[S01P-01] 相関法により求めた日向灘域における浅部超低周波地震の長期的活動
浅部スロー地震のうち浅部超低周波地震(SVLFE)は卓越周期数十秒の波形が遠方の地震観測点でも明瞭に捉えられることから,浅部すべり域拡大のモニタリングに適している。これまでに南海トラフ域でのSVLFE解析に用いられたデータと震央決定法の組み合わせとしてはHi-net傾斜計記録とアレイ解析(Asano et al. 2008),F-net広帯域地震計記録とグリッドサーチ(e.g. Asano et al. 2015),OBS記録とエンベロープ相関法(Tonegawa et al. 2020)などが挙げられる。本研究では,テンプレート波形や理論波形を用いずに観測バンドパス波形のみを用いる相関法により,2010年から2023年に日向灘域で発生したSVLFEの長期的な活動を明らかにした。
一般に相関法では2つの観測点の波形から求めた相互相関係数が最大となる時間差を走時差データとして扱う。しかし狭帯域の波形では真の走時差に対して卓越周期の整数倍のずれが生じるcycle skippingがしばしば起こる。また表面波の放射パターンにより2観測点で波形の極性が逆の場合もある。本研究の方法では相互相関係数の極大値を与える複数の時間差を扱い,理論走時差との差を評価することでこれらの問題を解決している。
使用データは2010年1月1日から2023年12月31日の紀伊半島・中四国・九州の27観測点からのF-net広帯域地震計記録の上下動成分で,20-50秒のバンドパスフィルターをかけてサンプリング間隔を1秒とした。解析は長さ300秒の解析区間を150秒ずつずらして連続的におこなった。理論走時差は波の見かけ速度を3.8 km/secとして計算した。求められた震央はブートストラップ法による誤差が7.5 km以下のものを結果として採用した。
解析の結果,14年間でおよそ1万個の震央を検出した。ただしこの方法では1つのイベントが2つに分かれて検出されることもあるので,検出震央数は実際のイベント数より多くなっている。全体の震央分布は「く」の字型を示し,北東端は足摺岬南方まで,南東端は種子島東方まで達していた。活動期間が1週間以上におよぶ大規模な活動は2010, 2013, 2015, 2016, 2019, 2021, 2023年の計7回発生した。これらすべての活動で「く」の字の南東方向の伸長ではSVLFEは活発に活動していた。一方,北東方向の伸長では2010, 2015, 2023年の3回のみで活発な活動が北東端まで達した。2013, 2016, 2019年でも活動は北東端まで達したが微弱であった。2016年の活動は熊本地震の直後から開始していたことから誘発された活動と考えられる。大規模活動の発生間隔は誘発活動である2016年を除くと2-4年で,中央値は2年である。
いずれの活動でも震央は顕著な移動性を示したが,その様式は多様でありグループ分けはできない。その理由として,不均質に分布する間隙流体の自発的な移動や排水によるSVLFEの発生と活動の消長に加えて,活動期間中の周辺の大地震による応力擾乱の影響が活動をさらに複雑にしていることが考えられる。外部からの応力擾乱に関連して,琉球海溝では地球潮汐によってSVLFEの活動が活発化することが確認されている(Nakamura & Kakazu 2017)。発表ではそのような地球潮汐の影響についても議論する予定である。
本研究では国立研究開発法人防災科学技術研究所のF-netデータを使用しました。記して感謝申し上げます。
一般に相関法では2つの観測点の波形から求めた相互相関係数が最大となる時間差を走時差データとして扱う。しかし狭帯域の波形では真の走時差に対して卓越周期の整数倍のずれが生じるcycle skippingがしばしば起こる。また表面波の放射パターンにより2観測点で波形の極性が逆の場合もある。本研究の方法では相互相関係数の極大値を与える複数の時間差を扱い,理論走時差との差を評価することでこれらの問題を解決している。
使用データは2010年1月1日から2023年12月31日の紀伊半島・中四国・九州の27観測点からのF-net広帯域地震計記録の上下動成分で,20-50秒のバンドパスフィルターをかけてサンプリング間隔を1秒とした。解析は長さ300秒の解析区間を150秒ずつずらして連続的におこなった。理論走時差は波の見かけ速度を3.8 km/secとして計算した。求められた震央はブートストラップ法による誤差が7.5 km以下のものを結果として採用した。
解析の結果,14年間でおよそ1万個の震央を検出した。ただしこの方法では1つのイベントが2つに分かれて検出されることもあるので,検出震央数は実際のイベント数より多くなっている。全体の震央分布は「く」の字型を示し,北東端は足摺岬南方まで,南東端は種子島東方まで達していた。活動期間が1週間以上におよぶ大規模な活動は2010, 2013, 2015, 2016, 2019, 2021, 2023年の計7回発生した。これらすべての活動で「く」の字の南東方向の伸長ではSVLFEは活発に活動していた。一方,北東方向の伸長では2010, 2015, 2023年の3回のみで活発な活動が北東端まで達した。2013, 2016, 2019年でも活動は北東端まで達したが微弱であった。2016年の活動は熊本地震の直後から開始していたことから誘発された活動と考えられる。大規模活動の発生間隔は誘発活動である2016年を除くと2-4年で,中央値は2年である。
いずれの活動でも震央は顕著な移動性を示したが,その様式は多様でありグループ分けはできない。その理由として,不均質に分布する間隙流体の自発的な移動や排水によるSVLFEの発生と活動の消長に加えて,活動期間中の周辺の大地震による応力擾乱の影響が活動をさらに複雑にしていることが考えられる。外部からの応力擾乱に関連して,琉球海溝では地球潮汐によってSVLFEの活動が活発化することが確認されている(Nakamura & Kakazu 2017)。発表ではそのような地球潮汐の影響についても議論する予定である。
本研究では国立研究開発法人防災科学技術研究所のF-netデータを使用しました。記して感謝申し上げます。