[S08P-05] The features and possible cause of the low-frequency marsquake S1022a
1. はじめに
2012年InSightミッションが開始し、2018年に地震計が備わった火星探査機「InSight」が火星に着陸した(Lognonné et al. 2019)。観測開始から1か月後の2019年3月、火星の内部で発生したと考えられる震動が初めて記録され、2022年12月にミッションが終了するまで、約1300個の火震が観測された (Lognonné et al. 2023)。
InSight Marsquake Serviceが検知した各火震は、火震の起こった火星日付をもとにラベル付けされ、データの質を基準にして質が良いものからQuality A、B、C、Dの4つに分類されている。P、S波を明瞭に識別でき、さらにP波のpolarizationが明確に見えている、つまりこれらから震央を推定できる火震は、Quality Aに分類されている。Quality Aに分類された火震は14個あり、Mwは3~5程度である(InSight Marsquake Service 2023)。
私たちは、これらQuality Aの14火震のP、S波の波形データを調べた。その結果、S1022aとラベル付けされた火震が他の火震と異なり特定の低周波数に卓越していることを見つけた。本発表では、この低周波火震S1022aの特徴を示すとともに、その原因を考察する。
2. 低周波火震S1022aの特徴
S1022aは、InSight Marsquake Serviceにより、地震計から東北東方向に約1800km(31°)離れた場所で起こったと推定されるMw3.6の火震である。火星でのノイズは昼間に大きく、夜間に小さくなる傾向があり(Giardini et al. 2020)、S1022aは火星での夕方頃の比較的ノイズが大きい時間帯に発生した。
S1022aのP波のvertical成分、S波のtransverse成分のスペクトルを図1に示す。いずれのスペクトルも、0.2Hz付近にピークをもち、0.4~0.5Hz付近で急激に値が下がり、0.5Hz以上では前日の火震が起きていない同時間での値より小さくなる。この特徴はP、S波のvertical、radial、transverseの全成分に見えている。またparticle motion解析では、0.2Hz付近のP波は直線状に振動しており、その方向は推定されている逆方位と調和的である。0.2Hz付近のS波の振動はこれにおおよそ直交する。
S1022a以外のQuality Aの多くの火震のスペクトルは、1Hz以下の特定の周波数に顕著なピークをもたない。特徴的なピークをもたない一部の火震のスペクトルがBrune震源モデル(モデル)とt*による減衰構造の影響で説明できることはGiardini et al. (2020)などで示されている。
また、S1022a前後のノイズが大きい時間帯でも、S1022aと同じ特徴のスペクトルは見られない。
3. 特徴の原因は何か
火震 S1022aでみられる特徴が、他のQuality Aの火震には見られないことから、地震計近傍の地下構造によるとは考えにくい。そのため地下構造が原因であるならば、地震計から離れた場所に原因となる構造を考える必要がある。その構造は卓越周波数がP波とS波で類似する必要もある。
一方、震源が原因である場合は、0.2Hzが卓越し、高周波成分をあまり励起しない震源モデルが必要である。
Kedar et al. (2021)は、それぞれ0.35、0.6HzでピークをもつQuality Bの2つの火震を、Julian(1994)の火山性微動モデルで説明することに試みた。Kedar et al. (2021)の火震と比べて、S1022aには、Mwが大きい、P、S波の到着が明瞭に見える、震動の継続時間が短い、ピーク周波数が低いなどの違いがある。また、明確な減衰振動の波形はS1022aにみえていない。
Martire et al. (2020)は、地表付近のインフラサウンドにより、Kedar et al. (2021)が扱った火震の1つを説明できると主張している。Martire et al. (2020)はそのように発生する震動の特徴を示しているが、S1022aはこの特徴に当てはまらない。
謝辞:IRIS-DMCのデータとInSight Mars SEIS Data Serviceのデータとカタログを使用させて頂きました。記して感謝致します。
2012年InSightミッションが開始し、2018年に地震計が備わった火星探査機「InSight」が火星に着陸した(Lognonné et al. 2019)。観測開始から1か月後の2019年3月、火星の内部で発生したと考えられる震動が初めて記録され、2022年12月にミッションが終了するまで、約1300個の火震が観測された (Lognonné et al. 2023)。
InSight Marsquake Serviceが検知した各火震は、火震の起こった火星日付をもとにラベル付けされ、データの質を基準にして質が良いものからQuality A、B、C、Dの4つに分類されている。P、S波を明瞭に識別でき、さらにP波のpolarizationが明確に見えている、つまりこれらから震央を推定できる火震は、Quality Aに分類されている。Quality Aに分類された火震は14個あり、Mwは3~5程度である(InSight Marsquake Service 2023)。
私たちは、これらQuality Aの14火震のP、S波の波形データを調べた。その結果、S1022aとラベル付けされた火震が他の火震と異なり特定の低周波数に卓越していることを見つけた。本発表では、この低周波火震S1022aの特徴を示すとともに、その原因を考察する。
2. 低周波火震S1022aの特徴
S1022aは、InSight Marsquake Serviceにより、地震計から東北東方向に約1800km(31°)離れた場所で起こったと推定されるMw3.6の火震である。火星でのノイズは昼間に大きく、夜間に小さくなる傾向があり(Giardini et al. 2020)、S1022aは火星での夕方頃の比較的ノイズが大きい時間帯に発生した。
S1022aのP波のvertical成分、S波のtransverse成分のスペクトルを図1に示す。いずれのスペクトルも、0.2Hz付近にピークをもち、0.4~0.5Hz付近で急激に値が下がり、0.5Hz以上では前日の火震が起きていない同時間での値より小さくなる。この特徴はP、S波のvertical、radial、transverseの全成分に見えている。またparticle motion解析では、0.2Hz付近のP波は直線状に振動しており、その方向は推定されている逆方位と調和的である。0.2Hz付近のS波の振動はこれにおおよそ直交する。
S1022a以外のQuality Aの多くの火震のスペクトルは、1Hz以下の特定の周波数に顕著なピークをもたない。特徴的なピークをもたない一部の火震のスペクトルがBrune震源モデル(モデル)とt*による減衰構造の影響で説明できることはGiardini et al. (2020)などで示されている。
また、S1022a前後のノイズが大きい時間帯でも、S1022aと同じ特徴のスペクトルは見られない。
3. 特徴の原因は何か
火震 S1022aでみられる特徴が、他のQuality Aの火震には見られないことから、地震計近傍の地下構造によるとは考えにくい。そのため地下構造が原因であるならば、地震計から離れた場所に原因となる構造を考える必要がある。その構造は卓越周波数がP波とS波で類似する必要もある。
一方、震源が原因である場合は、0.2Hzが卓越し、高周波成分をあまり励起しない震源モデルが必要である。
Kedar et al. (2021)は、それぞれ0.35、0.6HzでピークをもつQuality Bの2つの火震を、Julian(1994)の火山性微動モデルで説明することに試みた。Kedar et al. (2021)の火震と比べて、S1022aには、Mwが大きい、P、S波の到着が明瞭に見える、震動の継続時間が短い、ピーク周波数が低いなどの違いがある。また、明確な減衰振動の波形はS1022aにみえていない。
Martire et al. (2020)は、地表付近のインフラサウンドにより、Kedar et al. (2021)が扱った火震の1つを説明できると主張している。Martire et al. (2020)はそのように発生する震動の特徴を示しているが、S1022aはこの特徴に当てはまらない。
謝辞:IRIS-DMCのデータとInSight Mars SEIS Data Serviceのデータとカタログを使用させて頂きました。記して感謝致します。