The 2024 SSJ Fall Meeting

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Poster session (Oct. 22nd)

Regular session » S01. Theory and analysis method

[S01P] PM-P

Tue. Oct 22, 2024 5:15 PM - 6:45 PM Room P (Main Hall (2F))

[S01P-09] Effect of depth-dependent scattering coefficients on the seismic envelopes

*Masaki Koizumi1, Jun Kawahara1 (1. Ibaraki University)

観測された高周波地震波エネルギー密度を輻射伝達理論の解と比較することにより、地下の散乱係数と内部減衰を分離して推定することが可能である。そのための標準的な手法であるMultiple Lapse-Time Window(MLTW)法(Fehler et al., 1992; Hoshiba, 1993)では、観測点ごとに地震波エンベロープを複数の時間窓で積分する。これに対し、齋藤ほか(2013,2014,地震学会秋季大会)は観測時刻ごとのエネルギー密度分布を空間積分する方法を提案した。この手法は高萩ほか(2017, JpGU大会)らによって改善が行われ、有効性が示された。近年ではエンベロープそのものの形状を理論と比較する手法も使われる(Eulenfeld and Wegler, 2016; Wang and Shearer, 2017)。解析上、散乱係数と内部減衰(以下、散乱・減衰)はしばしば空間一様が仮定されるが、地殻とマントルの散乱係数の違いの重要性を指摘する研究もある(Del Pezzo and Bianco, 2010; Dominguez and Davis, 2013)。

Wang and Shearer (2017)は南カリフォルニアを対象とした解析をおこない、上部地殻と下部地殻で散乱・減衰が異なるという結果を得た。一方、高萩ほか(2017)は中国地方の地殻内地震を用いた解析をおこない、マントルの散乱・減衰が結果にほとんど影響しないという結論を得た。彼らはその理由を、地殻内の速度勾配の効果により、地表に届く地震波の波線経路のほとんどが地殻内に限定されるためと推察した。そこで本研究では、エンベロープ形状およびそれにMLTW法を適用した結果を用いて、上部地殻・下部地殻・マントルの散乱・減衰を区別して推定できる可能性を数値シミュレーションで検討する。

本研究では、日本の平均的な地下構造を想定した上部地殻・下部地殻・マントルの3層構造モデルを仮定した。上部地殻内の点震源から2次元スカラー波を等方輻射し、モンテカルロシミュレーション(Yoshimoto, 2000)を実施した。スカラー波速度は地殻内で深さとともに線形に増加し、マントル内では一定と仮定した。散乱係数は各層で一様(それぞれ上から g1, g2, g3 とする)、かつ g1 ≧ g2 ≧ g3 とし、簡単のため内部減衰は無視した。3層の散乱係数を変化させてシミュレーションをおこない、エンベロープ形状およびMLTW解析の結果がどう変わるかを調べた。予備的な解析によれば、マントルの散乱係数が十分小さい場合、エンベロープ形状およびMLTW解析のいずれの結果とも、上部地殻の散乱係数に強く支配され、下部地殻の散乱係数にはほとんど影響を受けなかった。これは下部地殻の散乱係数の推定が難しいことを示唆する。しかし、g1 = g2 = g3 とするとコーダエンベロープは明瞭に増幅した。これはマントルに漏洩したエネルギー(Dominguez and Davis, 2013)の一部がマントル内の散乱によって戻されるためと考えられ、地殻とマントルの散乱係数を区別して推定できる可能性を示す。今後は内部減衰の効果も取り入れた検討をおこなう予定である。