日本地震学会2024年度秋季大会

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D会場

一般セッション » S02. 地震計測・処理システム

[S02] AM-1

2024年10月22日(火) 09:00 〜 10:30 D会場 (2階中会議室201)

座長:荒木 英一郎(海洋研究開発機構)、宮澤 理稔(京都大学防災研究所)

10:00 〜 10:15

[S02-05] 海底分散型音響センシングデータの自動検測の活用に向けて

*山花 弘明1,2、篠原 雅尚2 (1. 東京大学大学院、2. 東京大学地震研究所)

高精度な地震観測を行うためには,対象地域に高密度で観測点を設置することが基本である.しかし一般的に海域の地震観測点は,設置密度が陸域よりも低い.一方で近年地震観測での使用例が増加しつつある分散型音響センシング (DAS) は,光ファイバーケーブルの歪みを数メートルから十数メートル間隔の高い空間解像度で計測する技術である.海底の通信用光ファイバーケーブルをDAS観測に使用することで,海域における長距離かつ高密度な線状の地震観測が実現できる.本研究では東北地方三陸沖のDAS記録の地震波到達時刻を自動検測し,震源決定に向けてその適用可能性について考察した.

観測に用いられた光ファイバーケーブルは,三陸の陸上局から沖合へ約120 kmの長さで敷設されている (図1(a)).観測装置であるインテロゲータにはLuna社の「QuantX」を使用した.観測点 (チャンネル) は約5 m間隔で全長約100 kmに渡って設定されている.解析ではまず,連続データの中から,気象庁カタログに基づいてイベント発生部分の波形を切り出した.P波およびS波到着時刻の自動検測には,Zhu et al. (2023) による深層学習に基づく自動検測プログラム「PhaseNet-DAS」を用いた.PhaseNet-DASは,米国カリフォルニア州の陸域DASデータを使って訓練されている.この訓練時の条件に合わせて本研究のデータをサンプリング周波数100 Hzにデシメーションし,検測するチャンネル間隔は約10 mとした.

自動読み取りによって,マグニチュード3程度以上の地震やケーブルに近い地震など,明瞭な地震波到着が判別できる地震を中心に多くの到着時刻を得ることができた (例: 図1(b)).しかしマグニチュードが2.8や3.3である地震のDAS波形記録を確認すると,P波の自動検測値よりも先に,P波と思われる地震波到着が確認できることがわかった.このP波と思われる地震波の多くは振幅が極めて小さく,目視でも検測が困難である場合もある.一方で,規模の小さな地震や遠方の地震では自動検測によるP波と判別された地震波に先立つ地震波到着は確認できなかったが,これについてはP波の振幅が極めて小さいことが予想される.自動検測でP波として判定されている地震波の種類については,水平方向のケーブルを使ったDAS観測では,鉛直成分に卓越するP波の検出が難しいという性質から,P波が堆積層でS波に変わったPS変換波である可能性が高い.今後,ケーブル上に設置されている海底地震計の記録との比較を行い,地震波の同定を行う予定である.海底におけるDAS観測において常にPS変換波をP波と判別してしまうのであれば,P波理論到達時刻とPS波の検測値の差を,各チャンネルに固有の観測点補正値として与えることで,P波およびS波到着時刻を用いる通常の震源決定法が適用できる可能性がある.