発生した地震については、最適なCMT解に基づく理論波形と観測波形がよく一致した。ただし、20 km以浅で発生した地震においては、S-net観測波形の主要な表面波は再現できたが、後続波の再現性は低い傾向にあった。
さらに、陸海の観測網の影響を評価するために、F-netとS-netをそれぞれ単独で使用したCMT解析を行い、結果を比較した。F-netを単独で使用した場合と比較して、S-netの観測網内で発生した地震については、S-netを使用することで発震機構解がより制約されることがわかった。特に、dip角の誤差範囲は最適値から±5ºと推定精度が向上したことにより、地震の発生場所 (プレート境界・プレート内)の判別に資すると考えられる。アウターライズ地震(S-net観測網外)に対しては、S-netをCMT解析に加えた場合、セントロイド位置の誤差範囲は±1ºとなり、F-netを単独で使用した場合よりも小さくなった。S-net観測網の陸側の端で発生した地震においては、F-netとS-netを組み合わせた場合、セントロイド位置の誤差範囲は±1ºとなり、観測網を単独で使用した場合と比べて小さくなった。一方で、全ての地震に対して、観測網にかかわらず、CMT解推定による最適な発震機構解及びセントロイド位置には大きな差がなかった。これは、周期20-50秒の帯域では、全国1次地下構造モデルが主要な地震波伝播を十分に再現していることを示唆する。
また、1次元構造モデル(Kubo et al., 2002)を使用した場合のCMT解とも比較した。3次元構造モデルを使用した場合と比較して、1次元構造モデルを用いた場合、最適なCMT解に基づく理論波形と観測波形の残差が大きくなった。プレート境界型地震については、得られたセントロイド位置が異なる傾向にあった。特にアウターライズ地震に対しては、最適なセントロイド位置だけでなく、発震機構解も大きく異なる場合があり、3次元構造モデルの利用が重要であることを確認できた。
本研究では、適切な3次元構造モデルに基づくグリーン関数を用いることで、海域観測網の観測波形を使用したCMT解析が実現可能であることが示された。本手法を用いることで、沈み込み帯における地震活動の理解が一層深まることが期待される。
本研究は、科研費22K20388及び、文部科学省の情報科学を活用した地震調査研究プロジェクト(STAR-Eプロジェクト)JPJ010217の助成を受けた。防災科学技術研究所のF-net及びS-netデータ(https://doi.org/10.17598/NIED.0005、 https://doi.org/10.17598/NIED.0007)を使用した。