10:00 〜 10:15
[S01-05] 最大振幅の飽和の影響を考慮した余震による揺れ予測性能の改善
大地震直後の連続地震計記録から余震による揺れの超過確率を予測する手法(Sawazaki, 2021)においては、地震後数時間の時点で記録された地震計記録の区間最大振幅がしたがう確率分布を予測に利用する。この確率分布の導出においては、G-R則と大森―宇津則に加えて、対数最大振幅がマグニチュード(M)に比例するという仮定を設けている。観測される余震の多くはM5程度以下であるため、大部分の余震についてはこの比例関係が概ね当てはまると考えられる。しかし、小振幅の確率分布を説明するのに推定したパラメータを、将来起こりうる最大振幅の超過確率の予測にそのまま外挿して用いると、最大振幅の予測が観測値よりも系統的に過大評価される傾向が見られる(澤崎、JpGU2024)。この過大評価を改善するため、本研究では、対数最大振幅のM依存性が最大振幅の増加と共に小さくなるような関係式を採用し、最大振幅の飽和の影響を予測に反映することで、過大評価の軽減を試みた。
多くの地震動予測式(例えばMorikawa and Fujiwara, 2013)では、最大振幅x(PGA、PGV等の揺れ指標)の対数は以下の式で表現される。
log(x)=aM+bR+c-log[R(1+γ)] (1)
ここでγ=d10^eM/R、Rは断層最短距離(km)を表す。aからeは観測値から経験的に求められる係数である。(1)式では、幾何減衰を表す右辺第4項にMについての非線形性が表れる。これは、Mが大きいほど震源過程の有限性を無視できなくなり、点震源の場合よりも見かけの幾何減衰が弱くなる効果を反映したものと解釈できる。 γ<<1を満たすような小振幅においては震源過程の有限性を無視でき、対数最大振幅のM依存性の線形性を仮定できる(M依存性は右辺第1項のみで決まる)。Sawazaki (2021)ではこの線形性を仮定したうえで最大振幅の確率分布を導出したが、本研究ではMについての非線形性も考慮した導出を行う。なお多くの地震動予測式は、M5~6程度の中規模以上の地震を対象に構築されているが、本研究で扱う余震の揺れはこれよりも小さいものが大部分であるため、より小さいMまで(1)式を拡張して適用できることが前提となる。
余震による揺れ予測においては、地震動予測式をMについて解く必要があるが、(1)式をMについて解析的に解くことはできない。そこで、(1)式の代わりに以下の式を採用する。
log[x(1+x/xc )q]=a'M+C (2)
この式はMについて解くことができ、最大振幅xがxcよりも十分小さい場合は対数最大振幅がMに比例し、xが大きくなるにつれてM依存性が小さくなる特徴を持つ。Cは震源距離やサイト特性などのM以外に関わる全ての効果を含む。(1)式と(2)式からは、対数最大振幅のMでの偏微分はそれぞれ
∂log(x)/∂M=a-eγ/(1+γ) (3)
∂log(x)/∂M=(1+x/xc)a'/(1+(1+q)x/xc) (4)
と導かれる。この(3)と(4)式で表現される偏微分が、なるべく広い最大振幅の範囲で一致するように未知係数qとxcを定めた。
試行錯誤の結果、q=10、xc=2000cm/s2程度のときに、(3)式と(4)式が広いxの範囲で一致することが分かった。このとき、xcの値は震源距離に強く依存しないことも分かった。これらの値を(4)式に当てはめたときの微分係数は、xが0cm/s2、20cm/s2(x=0.01xc)、200cm/s2(x=0.1xc)、2000cm/s2(x=xc)のとき、それぞれa'、0.91a'、0.52a'、0.17a'となる。余震でxc=2000cm/s2もの揺れが観測されることは希だが、これよりも十分に小さい揺れにおいて既に、対数最大振幅とMの非線形性が無視できなくなっており、余震による揺れ予測において振幅の飽和を考慮することの重要性が確認できる。
この結果を踏まえて、(2)式にq=10、xc=2000cm/s2を指定したうえでG-R式、大森―宇津式と共に用いた場合の余震による揺れ予測を、2008年岩手・宮城内陸地震を対象に行った。Hi-netの連続波形記録の機器特性を0.1Hzまで補正したのち、微分して加速度記録に変換した。この3成分ベクトル和を計算し、一定時間ごとの区間最大振幅を解析に用いた。機械的な飽和(汐見他、2005)が見られる波形については併設のKiK-net加速度記録を代わりに用いた。
解析の結果、大きな揺れを観測した震源近傍の観測点については、従来法では数千cm/s2もの極めて強い揺れがそれなりに高い確率で起こると予測していたところ、飽和の影響を考慮したことにより、その予測幅の上限がかなり小さく抑えられた。そのため、予測が実際の揺れを著しく過大評価することをある程度防ぐことができた。また、比較的小さい揺れには飽和の影響が及ばないため、震源から離れた観測点での予測結果は従来法と大きく変わらなかった。ただし、飽和の影響を考慮してもなお、系統的な過大評価を完全に除くことはできなかった。その原因としては、特にxcについては観測点に依存すると考えられ、一律に2000cm/s2を指定することが適切でないことや、計測のナイキスト周波数よりも高い周波数帯にエネルギーのピークを持つようなM1程度以下の地震について、今回検討したのとは異なるタイプの非線形効果が生じている影響などが考えられる。
