11:15 AM - 11:30 AM
[S17-06] Consideration of New Friction Calculation to Represent Accurate Decay in Numerical Tsunami Calculations
津波警報の解除時期の判断や、津波の見通し情報を発表するためには、津波の減衰過程を正確に把握する必要があるが、現在の津波数値計算技術では、それらに足る精度を有する津波数値計算はこれまで行われていない。
現在、津波数値計算の多くは、非線形長波(分散波)方程式を有限差分法や有限体積法で解くもの(Imamura et al. 2006やBaba et al. 2015など)が用いられている。この方程式の中で数値計算誤差を除いて、エネルギーの減衰を伴う項は摩擦項のみであり、これらの方程式を用いた津波数値計算において、減衰の精度をあげるためにはこの摩擦項の計算方法を改善する必要がある。Imamura et al. (2006)やBaba et al. (2015)では、この摩擦項の計算にマニング則が用いられている。これはマニング則は簡便で、水路等の実験等でその精度が確かめられていることによる。そうであるにも関わらず、上記の通り、津波数値計算においては、そのエネルギーの減衰は実際に観測された減衰とは合わない。その中でTinh et al. (2021)では、津波数値計算においては、定常流を仮定したマニング則が適用できるのは水深5mより浅い領域のみで、それより深い領域では境界層モデルを使う事が適切であると指摘している。しかしながら、これらの方法を既存の津波モデルに適用することは計算速度や実装の問題から効率的とは言えない。そこで、本稿ではこれまでのマニング則の計算方法から大きく計算方法を変えずに、実際の津波減衰を計算で表す方法について検討した。
方法として、まず粗度係数を大きくして計算することによって、より摩擦力を増やし減衰しやすくする方法が考えられる。そこで、南,2019(日本地震学会秋季大会口頭発表)では、粗度係数を通常使われている値より大きくしたケースで計算を行ったが、単純に粗度係数を上げて計算を行うと、確かにより減衰しやすくはなるが、津波予測で最も重要である第一波、最大波の高さが、粗度係数を上げる毎に小さくなってしまい、単純に粗度係数を上げるだけでは目的に達することは出来なかった。そこで、本稿では南,2019(日本地震学会秋季大会口頭発表)で用いたもう一つの方法である、日本国内において津波が観測された事例において、マニング則を用い、異なる粗度係数で複数回津波数値計算を行い、それによって各時間窓におけるエネルギーの総量と粗度係数との関係を表す式を導き、その式と実際の観測値とを比較し、観測値を最も良く表す粗度係数を求める方法を用い、その時間変化について考察した。それによって求めた粗度係数の時間変化を示したものがFig. 1である。この図から分かるように、観測を最もよく表す粗度係数は、第1波到達時が最も小さく、時間がたつにつれてより大きな粗度係数でなければ観測値を表現することが出来なくなっている。つまりこれまで用いられてきた粗度係数0.025では、時間がたつにつれて減衰が合わなくなるという結果であり、これまでの津波数値計算モデルでは減衰が弱いという事実と整合的であった。これらの計算を様々な事例でも行った結果、それぞれの事例で概ね同様の傾向であった。以上の結果から、対象とする観測点での津波到達時刻までは、これまで用いられていた粗度係数(0.025)を用い、津波到達時刻以降については、徐々に摩擦を大きくするように計算を行うと、第一波や最大波の波高が小さくなることなく、より正確な減衰を表現した津波数値計算を行うことが出来る。今回の実験ではJAGURS(Baba et al. 2015)を用いたが、JAGURSにおいては、ステップ計算を行うことにより、現行のプログラムを一切変更することなく、これらの計算が可能である。もちろん、事前にどの時間からどの程度の時間をかけて粗度係数を上げていくかの検討は必要であり、それらがどの事例でも適用できるのか、波高依存性はないのかなどの検討も今後の検討課題であるが、今回の方法により、現行の津波数値計算プログラムをそのまま用い、精度を損なわずに、より減衰を正しく表す計算の可能性を示すことが出来た。
現在、津波数値計算の多くは、非線形長波(分散波)方程式を有限差分法や有限体積法で解くもの(Imamura et al. 2006やBaba et al. 2015など)が用いられている。この方程式の中で数値計算誤差を除いて、エネルギーの減衰を伴う項は摩擦項のみであり、これらの方程式を用いた津波数値計算において、減衰の精度をあげるためにはこの摩擦項の計算方法を改善する必要がある。Imamura et al. (2006)やBaba et al. (2015)では、この摩擦項の計算にマニング則が用いられている。これはマニング則は簡便で、水路等の実験等でその精度が確かめられていることによる。そうであるにも関わらず、上記の通り、津波数値計算においては、そのエネルギーの減衰は実際に観測された減衰とは合わない。その中でTinh et al. (2021)では、津波数値計算においては、定常流を仮定したマニング則が適用できるのは水深5mより浅い領域のみで、それより深い領域では境界層モデルを使う事が適切であると指摘している。しかしながら、これらの方法を既存の津波モデルに適用することは計算速度や実装の問題から効率的とは言えない。そこで、本稿ではこれまでのマニング則の計算方法から大きく計算方法を変えずに、実際の津波減衰を計算で表す方法について検討した。
方法として、まず粗度係数を大きくして計算することによって、より摩擦力を増やし減衰しやすくする方法が考えられる。そこで、南,2019(日本地震学会秋季大会口頭発表)では、粗度係数を通常使われている値より大きくしたケースで計算を行ったが、単純に粗度係数を上げて計算を行うと、確かにより減衰しやすくはなるが、津波予測で最も重要である第一波、最大波の高さが、粗度係数を上げる毎に小さくなってしまい、単純に粗度係数を上げるだけでは目的に達することは出来なかった。そこで、本稿では南,2019(日本地震学会秋季大会口頭発表)で用いたもう一つの方法である、日本国内において津波が観測された事例において、マニング則を用い、異なる粗度係数で複数回津波数値計算を行い、それによって各時間窓におけるエネルギーの総量と粗度係数との関係を表す式を導き、その式と実際の観測値とを比較し、観測値を最も良く表す粗度係数を求める方法を用い、その時間変化について考察した。それによって求めた粗度係数の時間変化を示したものがFig. 1である。この図から分かるように、観測を最もよく表す粗度係数は、第1波到達時が最も小さく、時間がたつにつれてより大きな粗度係数でなければ観測値を表現することが出来なくなっている。つまりこれまで用いられてきた粗度係数0.025では、時間がたつにつれて減衰が合わなくなるという結果であり、これまでの津波数値計算モデルでは減衰が弱いという事実と整合的であった。これらの計算を様々な事例でも行った結果、それぞれの事例で概ね同様の傾向であった。以上の結果から、対象とする観測点での津波到達時刻までは、これまで用いられていた粗度係数(0.025)を用い、津波到達時刻以降については、徐々に摩擦を大きくするように計算を行うと、第一波や最大波の波高が小さくなることなく、より正確な減衰を表現した津波数値計算を行うことが出来る。今回の実験ではJAGURS(Baba et al. 2015)を用いたが、JAGURSにおいては、ステップ計算を行うことにより、現行のプログラムを一切変更することなく、これらの計算が可能である。もちろん、事前にどの時間からどの程度の時間をかけて粗度係数を上げていくかの検討は必要であり、それらがどの事例でも適用できるのか、波高依存性はないのかなどの検討も今後の検討課題であるが、今回の方法により、現行の津波数値計算プログラムをそのまま用い、精度を損なわずに、より減衰を正しく表す計算の可能性を示すことが出来た。