The 2023 SSJ Fall Meeting

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Room A

Regular session » S08. Earthquake physics

[S08] PM-1

Wed. Nov 1, 2023 1:30 PM - 2:30 PM Room A (F205+206)

chairperson:Keisuke Yoshida(Tohoku University)

1:45 PM - 2:00 PM

[S08-27] Precise hypocenter determination around the 2016 Mw 7 normal fault earthquake off Fukushima and Ibaraki prefectures: S-net data analysis

*Yoshiaki Matsumoto1, Keisuke Yoshida1, Naoki Uchida1,2, Tatsuya Kubota3, Toru Matsuzawa1 (1. Tohoku University, 2. ERI, University of Tokyo, 3. National Research Institute for Earth Science and Disaster Resilience)

地震発生の理解のために地球内部の断層構造や応力状態の把握が必要である.小地震の震源分布は,断層構造や応力状態を把握するための情報源として利用できるが,海域で発生する地震に関しては,震源直上に観測点がほとんどないことから,詳細な震源分布が得られないでいた. 2016年以降,東北日本沖合において,海底ケーブル式観測網 (S-net) のデータが使用できるようになった.S-netデータを活用することにより,東北日本海域部で発生する地震の高精度な震源決定が可能になり,海底下のより詳細な断層構造や応力状態の情報抽出が可能であると考えられる.
2016年11月22日に福島-茨城沖の地殻浅部においてMw7.0の正断層型地震が発生し,津波を生じさせた.Mw 9.0東北地方太平洋沖地震の発生以降,東北日本沖合の上盤プレート内では正断層型地震が多発しており,その要因としてMw 9.0地震の発生による上盤プレート内の応力状態の変化が考えられている(e.g. Hasegawa et al., 2012).本研究では,Mw7.0の正断層型地震の発生機構を理解するために,S-netデータを使用した波形相関による高精度な震源決定を行うことで,本震震源周辺の詳細な震源分布を調べる.併せて,本震の震源パラメータの推定を行い,本震破壊の特徴の抽出を試みる.
まず, 2016年8月15日から2020年8月31日までに福島-茨城沖で発生した9,090個のMJMA≧2のイベントを対象に,波形相関を用いて地震波の到達時刻差を求めた.対象領域内に位置するS-net観測点6点に加えて,陸上観測点17点で得られた波形データを使用した.震央間距離が3km以内の地震ペアについて,2 - 5Hzのbandpass filterを適用した速度波形の相互相関を計算し,相関係数が0.75以上であった場合,到達時刻差を求めた.波形相関から得られた到達時刻差データに加えて,読み取りによる到達時刻差データに対し,Double-Difference法(Waldhauser & Ellsworth, 2001)を用いた震源再決定を行った.ただし,本震震源については読み取りによる到達時刻差データのみを使用した.初期震源には,鈴木 (2022) が陸上観測点に加えS-net観測点における到達時刻も使用して推定した震源カタログを使用した.
震源再決定の結果,初期震源ではばらつきをもって分布していた本震周辺の震源が,明瞭な面上に集中した.その主要な面は,北東-南西走向の南東傾斜を示し,本震のメカニズム解の節面の一つと整合的であった.この面は本震の断層面を表していると考えられる.得られた震源分布を,Kubota et al (2022) が津波データ解析に基づき推定したすべり分布と比較すると,本震震源はすべり量が大きい領域の北東端に位置し,余震震源は本震のすべり量が大きい領域を取り囲むように分布した.このことは,本震と余震による主要な応力解放領域が空間的に異なることを示唆する.
次に,本震の地震波放射過程の情報を抽出する目的で,本震近傍で発生した余震15個 (4.5≦Mw≦5.8)の波形を用いたデコンボリューション (Liggoria & Ammon, 1983)によりApparent moment rate function (AMRF)の推定を行った.データにはF-net の12観測点における速度型強震計データを使用した.得られたAMRFは2つのピークを持ち,北側の観測点ほどピークの間の時間差が大きくなる傾向が確認できた.本震破壊が北東から南西方向に伝播したことが示唆され,本震震源が断層の北東部に位置することと整合的である.
得られたAMRFを用いて,Mw7.0地震の規格化エネルギーを推定した.推定された規格化エネルギーの中央値は4.5×10-5 であり,この値は,先行研究により推定された同規模地震についての値と同程度である(Venkataraman & Kanamori, 2004; Yoshida & Kanamori, 2023).本研究で得られた規格化エネルギーに加えて,Kubota et al (2022)が津波データ解析から推定した応力降下量の平均値4.2 MPaを用いて,Mw7.0地震の破壊による放射効率を推定すると,放射効率の値として0.64が得られた.Venkataraman & Kanamori (2004)によるMw>6.7地震の典型的な値の範囲内に含まれるものの,やや大きい.本震周辺の余震震源が明瞭な面上に集中して発生したことと併せて考えると,Mw7.0福島-茨城沖地震が成熟した断層で発生したことを示唆しているのかもしれない.このことは,福島-茨城沖合浅部における正断層地震活動が,これまでにも繰り返し発生してきた可能性を示唆する.