The 2023 SSJ Fall Meeting

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Room B

Special session » S23. 100 years after the Great Kanto earthquake: development of earthquake research in the Kanto region

[S23] AM-1

Tue. Oct 31, 2023 9:30 AM - 10:40 AM Room B (F201)

chairperson:Yusuke Tomozawa(Kajima Technical Research Institute, Kajima Corporation), Takumi Hayashida(IISEE, Building Research Institute)

9:30 AM - 9:50 AM

[S23-01] [Invited]Probability of M8 class earthquake along the Sagami Trough, central Japan

*Masajiro IMOTO1, Nobuyuki MORIKAWA1, Hiroyuki FUJIWARA1 (1. National Research Institute for Earth Science and Disaster Resilience )

大正関東地震(1923年M7.9)は相模トラフで沈み込むフィリピン海プレートと陸側プレートの境界付近で発生した地震で,これまでに繰り返し発生している.政府地震調査推進本部地震調査委員会は「相模トラフ沿いの地震活動の長期評価(第二版)」を公表し(地震調査委員会, 2014),大正関東地震の再来など相模トラフ沿いに発生するM8クラス(M7.9~M8.6)プレート境界地震の発生確率を推定している.ここでは,地震調査委員会(2014)に基づき,関東M8クラス地震の発生確率について検討する.
 地震調査委員会(2014)において,1) 地形・地質データ(浜堤列、海岸段丘、津波堆積物)により約3000年間に9回確認されたM8クラス地震の発生年代,2)更新過程Brownian Passage Time (BPT) 分布モデル,3)Parsons (2008) に倣った発生年の不確定性処理,により発生確率が算出されている.Parsonsの方法はOgata(1999)の多重積分を用いた尤度式の定義と基本的には同じで,尤度の実現値として9回の発生年代に合致する時系列を生起している.この方法とは異なり,東北地方太平洋沖を震源とする超巨大地震に関する報告書(地震調査委員会,2019)では,発生年が不確定な地震については各発生年代で乱数により発生年を決定し,多数の時系列を生起させている(無作為抽出時系列).ここに挙げた2通りの方法による時系列は別物で,Parsonsによる時系列では各年代における発生年の分布は事前に与える発生年の確からしさ分布 (本稿では一様分布としている)とかけ離れることが多い.これに対し,無作為抽出時系列では発生年の確からしさ分布を反映させた発生年の頻度となる.
 地震調査委員会 (2014)と地震調査委員会 (2019)における手法の違いを詳しく調べると,Ogata (1999) の尤度式により決定されたBPT分布モデルの地震間隔不規則性を表すパラメータ(以後,ばらつき)が,無作為抽出時系列のばらつきの分布(中央値や平均値)に比べ小さく偏ることがわかる.これは,各時系列において規格化されていない尤度を他の時系列の尤度と合算(積分)していることに起因する.この問題を回避する方法として,想定される地震間隔を全て同時に用いるBPT分布パラメータの推定法(尤度幾何平均推定法)が提案され,東北地方太平洋沖地震時系列や関東M8クラス地震時系列に適用された.尤度幾何平均推定法に基づく発生確率の推移は,無作為抽出時系列による確率の平均値や中央値と概ね一致している.
 地震調査委員会 (2014) 記載のデータに基づき,① 9回の地震のうち発生年代の特定されていない地震(1回)について,発生年代を直接には使わない,② 歴史地震による地震間隔も用いる,を考慮して4通りの時系列ついて尤度幾何平均推定法によりBPT分布パラメータの平均間隔とばらつきを求めた.各時系列に含まれる地震は,時系列A:9回の発生年代,時系列 B:8回の発生年代(9回発生),時系列C:時系列Bに永仁(正応)地震(1293年),元禄関東地震(1703年),大正関東地震(1923年)を追加,時系列D:時系列Bに永仁地震,明応地震(1495年),元禄関東地震,大正関東地震を追加,である.図1に各時系列による条件付き30年確率の推移を示す.これによると,大正地震発生から100年経過時点での確率値は0.5~1.8%である.時系列Aでは連続する地震の発生年代が接している時期があり,そこでは極めて短い地震間隔も想定されるため,短い経過年数における発生確率が他の時系列より高くなっている.
 なお,過去に発生した相模トラフ沿いのM8クラスの地震の中で,南房総地域に海岸段丘面を形成する規模の大きな地震について発生確率は次の通りである.最新の地震は1703年元禄関東地震で,それより古い地震は,B.C.5200年,B.C.3000年,B.C.1000年に発生したとされる.これらの活動間隔から平均間隔2300年とばらつき0.15を得る.今後30年間に地震が発生する確率はほぼ0%となる(地震調査委員会,2014).また,ポアソン過程を仮定すると,大正関東地震の場合には平均間隔320~363年から今後30年間に地震が発生する確率は8~9%となり,規模の大きな地震の場合では平均間隔2300年から確率は1%となる.