11:00 AM - 11:15 AM
[S17-05] Ocean-wave gradiometry (part 2): Propagation features of the 2022 Hunga Tonga tsunami inferred from apparent amplitude decay
アレイ解析は波動現象の特徴抽出に有効な手法のひとつである。一般的なアレイ解析は各観測点間の位相差を用いて波動場のスローネスベクトルを推定するが、近年、振幅の空間勾配に着目して、スローネスに加えて振幅の空間変化に関する情報も推定するWave gradiometry (Langston, 2007, Liang et al., 2023)という手法が提案されている。また、従来は臨時観測網がアレイ解析に用いられることが多かったが、稠密な定常観測網の整備に伴い、近年はこれらの定常観測網を用いたアレイ解析も可能な状況になっている。
2022年1月15日のフンガ・トンガ-フンガ・ハアパイ火山の噴火に伴う津波は、近年の津波観測事例の中では特異なものであった。全世界で観測された潮位変動の第一波は大気ラム波に強制励起された海面変動と、その伝播過程で変換された自由波(津波)で構成されること(Kubota et al., 2022)、後続の大きな潮位変動は大気ラム波よりも伝播速度の遅い大気重力波と海洋波の相互作用によって説明できること(Mizutani and Yomogida, 2023)、などが明らかにされている。この津波はS-netやDONETといった日本近海の稠密海底水圧観測網でも観測され、そのアレイ解析により、海面変動に対する大気ラム波の拘束が解けて自由波として伝播する過程などがとらえられている(例えばTonegawa and Fukao, 2022; Yamada et al. 2022など)。
本研究では、Wave gradiometryをトンガ津波のS-net水圧観測記録に適用して、特に振幅項に着目してS-net観測網内での津波伝播過程を検討する。S-net観測記録へのWave gradiometryの適用は前報(Ogiso and Tsushima, 2023)でも実施したが、その際はスローネスのみに着目しており、振幅情報は未活用であった。振幅情報の活用はより詳細な伝播過程の解明につながるとともに、津波高の即時予測にも有効であると期待される。
まず、トンガ付近に波源を設定して、線形長波理論によって合成した津波波形に対してWave gradiometry解析を実施した。推定された見かけ幾何減衰項はS-net観測網のほぼ全域にわたって正の値、すなわち沿岸に近づくにつれて振幅が増加する傾向がみられた。これは津波の浅水変形と解釈できる。また、海底地形がなめらかでエネルギー流束が保存すると仮定し、グリーンの法則を用いて振幅を補正した津波波形を解析したところ、見かけ幾何減衰の絶対値は小さくなり、また、空間的に特徴のある正負の分布が得られた。この空間分布パターンは海底地形によるエネルギーのfocusing等を反映していると考えらえる。
次に、トンガ津波の実観測記録にグリーンの法則で振幅を補正したのちWave gradiometry解析を適用した。あわせて、株式会社ウェザーニューズが運用する陸上の稠密な気象観測網であるソラテナの気圧記録にもWave gradiometry解析を適用し、気圧変動の伝播の特徴を計算した。大気ラム波が日本周辺を通過した1月15日12:40(UTC)頃、及び沿岸で大きな潮位変動が観測された1月15日15時(UTC)頃の見かけ幾何減衰項(添付図参照)の絶対値は、合成波形の場合より大きい傾向がみられた。この結果は、トンガ津波の際の海底水圧変動の空間変化に海底地形以外の要因が寄与していることを示唆する。12:40頃の時間帯では、海底水圧変動の伝播速度が大気ラム波の値に近い海溝軸付近で見かけ幾何減衰項が正、沿岸で負となる傾向があった。一方、15時頃の時間帯では、12:40頃と比較すると共通する傾向の領域もあるが、全般的に見かけ幾何減衰が正となる領域が多く、また、絶対値も大きい傾向がみられた。この時間帯の大気重力波の伝播速度はばらつきが大きいものの大気ラム波よりは津波の伝播速度に近いので、先行研究で指摘されているような大気・海洋結合系で津波の増幅があり、その結果、見かけ幾何減衰が正の値となったのではないかと考えられる。
