日本地震学会2023年度秋季大会

講演情報

C会場

一般セッション » S03. 地殻変動・GNSS・重力

[S03] PM-1

2023年10月31日(火) 13:30 〜 14:45 C会場 (F202)

座長:横田 裕輔(東京大学)、石川 直史(海上保安庁)

13:45 〜 14:00

[S03-10] 差分地形による海底の地殻変動検出の試み

*石川 直史1、住吉 昌直1、中村 優斗1、伊牟田 圭1 (1. 海上保安庁海洋情報部)

地震時の地殻変動を把握することは発生した地震の物理過程の解明に重要な役割を果たす.特にGNSSやInSAR等の人工衛星を用いた宇宙測地技術による地殻変動観測は高密度・高精度な地殻変動の検出を可能とし,震源断層のすべり推定に大きな貢献を果たしている.さらに,こうした宇宙測地技術が直接使用できない海域においても,地殻変動観測を可能とする技術の研究開発が進み,GNSS-A,海底間音響測距,水圧計などの他,海底に掘削した孔内での間隙水圧やひずみ・傾斜観測が実施されている.特に海底版GNSSともいえるGNSS-A観測は,海上保安庁や大学によって日本海溝・南海トラフを中心とした海域で継続的に観測が実施され,地震間の定常/非定常な変動,地震時変動,地震後の余効変動等の把握に着実に成果を残している.一方で,これらの海底観測は技術的な困難さに加え,海底への機器の設置・維持などにコストがかかるため,現状では陸上の観測網と比べ空間的な拡がりや密度が劣っているという欠点がある.

観測設備の有無とは無関係に地殻変動を検出する技術として,地震発生前後の地形データを比較することで地殻変動を検出する差分地形法がある.2011年東北地方太平洋沖地震発生後,海洋研究開発機構は地震発生前に取得していた地形データと同じ場所で地形調査を行い,その差分から地震時の変動を推定した.その結果,日本海溝の海溝軸付近において約50 mの水平変動があったことが捉えられた(Fujiwara et al., 2011).このときの検出精度は水平変動について約20 mと見積もられており,2-3 cm の精度を持つGNSS-A観測とは3桁の違いがあるが,観測点が無い空白域においても,予め海底地形データを整備しておくことによって大まかな地殻変動を捕捉できる可能性があることで,差分地形法の有用性は高いと考えられる.また,巨大地震に伴う津波の発生原因として,断層すべりによる海底の地殻変動のほかに,地震動による海底地すべりも考えられる.差分地形法はこのような地すべりによる地形変化の検出にも有効な手法となりうる.

我々は,将来の南海トラフ地震に備え,想定震源域の海底における地形データの整備を試行的に開始した.南海トラフ地震の最大想定は全域を破壊するM9クラスであるが,片側のみの所謂半割れの場合はM8クラスとなり,Fujiwara et al., (2011)で見積られている20 mの精度ではその変動を検出することは難しい.しかしながら,Fujiwara et al. (2011)で用いたデータは元々高精度な海底地形の取得を目的としたものではないため,必ずしも本手法に最適な精度を有したデータではなかった.

そこで,はじめから異なる時期の詳細な地形の比較を目的とし,最新の機器による精度の高いデータを取得すれば,より高い精度で地殻変動を捉えることが可能になると期待される.より高い精度の海底地形データを取得するためには,航海安全のために高い精度が求められる水路測量における水深データ処理手法として使用されているCUBE 処理を前提としたマルチビーム測深手法を採用することが現時点では最適である.CUBE 処理は,データの不確かさを統計的に処理することによって,測深点データから高密度の水深グリッドデータを算出する処理手法であり,そのためには,十分な冗長性が担保された高密度データを取得する必要がある.

我々は最初の試行として,2021年10月に室戸岬沖の南土佐碆周辺において,マルチビーム測深機による海底地形調査を実施した(図1).さらに2023年3月にも同一の海域で調査を実施し,比較による精度の検証を行っている.本発表では,差分地形による海底の地殻変動検出に向けて試験的に行った海底地形調査の実施手順と,取得した海底地形データについて報告する.

参考文献:
Fujiwara et al. (2011) The 2011 Tohoku-Oki Earthquake: Displacement Reaching the Trench axis, Science, 334, 1240.
石川・他 (2023) 差分地形法による海底の地殻変動検出にむけて, 海洋情報部研究報告, 61, 75.