日本地震学会2024年度秋季大会

講演情報

ポスター会場(2日目)

一般セッション » S06. 地殻構造

[S06P] PM-P

2024年10月21日(月) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (2階メインホール)

[S06P-08] レシーバ関数から推定した四国地方上部地殻の異方性構造

*汐見 勝彦1 (1. 防災科学技術研究所)

はじめに
地殻内では,最大水平圧縮軸に平行な微小クラックの存在により地震波速度異方性を有する媒質が形成されると考えられている.地震波速度異方性を推定する際,観測点近傍で発生する地震の記録を用いたS波スプリッティング解析が多用されるが,地殻内地震活動の空間的な偏りの影響を強く受ける.本研究では,四国内に設置された定常観測点並びに臨時観測点で収録された遠地地震記録からレシーバ関数(RF)を推定し,後続波の地震波到来方向依存性の調和成分を抽出,評価する方法を用いて,上部地殻の異方性構造(速い軸の方位)を推定した.

データ・解析方法
解析には,四国及びその周辺に設置された防災科研Hi-net(doi:10.17598/NIED.0003),F-net(doi:10.17598/NIED.0005)の観測記録に加え,東京大学地震研究所,京都大学防災研究所,高知大学,気象庁,産業技術総合研究所が設置した定常点並びに文部科学省「南海トラフ広域地震調査研究プロジェクト」(FY2013-FY2019)の一環として設置した臨時観測点(doi:10.17598/NIED.0027)で収録された遠地地震波形記録を用いた.まず,USGSが公開している震源カタログから,2000年10月から2023年12月に発生したM≥5.8の地震のうち,各観測点からの震央距離が30°-90°となる地震を選択し,該当する波形記録を切り出した.S/Nの良好な記録を自動及び目視により選択した後,コーナー周波数1.5 Hzの低域通過フィルタを適用した.各観測点で得られたRFにHarmonic decomposition解析(例えば,Bianchi et al., 2010; doi:10.1029/2009JB007061)を適用し,得られた調和成分の二次項(180°周期成分)の粒子軌跡に対して主成分分析を行うことで,上部地殻の異方性媒質の特徴を調べた.本成分は,水平面内の異方性構造の特徴を記録している.各観測点においてブートストラップ法による誤差評価を行い,標準偏差の2倍が22.5° (=360°/16)を超える観測点の結果は採用しなかった.なお,解析対象の深さは5-15 kmとし,Matsubara et al.(2022; doi:10.1186/s40623-022-01724-0)による三次元地震波速度構造に基づいて,各観測点におけるRFの時間軸と深さの対応付けを行った.

結果
本研究では各観測点を独立に解析したが,近接する観測点で類似の傾向が見られたことから,概ね全域で安定した推定結果が得られたものと判断出来る.中央構造線以南では,多くの観測点で速い軸の方位は西北西-東南東方向を示した.徳島県南部や高知県東部の一部観測点で東西方向を示すほか,室戸岬周辺では北東-南西方向以北で北西-南東方向を示す観測点があった.一方,中央構造線以北の高縄半島及びその周辺では北西―南東方向を示した.これらの局所的な特徴は,小地震の発震機構から推定される最大水平圧縮軸方位(Uchide et al., 2022; doi:10.1029/2022JB024036)として解像されている領域と調和的な傾向にあった.一方,讃岐山脈周辺では,南北方向を示す複数の観測点がまとまって存在した.四国全域では地質帯が西南西-東北東方向の帯状配列を示すが,和泉層群のうち讃岐山地を構成する地質構造は南北方向の境界を有しており,両者の対応は興味深い.

今後は,異方性の強度の推定並びに深さ方向への拡張,他地域への展開を進める予定である.

謝辞:東京大学地震研究所,京都大学防災研,高知大学,気象庁及び産業技術総合研究所が設置した地震計のデータ,USGSが公表している地震カタログ(PDE)を使用しました.レシーバ関数のHarmonic decomposition解析には,Jeffrey Park教授が公開されているプログラムを一部改変して用いました.