謝辞:本研究は科研費基盤C(課題番号21K03686)および情報科学を活用した地震調査研究プロジェクト(STAR-E、課題番号JPJ010217)の支援を受けています。
多くの地震動予測式(例えばMorikawa and Fujiwara, 2013)では、最大振幅x(PGA、PGV等の揺れ指標)の対数は以下の式で表現される。
log(x)=aM+bR+c-log[R(1+γ)] (1)
ここでγ=d10^eM/R、Rは断層最短距離(km)を表す。aからeは観測値から経験的に求められる係数である。(1)式では、幾何減衰を表す右辺第4項にMについての非線形性が表れる。これは、Mが大きいほど震源過程の有限性を無視できなくなり、点震源の場合よりも見かけの幾何減衰が弱くなる効果を反映したものと解釈できる。 γ<<1を満たすような小振幅においては震源過程の有限性を無視でき、対数最大振幅のM依存性の線形性を仮定できる(M依存性は右辺第1項のみで決まる)。Sawazaki (2021)ではこの線形性を仮定したうえで最大振幅の確率分布を導出したが、本研究ではMについての非線形性も考慮した導出を行う。なお多くの地震動予測式は、M5~6程度の中規模以上の地震を対象に構築されているが、本研究で扱う余震の揺れはこれよりも小さいものが大部分であるため、より小さいMまで(1)式を拡張して適用できることが前提となる。
余震による揺れ予測においては、地震動予測式をMについて解く必要があるが、(1)式をMについて解析的に解くことはできない。そこで、(1)式の代わりに以下の式を採用する。
log[x(1+x/xc )q]=a'M+C (2)
この式はMについて解くことができ、最大振幅xがxcよりも十分小さい場合は対数最大振幅がMに比例し、xが大きくなるにつれてM依存性が小さくなる特徴を持つ。Cは震源距離やサイト特性などのM以外に関わる全ての効果を含む。(1)式と(2)式からは、対数最大振幅のMでの偏微分はそれぞれ
∂log(x)/∂M=a-eγ/(1+γ) (3)
∂log(x)/∂M=(1+x/xc)a'/(1+(1+q)x/xc) (4)
と導かれる。この(3)と(4)式で表現される偏微分が、なるべく広い最大振幅の範囲で一致するように未知係数qとxcを定めた。
試行錯誤の結果、q=10、xc=2000cm/s2程度のときに、(3)式と(4)式が広いxの範囲で一致することが分かった。このとき、xcの値は震源距離に強く依存しないことも分かった。これらの値を(4)式に当てはめたときの微分係数は、xが0cm/s2、20cm/s2(x=0.01xc)、200cm/s2(x=0.1xc)、2000cm/s2(x=xc)のとき、それぞれa'、0.91a'、0.52a'、0.17a'となる。余震でxc=2000cm/s2もの揺れが観測されることは希だが、これよりも十分に小さい揺れにおいて既に、対数最大振幅とMの非線形性が無視できなくなっており、余震による揺れ予測において振幅の飽和を考慮することの重要性が確認できる。
この結果を踏まえて、(2)式にq=10、xc=2000cm/s2を指定したうえでG-R式、大森―宇津式と共に用いた場合の余震による揺れ予測を、2008年岩手・宮城内陸地震を対象に行った。Hi-netの連続波形記録の機器特性を0.1Hzまで補正したのち、微分して加速度記録に変換した。この3成分ベクトル和を計算し、一定時間ごとの区間最大振幅を解析に用いた。機械的な飽和(汐見他、2005)が見られる波形については併設のKiK-net加速度記録を代わりに用いた。
解析の結果、大きな揺れを観測した震源近傍の観測点については、従来法では数千cm/s2もの極めて強い揺れがそれなりに高い確率で起こると予測していたところ、飽和の影響を考慮したことにより、その予測幅の上限がかなり小さく抑えられた。そのため、予測が実際の揺れを著しく過大評価することをある程度防ぐことができた。また、比較的小さい揺れには飽和の影響が及ばないため、震源から離れた観測点での予測結果は従来法と大きく変わらなかった。ただし、飽和の影響を考慮してもなお、系統的な過大評価を完全に除くことはできなかった。その原因としては、特にxcについては観測点に依存すると考えられ、一律に2000cm/s2を指定することが適切でないことや、計測のナイキスト周波数よりも高い周波数帯にエネルギーのピークを持つようなM1程度以下の地震について、今回検討したのとは異なるタイプの非線形効果が生じている影響などが考えられる。
謝辞:本研究は科研費基盤C(課題番号21K03686)および情報科学を活用した地震調査研究プロジェクト(STAR-E、課題番号JPJ010217)の支援を受けています。