謝辞
本研究では防災科学技術研究所が運用するS-netで観測された水圧記録、及び、株式会社ウェザーニューズが運用するソラテナで観測された気圧記録を解析に使用しました。また、林豊氏から有益な助言をいただきました。記して感謝します。
2022年1月15日のフンガ・トンガ-フンガ・ハアパイ火山の噴火に伴う津波は、近年の津波観測事例の中では特異なものであった。全世界で観測された潮位変動の第一波は大気ラム波に強制励起された海面変動と、その伝播過程で変換された自由波(津波)で構成されること(Kubota et al., 2022)、後続の大きな潮位変動は大気ラム波よりも伝播速度の遅い大気重力波と海洋波の相互作用によって説明できること(Mizutani and Yomogida, 2023)、などが明らかにされている。この津波はS-netやDONETといった日本近海の稠密海底水圧観測網でも観測され、そのアレイ解析により、海面変動に対する大気ラム波の拘束が解けて自由波として伝播する過程などがとらえられている(例えばTonegawa and Fukao, 2022; Yamada et al. 2022など)。
本研究では、Wave gradiometryをトンガ津波のS-net水圧観測記録に適用して、特に振幅項に着目してS-net観測網内での津波伝播過程を検討する。S-net観測記録へのWave gradiometryの適用は前報(Ogiso and Tsushima, 2023)でも実施したが、その際はスローネスのみに着目しており、振幅情報は未活用であった。振幅情報の活用はより詳細な伝播過程の解明につながるとともに、津波高の即時予測にも有効であると期待される。
まず、トンガ付近に波源を設定して、線形長波理論によって合成した津波波形に対してWave gradiometry解析を実施した。推定された見かけ幾何減衰項はS-net観測網のほぼ全域にわたって正の値、すなわち沿岸に近づくにつれて振幅が増加する傾向がみられた。これは津波の浅水変形と解釈できる。また、海底地形がなめらかでエネルギー流束が保存すると仮定し、グリーンの法則を用いて振幅を補正した津波波形を解析したところ、見かけ幾何減衰の絶対値は小さくなり、また、空間的に特徴のある正負の分布が得られた。この空間分布パターンは海底地形によるエネルギーのfocusing等を反映していると考えらえる。
次に、トンガ津波の実観測記録にグリーンの法則で振幅を補正したのちWave gradiometry解析を適用した。あわせて、株式会社ウェザーニューズが運用する陸上の稠密な気象観測網であるソラテナの気圧記録にもWave gradiometry解析を適用し、気圧変動の伝播の特徴を計算した。大気ラム波が日本周辺を通過した1月15日12:40(UTC)頃、及び沿岸で大きな潮位変動が観測された1月15日15時(UTC)頃の見かけ幾何減衰項(添付図参照)の絶対値は、合成波形の場合より大きい傾向がみられた。この結果は、トンガ津波の際の海底水圧変動の空間変化に海底地形以外の要因が寄与していることを示唆する。12:40頃の時間帯では、海底水圧変動の伝播速度が大気ラム波の値に近い海溝軸付近で見かけ幾何減衰項が正、沿岸で負となる傾向があった。一方、15時頃の時間帯では、12:40頃と比較すると共通する傾向の領域もあるが、全般的に見かけ幾何減衰が正となる領域が多く、また、絶対値も大きい傾向がみられた。この時間帯の大気重力波の伝播速度はばらつきが大きいものの大気ラム波よりは津波の伝播速度に近いので、先行研究で指摘されているような大気・海洋結合系で津波の増幅があり、その結果、見かけ幾何減衰が正の値となったのではないかと考えられる。
謝辞
本研究では防災科学技術研究所が運用するS-netで観測された水圧記録、及び、株式会社ウェザーニューズが運用するソラテナで観測された気圧記録を解析に使用しました。また、林豊氏から有益な助言をいただきました。記して感謝します。