09:15 〜 09:30
[S02-02] DAS記録のS/P振幅比による震源メカニズム推定―サイクルスキップを伴う場合―
分布型音響センシング、通称DASとは、光ファイバーケーブル内を伝播するレーザー光の後方散乱の位相を測定し、地震波動場によってケーブルに引き起こされる軸ひずみあるいはひずみ速度を計測する新技術であり、近年地震観測にも応用され始めている。DASにおいては、ケーブル自体が歪計として機能し、ケーブル沿いの任意の区間を歪計と同等に扱える。このために、地震計を設置することなく、超高密度に地震波動場を捉えることが可能であり、様々な地震学的観測に応用されることが期待されている。例えば、震源メカニズムによる節線がケーブルのどこを通っているかがDAS観測により判明すれば、従来の地震観測よりはるかに精密に震源メカニズムの推定が可能である。これを利用し、Li et al., 2023では、隣り合う観測チャネルの地震波形同士で相互相関を取ってP波の初動極性を求めることで、震源メカニズムをDAS記録から求めた。ただし、彼らの手法を活用するためには、近傍の観測点で、DASによってP波の波形が明瞭に記録できるほどの複数の地震が発生する必要がある。また、用いるのはP波の極性のみである以上、彼らの手法で分かるのはあくまで「ケーブルのどこを節面が通るか」のみであり、2つある節面がいずれも同定されるか否かは、震源とケーブルの位置関係に依存してしまう。
我々はDAS記録におけるP波とS波の最大振幅比を用いて、単独の地震記録から震源メカニズムを推定した(船曵・宮澤, 2024, JpGU)。国道9号沿いに設置された光ファイバーケーブルを用いてDAS観測を、ゲージ長・空間サンプリング間隔をともに約5m、時間サンプリング間隔を500Hzとして行った。その結果、2022年10月19~20日に京都西山断層帯にて発生した地震がDASにより観測された。観測された地震波形のうち、P波・S波がいずれも明瞭に記録されており、全てのチャネルでサイクルスキップを起こしていない、10月19日の11時54分に発生したM2.2の地震と、同日15時34分に発生したM2.3の地震 (以下、M2.2、M2.3と呼称)からP波・S波それぞれの最大振幅を計測し、得られた最大振幅の比を最もよく説明する震源メカニズム解をグリッドサーチによって求めた。同時に、従来の地震観測点によるP波の初動極性を手動ピッキングにより得た。その結果、DAS記録のSP振幅比による震源メカニズムは左横ずれ型となり、これは従来の地震観測点によるP波の初動極性と極めてよく一致した。
本研究ではさらに、サイクルスキップが含まれる場合の対処方法の検討と震源メカニズム推定を行った。DASは後方散乱の位相を測定しているため、-πから+πまでしか測定できず、DASの生記録における最大振幅が実際の最大振幅と一致するとは限らない。仮にこれ以上の位相変化を求めるためには±2nπの補正(アンラップ)が必要である。
2022年の観測により記録された地震波形のうち、10月19日の11時00分に発生したM3.2の地震と、同日11時02分に発生したM3.4の地震は、少なくとも1000点の観測チャネルにおいてサイクルスキップを起こしていることが判明しており、船曵・宮澤(2024)の振幅比による震源メカニズム決定の手法をただ導入するだけでは、震源メカニズムは推定できない。そこで、サイクルスキップを起こしたチャネルを除外し、残りのチャネルから震源メカニズムを推定することとした。
