[S08P-13] 槇峰メランジュにおける石英脈濃集帯が放出する地震波のモデル化の試み
九州東部に分布する上部白亜系四万十付加体中の槇峰メランジュでは,千枚岩化した泥岩マトリックス中に石英脈が濃集することで特徴づけられる石英脈濃集帯が観察され,温度圧力条件やシーリングの時定数,変形構造などからスロー地震の痕跡ではないかと考えられている(Ujiie et al., 2018).本研究では,この石英脈濃集帯が形成される過程において,現在地球物理学的に観察される微動や超低周波地震(VLFE)のシグナルが生成されうるのかを検討する.石英脈濃集帯の形成過程においては,泥岩マトリックスの面構造に並行な引張クラックと面構造に低角に斜交する剪断クラックの2種類が主に生じている.そこで,(1)個々のクラック破壊で生じる地震波と(2)クラック破壊の連鎖の2つの過程のモデル化を組み合わせることで,石英脈濃集帯形成時に放出される地震波をモデル化した.(1)についてはOpenSWPC(Maeda et al., 2017)を用いて3D波動伝播数値計算により,(2)については2Dブラウン運動モデル(Ide & Yabe, 2018)のスロー地震震源移動モデルによりモデル化した.クラックの大きさや数密度など,それぞれのモデル化に必要なパラメーターはできる限りフィールドにおける観察に基づいて設定した.引張クラックと剪断クラックの割合については,フィールドで正確に制約することが難しいため,さまざまな割合を検討した.
モデル化された地震波について,2-4 Hzの微動帯域と0.02-0.05 HzのVLFE帯域において,それぞれ特徴量を抽出し,現実の現象と対比した.その結果,微動帯域において100-1000 J/s程度の地震波エネルギーの放出が見られ,VLFE帯域においてMw 3.5程度のイベントが検出された.これらの値は,現実の微動やVLFEと同程度の値である.微動帯域とVLFE帯域のシグナルの大きさの割合を示すScaled Energyは,概ね現実の値と一致するが,引張クラックの割合が多い方がより現実の値に近い傾向が見られた.一方で,VLFEの非ダブルカップル成分の大きさは,剪断クラックの割合が多い方がより現実の値に近い傾向が見られた.これらの結果から,地球物理学的に観察される微動やVLFEといったスロー地震のシグナルは,石英脈濃集帯モデルによって十分説明可能であることが示された.
【引用文献】Ujiie et al. (2018), https://doi.org/10.1029/2018GL078374
Maeda et al. (2017), https://doi.org/10.1186/s40623-017-0687-2
Ide & Yabe (2018), https://doi.org/10.1007/s00024-018-1976-9
モデル化された地震波について,2-4 Hzの微動帯域と0.02-0.05 HzのVLFE帯域において,それぞれ特徴量を抽出し,現実の現象と対比した.その結果,微動帯域において100-1000 J/s程度の地震波エネルギーの放出が見られ,VLFE帯域においてMw 3.5程度のイベントが検出された.これらの値は,現実の微動やVLFEと同程度の値である.微動帯域とVLFE帯域のシグナルの大きさの割合を示すScaled Energyは,概ね現実の値と一致するが,引張クラックの割合が多い方がより現実の値に近い傾向が見られた.一方で,VLFEの非ダブルカップル成分の大きさは,剪断クラックの割合が多い方がより現実の値に近い傾向が見られた.これらの結果から,地球物理学的に観察される微動やVLFEといったスロー地震のシグナルは,石英脈濃集帯モデルによって十分説明可能であることが示された.
【引用文献】Ujiie et al. (2018), https://doi.org/10.1029/2018GL078374
Maeda et al. (2017), https://doi.org/10.1186/s40623-017-0687-2
Ide & Yabe (2018), https://doi.org/10.1007/s00024-018-1976-9