2:15 PM - 2:30 PM
[S02-14] Analysis of long-term pore pressure data acquired at a 20 m borehole in the Kamioka Mine
2023年秋に地球深部探査船「ちきゅう」により南海トラフに設置が計画されている長期孔内観測システムは、光ファイバひずみ計と間隙水圧計などの観測機器から構成される。「ちきゅう」で設置する観測機器の性能検証のために、実証試験装置(プロトタイプ)を神岡鉱山の20 mボアホール内に設置して連続観測を行っている。神岡鉱山の位置は図1に示す。2023年3月に20 mボアホールの下部に光ファイバひずみ計を設置し、2023年4月にボアホール底部からの間隙水圧計測用の圧力ポートに圧力計(Paroscinetific, Inc., 8B7000-I-005)を接続して連続観測を開始した。長期孔内観測システムの光ファイバひずみ計はゆっくり地震や低周波微動などの広帯域の地動検出を目指しており、並行観測する間隙水圧計との比較は重要である。そこで、本研究では神岡鉱山の20 mボアホール内の間隙水圧計のデータを解析し、地震時の光ファイバひずみ計の観測と比較して両者の関係を考察した。
20 mボアホールの間隙水圧の計測は、ボアホール底部に存在する貯水セクションに圧力配管の片端を差し込んでもう一方の片端に圧力計を接続して、ボアホール底部から圧力計までの閉そく系内の圧力変化を計測する。観測開始から8月中旬までの間隙水圧計の観測データを図2に示す。約4ヶ月の連続観測データから、間隙水圧は概ね1ヶ月周期で変動していることが判明した。7月上旬から観測された圧力変動が最大で150 hPaあった。間隙水圧の観測と神岡鉱山で計測している湧水側溝水量の水位のデータを重ねてプロットした(図2)。両観測は1週間程度の位相差はあるがよく相関していることから、間隙水圧のバックグランド(静水圧成分)の主要な変動は20 mボアホール付近の地下水位の変化に起因すると推察される。
次に、間隙水圧計と光ファイバひずみ計で遠地地震と近地地震の発生時に観測されたデータを解析する。観測期間中に発生した遠地地震のうち最大規模のものは2023年5月19日02時57分(UTC、以下も同様)にRoyalty諸島で発生したM7.7の地震であった(図1(a))。20 mボアホール内の光ファイバひずみ計と間隙水圧計で観測された1時間分の波形を図3に示す。間隙水圧計では、両振幅で1.5 hPaの圧力変動を観測した。観測波形には、P波、S波、Rayleigh波の各フェーズの到達がそれぞれ03時08分、03時16分、03時28分に明瞭に観測されている。光ファイバの位相とひずみの関係式から、図3のひずみが大きくなることは光ファイバが縮むことを意味する。間隙水圧が上昇すると光ファイバが縮むことになるので、光ファイバひずみ計は適切に間隙水圧を観測していることがわかった。
近地で発生した地震のうち、2023年5月5日05時42分に能登半島沖で発生したM6.5の地震が最大であった。地震時の20分間の観測波形を図4に示す。地震時に間隙水圧計で25 hPaの短周期の圧力変動を観測している。地震時に光ファイバひずみ計は、光ファイバが伸びる方向に約30 nanoひずみに相当するオフセットを観測した。一方、間隙水圧計のデータは間隙水圧が上昇する方向に約2 hPaオフセットしている。光ファイバひずみ計は、地震発生の1時間前にセメント固結に関連するステップ状のオフセットを観測しており、地震時のオフセットの解釈にはさらに考察が必要である。
両地震で観測されたデータのパワースペクトル密度を比較したものを図5に示す。卓越エネルギーの分布は、間隙水圧計と光ファイバひずみ計とで広帯域で調和的である。岩盤が非排水条件で均質等方弾性体と仮定すると、間隙水圧変化と体積ひずみ変化は比例する(加納ほか、2014)。地震時の光ファイバひずみ計と間隙水圧計の観測データから比例係数(伝達関数)を求めると、単位ひずみあたり5 GPa程度となる。既往の研究(竹本ほか、2003)から求まる神岡鉱山の岩盤の体積弾性係数は51.4 GPaなので、光ファイバひずみ計による計測は体積ひずみ変化に対して10倍程度の相違があることを示唆する。
謝辞: 神岡鉱山の水位データは、神岡鉱業(株)に提供していただいた。
20 mボアホールの間隙水圧の計測は、ボアホール底部に存在する貯水セクションに圧力配管の片端を差し込んでもう一方の片端に圧力計を接続して、ボアホール底部から圧力計までの閉そく系内の圧力変化を計測する。観測開始から8月中旬までの間隙水圧計の観測データを図2に示す。約4ヶ月の連続観測データから、間隙水圧は概ね1ヶ月周期で変動していることが判明した。7月上旬から観測された圧力変動が最大で150 hPaあった。間隙水圧の観測と神岡鉱山で計測している湧水側溝水量の水位のデータを重ねてプロットした(図2)。両観測は1週間程度の位相差はあるがよく相関していることから、間隙水圧のバックグランド(静水圧成分)の主要な変動は20 mボアホール付近の地下水位の変化に起因すると推察される。
次に、間隙水圧計と光ファイバひずみ計で遠地地震と近地地震の発生時に観測されたデータを解析する。観測期間中に発生した遠地地震のうち最大規模のものは2023年5月19日02時57分(UTC、以下も同様)にRoyalty諸島で発生したM7.7の地震であった(図1(a))。20 mボアホール内の光ファイバひずみ計と間隙水圧計で観測された1時間分の波形を図3に示す。間隙水圧計では、両振幅で1.5 hPaの圧力変動を観測した。観測波形には、P波、S波、Rayleigh波の各フェーズの到達がそれぞれ03時08分、03時16分、03時28分に明瞭に観測されている。光ファイバの位相とひずみの関係式から、図3のひずみが大きくなることは光ファイバが縮むことを意味する。間隙水圧が上昇すると光ファイバが縮むことになるので、光ファイバひずみ計は適切に間隙水圧を観測していることがわかった。
近地で発生した地震のうち、2023年5月5日05時42分に能登半島沖で発生したM6.5の地震が最大であった。地震時の20分間の観測波形を図4に示す。地震時に間隙水圧計で25 hPaの短周期の圧力変動を観測している。地震時に光ファイバひずみ計は、光ファイバが伸びる方向に約30 nanoひずみに相当するオフセットを観測した。一方、間隙水圧計のデータは間隙水圧が上昇する方向に約2 hPaオフセットしている。光ファイバひずみ計は、地震発生の1時間前にセメント固結に関連するステップ状のオフセットを観測しており、地震時のオフセットの解釈にはさらに考察が必要である。
両地震で観測されたデータのパワースペクトル密度を比較したものを図5に示す。卓越エネルギーの分布は、間隙水圧計と光ファイバひずみ計とで広帯域で調和的である。岩盤が非排水条件で均質等方弾性体と仮定すると、間隙水圧変化と体積ひずみ変化は比例する(加納ほか、2014)。地震時の光ファイバひずみ計と間隙水圧計の観測データから比例係数(伝達関数)を求めると、単位ひずみあたり5 GPa程度となる。既往の研究(竹本ほか、2003)から求まる神岡鉱山の岩盤の体積弾性係数は51.4 GPaなので、光ファイバひずみ計による計測は体積ひずみ変化に対して10倍程度の相違があることを示唆する。
謝辞: 神岡鉱山の水位データは、神岡鉱業(株)に提供していただいた。