The 2023 SSJ Fall Meeting

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Room A

Regular session » S08. Earthquake physics

[S08] PM-1

Tue. Oct 31, 2023 1:30 PM - 2:45 PM Room A (F205+206)

chairperson:Takehito Suzuki(Aoyama Gakuin University), Hitoshi HIROSE(Kobe University)

2:30 PM - 2:45 PM

[S08-15] A stacking analysis of the tilt record prior to the 2011 great Tohoku earthquake

*Hitoshi HIROSE1,2, Aitaro Kato3, Takeshi Kimura2 (1. Kobe University, 2. National Research Institute for Earth Science and Disaster Resilience, 3. ERI, Univ. of Tokyo)

Bletery and Nocquet (2023, Science; 以下 BN23) は、GEONET変位時系列データのスタッキング処理に基づき、2011年東北地方太平洋沖地震発生直前の約2時間に、前兆的なスロースリップ (プレスリップ) が震源付近のプレート境界で起きていたと主張した。これに対して、Bradley and Hubbard [1] は、この変動は GNSS データに含まれる共通誤差 (Common Mode Error: CME) による見かけ変動であり、CMEを補正すると見えなくなることを指摘した。さらに、震源域から200 km以上離れたGNSS観測点のノイズしか含まないはずのデータのみを用いて、BN23 が示した「プレスリップ」のような見かけの変動を再現できることを報告しており、CME がこの見かけの変動の要因であることを主張している。そこで我々は GNSSデータとは独立なデータである防災科研 Hi-net 高感度加速度計 (傾斜計) のデータに対して BN23 と同様な手法を適用し、彼らの主張する本震発生直前の約2時間におけるプレスリップの有無を検証した。

岩手県、宮城県、福島県に位置する防災科研Hi-net 55 観測点の傾斜記録水平2成分によって記録された 2011年1月はじめから3月11日の本震直前までの1分サンプリングデータを用いた。そのデータに BAYTAP-G (Tamura et al., 1991) を適用して潮汐応答成分を除去した。これらのデータに対して BN23 に準じた処理を適用した。まず本震発生時刻 (2011年3月11日14:46) の 48 時間前から本震までのデータを切り出した。その最初の24時間分、すなわち、本震の48時間前から24時間前までの中央値を各観測点・各成分で算出し、時系列全体から差し引いた。この2成分の時系列を u(t) とする。また同期間のデータでノイズレベル σ を算出した。次に Okada (1992) によって各観測点における理論傾斜変化ベクトルを算出した。このとき、震源位置・震源メカニズムは BN23 で用いられている SCARDEC database (Vallée and Douet, 2016) の値を用いた。このデータベースにある震源メカニズムの2つの節面のうち、ほぼ西落ちの低角の面 (走向197度, 傾斜14度, すべり角84度) を震源断層とした。断層面積を 1 km × 1 km とし、1 m のすべりを与えた際の各観測点での理論値を計算し g とした。これらの値を用い、各観測点で u(t) · g / σ2 を計算し、全観測点の和を取った (スタック: S(t))。また S(t) を、地震モーメントに対応する量に変換した (M0(t))。

この結果、算出された S(t), M0(t) には、BN23 で示されたような地震発生2時間前からの加速的な上昇は見られなかった。一方で、今回解析した 48 時間の M0(t) の長周期成分は数時間程度でゆらいでおり、その標準偏差は約1019 Nm (Mw 6.6) であった。これは Hi-net 傾斜記録を BN23 のスタッキング手法で処理した際の、本震震源近傍でのすべりの検知レベルを示すと解釈できる。BN23 がプレスリップと解釈した加速的変化の大きさは 2.9×1019 Nm (Mw 6.9) であり、今回の解析における検知レベルを超えている。すなわち、もしそのようなプレスリップがあったのであれば、我々の結果にも見られるはずであるが、その規模の同様な変動は見られなかった。したがって、Bradley and Hubbard [1] が指摘するように、BN23 がプレスリップと解釈した変動は見かけのものである可能性が高いと結論付けることができる。

[1] https://earthquakeinsights.substack.com/p/update-on-apparent-gps-detection