日本地震学会2023年度秋季大会

講演情報

D会場

一般セッション » S07. 地球及び惑星の内部構造と物性

[S07] PM-1

2023年11月2日(木) 13:15 〜 14:45 D会場 (F204)

座長:久家 慶子(京都大学)、森重 学(東京大学地震研究所)

13:15 〜 13:30

[S07-01] 中央海嶺-トランスフォーム断層系における溶け残りマントルの不均質性

*森重 学1 (1. 東京大学地震研究所)

中央海嶺近傍における部分溶融によって、海洋地殻の下に数10 kmの厚さを持つメルト成分に枯渇した溶け残りマントルが形成される。この部分は水や重い鉄元素の多くをメルトに取り去られるため、部分溶融を経験していないマントルに比べ高粘性・低密度になると言われている。したがって溶け残りマントルは海洋プレートの構造やダイナミクスを考える上で重要な要素である。これまで溶け残りマントルの不均質性に関する研究は、主に2次元的なものに限られてきた。しかし実際の地球上では中央海嶺をつなぐようにトランスフォーム断層が存在し、これによって3次元的な温度場・流れ場が生じる。そこで本発表では物理モデリングを用いて中央海嶺-トランスフォーム断層系における溶け残りマントルの空間変化を調べた結果を報告する。
有限要素法に基づく3次元モデルを用いて、地表面に中央海嶺-トランスフォーム断層系を想定したプレート拡大速度を与え定常状態における岩石の流れと温度を求めた。この際、部分溶融に伴う潜熱が温度に及ぼす影響も考慮した。またマントルの変形メカニズムとしては拡散クリープ、転位クリープ、脆性破壊を取り扱った。メルト成分枯渇度の指標として各粒子が経験した最大部分溶融度を用いた。その結果、(1)メルト成分枯渇度はプレート拡大速度と共に大きくなること、(2)トランスフォーム断層や断裂帯の下ではメルト成分枯渇度が周囲と比べて低くなり、その傾向はプレート拡大速度が遅くトランスフォーム断層が長いほど顕著であること、(3)脆性破壊を考慮するとメルト成分枯渇度の水平方向の変化が小さくなること、が明らかになった。(2)の結果は断裂帯の下では周囲と比べて低粘性・高密度になることを意味しており、これは断裂帯の下では小規模対流が発生しやすいことを示唆している。また計算によって得られたメルト成分枯渇度がトランスフォーム断層や断裂帯における海洋底の沈降に及ぼす影響を見積もったところ、その寄与は最大で0.2 km程度であった。
本発表ではトランスフォーム断層によるメルト成分枯渇度の空間変化を取り扱ったが、この他にも異なる中央海嶺間のマントルポテンシャル温度の違いや中央海嶺下におけるマントル上昇流の様式(受動的か能動的か)などメルト成分枯渇度の不均質性を作り出す要因は数多く存在する。そのため溶け残りマントルは従来考えられてきたよりも遥かに不均質であると考えられる。したがって海洋プレートの構造やダイナミクスはプレート年代によってのみ決まるわけではなく、プレート形成時の部分溶融履歴もそれらの重要な支配要素である可能性がある。