[S04P-03] 豊後水道のスラブ内で発生した逆断層型の地震のテクトニックな意義
2024年5月12日14時34分、豊後水道の深さ54.9kmでM3.4の東西圧縮の逆断層型地震が発生した。南海トラフから豊後水道下に沈み込むフィリピン海プレートは、27-15Maに形成された四国海盆(例えば、Okino et al. 1994)のうち、比較的年代の古いプレートが沈み込んでいると推測されている。この地震が発生した場所のフィリピン海スラブ上面の深さは、三好・石橋(2004)によれば41.9kmで、フィリピン海プレート内部で発生したスラブ内地震であった。西南日本のフィリピン海スラブ内の起震応力場は、ほぼ東西伸張ないしスラブの走向に伸張で正断層型や横ずれ型の地震が多く発生しており、その成因とともに議論がなされている(例えば、Ukawa 1982; Wang et al. 2004; Shiomi et al. 2008)。しかし、この地震の発震機構解は起震応力場に矛盾する。本研究では、この地震とその周辺の地震について、発生位置、発震機構解、地震波形を用いて調査し、この地震のテクトニックな意義を議論する。
P波初動解は東西圧縮の逆断層型であったが、局所的な応力場を反映したものである可能性が残るので、モーメントテンソル解を決定した。本研究では、広帯域地震観測網(F-net)のデータを用いてMT解を求めた。防災科研から公開しているF-netのモーメントテンソルカタログと同じ手法により、3点の観測点を使用して決定した。中津(INN)、砥用(TMC)、豊田(YTY)観測点のデータを用いた解析結果では、深さ59km、Mw3.5、P波初動解と同様の東西圧縮の逆断層型と決定された。異なる観測点の組み合わせでも同様の逆断層に決まっており、逆断層の地震であったことは間違いない。
この地震の震源とスラブ上面との距離は約12kmで、厚さ約12kmの活動度の高い地震発生層とその下位にある厚さ約6kmの活動度が低い領域との境界域で発生していた。震源の深さが54.9kmと通常のプレート間地震より深いことと、スラブ内での発生位置から、逆断層のプレート間地震とは考えられない。また、周辺を含めた震源分布を検討したところ、震源分布断面図に局所的ながらスラブ内に二重地震面のような分布が認められた。
西南日本のスラブ内地震では、地震波形を用いて地震発生層が海洋性地殻であるか海洋性マントルであるかを推定できる(例えば、Ohkura 2000; Hori et al. 1985; Miyoshi et al. 2012)。この地震を含む近傍のM3クラスの7地震について、高感度地震観測網Hi-netの速度波形を用いて調べたところ、発生層の上部に位置する地震ではHead waveが観測されており、発生層の下限付近または下面に位置する地震ではHead waveが観測されていない。2024年5月12日の地震は後者に分類された。
これらの特徴は、尾根状のスラブである伊勢湾下(Miyoshi and Obara 2010)や谷状のスラブである紀伊半島中部(Miyoshi et al. 2012)での二重地震面の状況と類似しており、豊後水道においても尾根状のスラブ内で局所的ながら二重地震面を構成しているものと推定される。地震がどこで発生しているかを特定することは、南海トラフ地震の発生前、発生後の推移等を検討するうえで重要であり、今後さらなる検討を深める予定である。
謝辞:本研究では一部に気象庁一元化震源カタログを使用しました。記して感謝いたします。
P波初動解は東西圧縮の逆断層型であったが、局所的な応力場を反映したものである可能性が残るので、モーメントテンソル解を決定した。本研究では、広帯域地震観測網(F-net)のデータを用いてMT解を求めた。防災科研から公開しているF-netのモーメントテンソルカタログと同じ手法により、3点の観測点を使用して決定した。中津(INN)、砥用(TMC)、豊田(YTY)観測点のデータを用いた解析結果では、深さ59km、Mw3.5、P波初動解と同様の東西圧縮の逆断層型と決定された。異なる観測点の組み合わせでも同様の逆断層に決まっており、逆断層の地震であったことは間違いない。
この地震の震源とスラブ上面との距離は約12kmで、厚さ約12kmの活動度の高い地震発生層とその下位にある厚さ約6kmの活動度が低い領域との境界域で発生していた。震源の深さが54.9kmと通常のプレート間地震より深いことと、スラブ内での発生位置から、逆断層のプレート間地震とは考えられない。また、周辺を含めた震源分布を検討したところ、震源分布断面図に局所的ながらスラブ内に二重地震面のような分布が認められた。
西南日本のスラブ内地震では、地震波形を用いて地震発生層が海洋性地殻であるか海洋性マントルであるかを推定できる(例えば、Ohkura 2000; Hori et al. 1985; Miyoshi et al. 2012)。この地震を含む近傍のM3クラスの7地震について、高感度地震観測網Hi-netの速度波形を用いて調べたところ、発生層の上部に位置する地震ではHead waveが観測されており、発生層の下限付近または下面に位置する地震ではHead waveが観測されていない。2024年5月12日の地震は後者に分類された。
これらの特徴は、尾根状のスラブである伊勢湾下(Miyoshi and Obara 2010)や谷状のスラブである紀伊半島中部(Miyoshi et al. 2012)での二重地震面の状況と類似しており、豊後水道においても尾根状のスラブ内で局所的ながら二重地震面を構成しているものと推定される。地震がどこで発生しているかを特定することは、南海トラフ地震の発生前、発生後の推移等を検討するうえで重要であり、今後さらなる検討を深める予定である。
謝辞:本研究では一部に気象庁一元化震源カタログを使用しました。記して感謝いたします。