The 2023 SSJ Fall Meeting

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Room A

Regular session » S09. Statistical seismology and underlying physical processes

[S09] AM-2

Thu. Nov 2, 2023 10:45 AM - 12:00 PM Room A (F205+206)

chairperson:Kei Katsumata, Kazuyoshi Nanjo Nanjo

11:15 AM - 11:30 AM

[S09-16] Static stress change associated with the 2023, Kahramanmaraş, Türkiye earthquake sequence and seismic response

*Shinji TODA1, Ross S Stein2 (1. International Research Institute of Disaster Science, Tohoku University, 2. Temblor Inc.)

2023年2月6日に発生したカフラマンマラシュ地震はトルコ南東部を襲い,死者55,000名以上,建物被害35万棟,家を失った被災者150万人という未曾有の被害をもたらした.この地震はトルコ南東部に北東−南西に延びる東アナトリア断層の南西部(パザルジュック〜アマノス区間)の活動によるものである.最初のM7.8パザルジュック地震に引き続き,9時間後にはM7.8震央から約100km北方のチャルダック断層が活動しM7.7エルビスタン地震が発生した(図1).既に報告されているように(Jia et al., 2023),最初のパザルジュック地震によるチャルダック断層の静的応力変化を計算すると,震源付近で剪断応力変化は+0.1MPa程度になるが,法線応力(断層から遠ざかる向きを正)の増加が著しい(+0.3MPa).一方で,M7.8震源断層に近い北東側では,剪断応力は顕著に低下(-0.5MPa以下)となるため,法線応力変化(unclamping stress)が震源核形成に寄与し,剪断応力低下は動的破壊過程にほとんど影響しなかったと考えられる.静的応力変化と地震活動度変化との対応を調べるため,USGSの震源断層モデルを用いてパザルジュック地震・エルビスタン地震によるクーロン応力変化(dCFF)を計算した.dCFFの計算にあたっては,レシーバ断層(receiver fault, 影響を受ける断層)の走向・傾斜・レイク角の設定が重要となる.今回は,トルコ防災危機管理庁(AFAD)のメカニズム解および周辺活断層(Emre et al., 2018)の情報を参考にレシーバ断層を設定した.その結果, 2つの震源断層の周辺で負のdCFFが大きく広がり,2つの震源断層の4つの端部延長で顕著なdCFF増加となった.地震応答の検証には,AFAD震源カタログを用いた.AFADカタログは,2014年以降検知能力が向上し,2023年本震直後を除くと検知最小マグニチュード(Mc)が1.5-2.0である.比較に用いたカタログの本震前の期間は2014年〜2020年1月23日,本震後の期間は2023年2月21日〜7月13日とした.東アナトリア断層帯北東部で発生した後述する2020年1月24日M6.8エラズー地震後から2023年2月20日(M6.3余震)の期間を除いている.両者の比較の結果,広域のdCFF低下と2023年本震後の地震発生率低下は概ね対応し,震源断層沿いの余震を除いて,全体的に周辺域で活動の低下がみられた.一方で,断層端でのdCFF増加域にその後の余震活動は集中する傾向がある.特に,M7.8震源断層南端付近とM7.7震源断層西端で著しい.一方で,M7.8断層北東端延長部ではきわめて余震活動が低調な部分がみられる.その地域は,2020年エラズー地震(M6.8)の震源断層上にあたる(図1).エラズー地震に関しては,地震・測地インバージョンによって複数の震源断層モデルが提示されているが(例えば,Cheloni and Akinci, 2020),アスペリティ位置に大きな違いはなく,そのアスペリティ周辺で2023年本震後の余震がほとんど認められない(図1).エラズー地震そのものによる北東走向・左横ずれ断層へのdCFFは-1MPa前後程度で,2023年本震による+0.1〜+0.2MPaを大幅に下回る.単純に応力変化の合計が顕著に負のため,オフフォルト余震が誘発されなかったという見方もできる.一方で,速度および状態依存摩擦則(rate/state friction)を考慮したモンテカルロ法による検討(Toda and Stein, 2022)でも,2023年時にごく短期間(数日〜1ヵ月程度)の地震発生率上昇が再現されるものの,その後は地震活動が無応答の結果となる.このように比較的最近大きな地震が発生したことによって破壊進展や地震応答が回避されているという点では,チャルダック断層の東延長に分布しながら破壊が進展しなかったシュルギュ断層(図1)も興味深い.現状,東アナトリア断層上での歴史地震に関しては様々な解釈がある.M7.8パザルジュック地震を起こしたエルケネック区間,パザルジュック区間,アマノス区間(図1)の最新活動はそれぞれ西暦1893年(Ms7.1),1513年(Ms7.4),521年(Mw7.5)にあたると解釈されていた(例えば,Duman & Emre, 2013).しかし,1893年の地震をシュルギュ断層によるものとする解釈もある(例えば,Çetin et al., 2023).シュルギュ断層が130年前に活動していたとすると,2023年時点で応力降下が大きくエルビスタン地震時に破壊が進展しなかった可能性もある.