サイクルスキップを起こしたチャネルの同定は次のように行った。まず、各チャネルのS到達時刻の0.5秒前から2秒後の記録に対し、連続する時刻の間でπ以上の位相差が発生している時刻をサイクルスキップが発生している時刻の候補とした。これらの候補を有するチャネルのうち、連続する時刻の間で、後の時刻が前の時刻に比べて+π以上跳ぶ、「正の位相のサイクルスキップ」と、後の時刻が前の時刻に比べて-π以下の跳びが発生する「負の位相のサイクルスキップ」が両方存在し、なおかつ「正の位相のサイクルスキップ」と「負の位相のサイクルスキップ」の時刻の時刻差の最小値が、サイクルスキップの候補が一切ないチャネルの見かけの半周期の最大値を下回るチャネルについて、サイクルスキップを起こしているものと見なし、除外した。上記の要領で除外されたチャネルを除くチャネルのDAS記録について、M2.2やM2.3の地震に対し適用したのと同様に、実体波振幅比から震源メカニズムを推定し、P波の初動分布と比較した。その結果、M3.2、M3.4いずれの地震についても左横ずれ型の震源メカニズムを示した。これは、この地域における典型的な地震活動であり、従来の地震観測点のP波初動極性による震源メカニズムとも一致した。
我々はDAS記録におけるP波とS波の最大振幅比を用いて、単独の地震記録から震源メカニズムを推定した(船曵・宮澤, 2024, JpGU)。国道9号沿いに設置された光ファイバーケーブルを用いてDAS観測を、ゲージ長・空間サンプリング間隔をともに約5m、時間サンプリング間隔を500Hzとして行った。その結果、2022年10月19~20日に京都西山断層帯にて発生した地震がDASにより観測された。観測された地震波形のうち、P波・S波がいずれも明瞭に記録されており、全てのチャネルでサイクルスキップを起こしていない、10月19日の11時54分に発生したM2.2の地震と、同日15時34分に発生したM2.3の地震 (以下、M2.2、M2.3と呼称)からP波・S波それぞれの最大振幅を計測し、得られた最大振幅の比を最もよく説明する震源メカニズム解をグリッドサーチによって求めた。同時に、従来の地震観測点によるP波の初動極性を手動ピッキングにより得た。その結果、DAS記録のSP振幅比による震源メカニズムは左横ずれ型となり、これは従来の地震観測点によるP波の初動極性と極めてよく一致した。
本研究ではさらに、サイクルスキップが含まれる場合の対処方法の検討と震源メカニズム推定を行った。DASは後方散乱の位相を測定しているため、-πから+πまでしか測定できず、DASの生記録における最大振幅が実際の最大振幅と一致するとは限らない。仮にこれ以上の位相変化を求めるためには±2nπの補正(アンラップ)が必要である。
2022年の観測により記録された地震波形のうち、10月19日の11時00分に発生したM3.2の地震と、同日11時02分に発生したM3.4の地震は、少なくとも1000点の観測チャネルにおいてサイクルスキップを起こしていることが判明しており、船曵・宮澤(2024)の振幅比による震源メカニズム決定の手法をただ導入するだけでは、震源メカニズムは推定できない。そこで、サイクルスキップを起こしたチャネルを除外し、残りのチャネルから震源メカニズムを推定することとした。
サイクルスキップを起こしたチャネルの同定は次のように行った。まず、各チャネルのS到達時刻の0.5秒前から2秒後の記録に対し、連続する時刻の間でπ以上の位相差が発生している時刻をサイクルスキップが発生している時刻の候補とした。これらの候補を有するチャネルのうち、連続する時刻の間で、後の時刻が前の時刻に比べて+π以上跳ぶ、「正の位相のサイクルスキップ」と、後の時刻が前の時刻に比べて-π以下の跳びが発生する「負の位相のサイクルスキップ」が両方存在し、なおかつ「正の位相のサイクルスキップ」と「負の位相のサイクルスキップ」の時刻の時刻差の最小値が、サイクルスキップの候補が一切ないチャネルの見かけの半周期の最大値を下回るチャネルについて、サイクルスキップを起こしているものと見なし、除外した。上記の要領で除外されたチャネルを除くチャネルのDAS記録について、M2.2やM2.3の地震に対し適用したのと同様に、実体波振幅比から震源メカニズムを推定し、P波の初動分布と比較した。その結果、M3.2、M3.4いずれの地震についても左横ずれ型の震源メカニズムを示した。これは、この地域における典型的な地震活動であり、従来の地震観測点のP波初動極性による震源メカニズムとも一致した。