[S01P-02] 陸海統合3次元地下構造モデルと海底地震計(S-net)データを用いた東北沖の浅い小地震の短周期波形解析の課題
小地震・微小地震は、地震断層の活動性や応力状態を推定するための重要な情報源である。特に、沈み込み帯のプレート境界面では、プレート間が強く結合していると考えられる領域の周囲で、これらの地震が卓越して発生することが観察されている。また2011年の東北沖地震の震源域では、地震活動や強く結合した領域とスロー地震との関連が指摘されている。
海底地震計を用いることで、こうした海域における小地震・微小地震の震源近傍から波形データを取得できる。このデータに基づいて、小地震の発生位置や発震機構解、震源時間関数といった震源パラメータを精密に決定できれば、当該領域の応力状態や地殻内の不均質構造(例えば、震源域物質の物性)との関連性に関する重要な情報が得られる。また、これらの震源パラメータは、海域の浅部構造モデルの検討や改良にも役立つと考えられる。
そこで本研究では、陸海統合3次元構造モデルと有限差分法を用いて理論波形を生成し、海域の小地震の震源パラメータを推定するための波形解析を試み、その課題を検討した。
使用したデータは、日本海溝海底地震津波観測網(S-net)の3成分加速度波形データである。観測波形の前後のデータを用いて、海底地震計の向きの変化が小さいことを確認した上で、Takagi et al. (2019)の方法で3成分を回転し、さらに時間積分して3成分速度波形に変換した。理論波形計算には、岡元・他(地震学会 2023)で使用した陸海統合3次元モデルを採用し、地震波シミュレーションにはHOT-FDMの並列GPU版(Nakamura et al. 2012; Okamoto et al. 2013)を使用した。マグニチュード3~4程度の小地震では、震源時間関数の継続時間が0.5秒以下であり、地震波も短周期成分が卓越するため、差分法の格子間隔を25m、最大周波数を3.93Hzに設定した。計算には東京工業大学のスーパーコンピュータ(TSUBAME-3.0およびTSUBAME-4.0)を利用した。
暫定的な解析によって得られた観測波形と理論波形の比較結果を図に示す(2017年9月3日、MJMA 4.3、Mw 3.9(Fnet))。この地震は、N.S3N22観測点の近くで発生したものである。震源位置(深さ17.8km)やメカニズムは暫定的なものであるが、P波部分(VU、周期1~2秒)は観測波形が理論波形と良好に一致している。しかし、S波部分(VX, VY、周期1~10秒)は観測波形が再現されていない。このことから、S波の走時が観測波形と理論波形で合致していないことが明らかになった。なお、S波波形を再現する震源は水平方向に7.5km、深さ方向に5kmずれた位置になるが、そこを選ぶとP波走時や波形が合わなくなる。この例は、短周期波形の解析において、P波速度構造とS波速度構造の整合性が課題であることを示唆している。また、地震モーメントもP波とS波で求めた場合に乖離が生じる傾向があるが、これは速度構造モデルの影響や、変位波形の微分である速度成分を用いたことが原因である可能性がある。他にも、波形解析では発震時にも数秒の修正が必要になる場合がある。発表では、このような小地震の波形解析上の課題について紹介し、議論する予定である。(NIEDによる波形データ提供、およびTakagi et al. (2019)による S-net地震計方位角度データ提供に感謝します。この研究は、JSPS KAKENHI(20K04101)、およびJHPCNプ ロジェクト(jh200059-NHA、jh210054-NAH、jh220060、jh230068、jh240056)によってサポートされています。)
海底地震計を用いることで、こうした海域における小地震・微小地震の震源近傍から波形データを取得できる。このデータに基づいて、小地震の発生位置や発震機構解、震源時間関数といった震源パラメータを精密に決定できれば、当該領域の応力状態や地殻内の不均質構造(例えば、震源域物質の物性)との関連性に関する重要な情報が得られる。また、これらの震源パラメータは、海域の浅部構造モデルの検討や改良にも役立つと考えられる。
そこで本研究では、陸海統合3次元構造モデルと有限差分法を用いて理論波形を生成し、海域の小地震の震源パラメータを推定するための波形解析を試み、その課題を検討した。
使用したデータは、日本海溝海底地震津波観測網(S-net)の3成分加速度波形データである。観測波形の前後のデータを用いて、海底地震計の向きの変化が小さいことを確認した上で、Takagi et al. (2019)の方法で3成分を回転し、さらに時間積分して3成分速度波形に変換した。理論波形計算には、岡元・他(地震学会 2023)で使用した陸海統合3次元モデルを採用し、地震波シミュレーションにはHOT-FDMの並列GPU版(Nakamura et al. 2012; Okamoto et al. 2013)を使用した。マグニチュード3~4程度の小地震では、震源時間関数の継続時間が0.5秒以下であり、地震波も短周期成分が卓越するため、差分法の格子間隔を25m、最大周波数を3.93Hzに設定した。計算には東京工業大学のスーパーコンピュータ(TSUBAME-3.0およびTSUBAME-4.0)を利用した。
暫定的な解析によって得られた観測波形と理論波形の比較結果を図に示す(2017年9月3日、MJMA 4.3、Mw 3.9(Fnet))。この地震は、N.S3N22観測点の近くで発生したものである。震源位置(深さ17.8km)やメカニズムは暫定的なものであるが、P波部分(VU、周期1~2秒)は観測波形が理論波形と良好に一致している。しかし、S波部分(VX, VY、周期1~10秒)は観測波形が再現されていない。このことから、S波の走時が観測波形と理論波形で合致していないことが明らかになった。なお、S波波形を再現する震源は水平方向に7.5km、深さ方向に5kmずれた位置になるが、そこを選ぶとP波走時や波形が合わなくなる。この例は、短周期波形の解析において、P波速度構造とS波速度構造の整合性が課題であることを示唆している。また、地震モーメントもP波とS波で求めた場合に乖離が生じる傾向があるが、これは速度構造モデルの影響や、変位波形の微分である速度成分を用いたことが原因である可能性がある。他にも、波形解析では発震時にも数秒の修正が必要になる場合がある。発表では、このような小地震の波形解析上の課題について紹介し、議論する予定である。(NIEDによる波形データ提供、およびTakagi et al. (2019)による S-net地震計方位角度データ提供に感謝します。この研究は、JSPS KAKENHI(20K04101)、およびJHPCNプ ロジェクト(jh200059-NHA、jh210054-NAH、jh220060、jh230068、jh240056)によってサポートされています。)