The 2024 SSJ Fall Meeting

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Room B

Regular session » S06. Crustal structure

[S06] AM-2

Mon. Oct 21, 2024 10:30 AM - 11:30 AM Room B (Medium-sized Conference room 301 (3F))

chairperson:Noriko Tsumura(Graduate school of Science, Chiba University)

10:45 AM - 11:00 AM

[S06-07] Geometry of subducting oceanic plate and its relation to overlying plate structure and seismicity in Nankai Trough

*Gou FUJIE1, Kazuya Shiraishi1, Takeshi Sato2, Yanfang Qin1, Gaku Kimura1, Yasuyuki Nakamura1, Shuichi Kodaira1 (1. JAMSTEC, 2. JMA)

南海トラフの熊野灘は、世界で最も集中的に研究されているプレート沈み込み地震発生帯の一つであり、海底観測網(DONET)による常時地震・津波観測が世界に先駆けて2011年に導入されたほか、多くの二次元・三次元反射法地震探査や、海底地震計(OBS)を多数用いた稠密な二次元屈折法地震探査による集中的な地下構造探査観測、さらにはIODP(国際深海科学掘削計画)による大深度掘削も実施されている。これらの成果により、多様なスロー地震活動が不均質に発生している様相や、地震波速度(Vp)の低速度帯の存在など付加体内部の詳細構造が明らかになっている。なかでも注目される特徴の一つは、上盤プレート内に発達した巨大分岐断層(mega-splay fault)である。分岐断層とは、沈み込むプレート境界断層(海洋地殻上面)から上向きに分岐する断層で、南海トラフの他、日本海溝域など、他の沈み込み帯でも広く観測されているものである。しかし、熊野灘の分岐断層は、他の沈み込み帯はもちろんのこと、南海トラフの他の海域でも見られないほど巨大で地震波の反射強度が非常に強いという特徴がある。これは、熊野灘の分岐断層は、広範囲にわたる顕著な物性境界であることを示している。実際、反射法地震探査や屈折法地震探査の結果から、巨大分岐断層と海洋プレートの間には厚い低速度層が存在するほか、巨大分岐断層の上側には顕著な高速度帯が発達していることが分かってきた。しかし、なぜ熊野灘の分岐断層だけが、他の海域とは異なり特異的に発達しているのかについてはよく分かっていないのが現状である。

分岐断層は海洋プレートの沈み込みに伴いプレート境界付近に形成された構造境界であり、その発達過程の理解には海洋プレートの表層形状など沈み込み帯へのインプットである海洋プレートの実態把握も不可欠である。そこで本研究では、沈み込むフィリピン海プレートの表層付近までの地下構造を広域、詳細に把握することを目指して、既存の二次元屈折法地震探査データを波形インバージョン解析(FWI)によって再解析した。得られたVp構造モデルは、前弧海盆の形状やその内部に発達するBSR、巨大分岐断層、そして沈み込む海洋地殻の上部まで、複数の層境界を明瞭な速度値の境界としてイメージングできている。さらにFWIによるVp構造を時間断面に変換すると、別途地震波反射法構造探査によってイメージングされた層境界と非常によい一致を示すことから、反射法データもよく説明できるモデルである。得られたのVp構造で特に注目すべきは、深部の構造、特に海洋地殻上面、すなわち沈み込む海洋プレートの形状である。深度断面で見ると、前弧海盆の外縁部付近までは海洋プレートの傾斜(dip angle)はわずか2、3度程度で平坦であるが、その付近で急激に傾斜が変化し10度を越えることが明らかになった。この dip angle の変化点は巨大分岐断層が傾斜角を急激に上向きに変化させる位置に相当しているほか、それより深部でのみ巨大分岐断層の反射強度が大きく分岐断層の上側に高Vp帯が発達しているなど、分岐断層の発達やスロー地震活動の分布と興味深い相関を示している。これらの観測事実に基づき、我々は、プレート境界断層(海洋プレート形状)の急激な形状の変化が、その上に乗っているプレート内の応力分布に影響を及ぼし、巨大分岐断層直上の高Vp層の発達やスロー地震活動の広がりを規定している可能性を提案する。