[S02P-01] Seismic observation by distributed acoustic sensing using N-net offshore system in Hyuga-nada
日本周辺の海溝やトラフ周辺において大地震の発生を早期に捉えることは地震防災において重要であり、そのため海底ケーブル観測システムは必要不可欠であり、また、海洋プレート沈み込みの詳細を明らかにするためにも有用なデータを提供する。これらの観点から高知県沖から日向灘にかけての海域では、新しいケーブル式海底地震津波観測網N-netが開発整備されている。このシステムは、S-netに代表されるインライン方式と、DONETに利用されているセンサーシステムプラグイン方式をハイブリッドして、広域に観測網を展開すると共に、研究の進展に応じた観測装置の追加が可能であることが特徴である。N-netは沖合システムと沿岸システムの2つの観測システムからなり、計36台の観測装置と4台のプラグイン装置が光海底ケーブルにより接続される。海底ケーブルは片端は宮崎県串間市に、もう一つの片端は高知県室戸市に陸揚げされている。インライン観測装置には、加速度計・速度計・MEMS技術を用いた水圧計を搭載している。南海トラフに近い領域に敷設された沖合システムの試験運用が2024年7月より開始している。2024年度中に、高知県沖から日向灘にかけての沿岸域において観測する沿岸システムが設置される計画である。沖合システムには串間局から約55 km先までデータ通信に使用していないファイバがある。近年、分散型音響センシング(DAS)に代表される光ファイバセンシング技術が発展し、地震観測に利用されている。この観測技術は空間的に高密度な震動データを長距離にわたって取得できる。これまでに、国内でDAS計測が既設海底ケーブルに適用され海底地震観測として有用であることが示された。DAS計測は位相の揃ったレーザー光の短いパルスを連続的にシングルモードファイバに送信し後方散乱光を観測することにより、振動を検知する。光の往復時間とゲージ長が観測点までの距離と空間解像度にそれぞれ対応する。空間的な観測点間隔は最も短い場合で数mである。最も長い観測長は100km以上に達している。海底ケーブル観測システムのデータ伝送用の光海底ケーブルは、通信に用いられる一般的な海底ケーブルを用いている。通信用光海底ケーブルでは、束ねたファイバが鉄線やポリエチレンなどの保護材と一体化した金属製のパイプに通っている。以前はパイプに接着剤などが詰められ、ファイバがケーブル本体と強く結合していた(リジッド)が、2010年頃からの光海底ケーブルは張力がかかってもファイバが切断しにくいようにパイプにはジェリーなど柔らかい物質が詰められるようになった(ルース)。これまで国内で行われたDAS観測の多くはリジッド海底ケーブルを用いており、ルース光海底ケーブルを用いたDAS観測は余り行われていない。N-netシステムはシステム全体を考慮してルース光海底ケーブルが用いられている。以上のような背景から、N-net沖合システム串間局側において、データ通信に使用していないファイバによるDAS計測を実施し、観測の評価を行うこととした。串間局側は陸上局から約38 kmの地点に観測装置が接続されておりDASデータの比較評価に好都合である。海底ケーブルは約50km先まで海底下に埋設されている。DAS観測は2024年8月1日より開始した。計測に用いたファイバはペアとなっており、約54km先で2つのファイバが接続されており、片端からは約110kmのファイバとして見える。DAS計測を開始する前に、光パルス試験器(OTDR)を用いて、ファイバの健全性を評価した。その後、DAS計測器を串間陸上局舎内にDAS計測器を設置して、空間サンプリング間隔10.21m、ゲージ長100m、収録チャンネル数10,000、サンプリング周波数200Hzで観測を開始した。レーザー光ping rateは800Hzである。約54km地点でファイバが折り返されているので、同じデータが取得される。観測開始直後から多数の地震が収録された(図)。8月8日には日向灘で発生した気象庁マグニチュード7.1の地震を観測し、その後も多数の余震が観測されている。また、雑微動部分のスペクトルからは、ノイズレベルが国内他地域のシステムにおけるノイズレベルとほぼ同じであり、さらに脈動のピークを確認できる。これらのことから、N-netの海底ケーブルにおいてもDAS計測が有益であることが推定される。今回の試験観測は3ヶ月間程度実施する予定であり、その後データの評価を行う予定である。