[S06P-07] Construction and Validation of a 3D Multi-parameter Model of the Nankai Trough
南海トラフ巨大地震震源域における地震・津波ハザード評価、強震動予測、高精度震源決定などに用いる地下構造標準化の試みとして、すでに提案されている沈み込むフィリピン海プレートの形状を含む3次元地震波速度構造モデル (Nakanishi et al., 2018)をベースに、これまで未活用だった屈折法地震探査(例えばArnulf et al., 2021)、反射法地震探査(Nakamura et al., 2022など)や自然地震トモグラフィー(Yamamoto et al., 2022など)、表面波の解析(Tonegawa et al., 2017)などの成果として得られる様々な地震波速度情報に基づく海陸統合3次元マルチパラメータ地下構造モデルの構築を2020年度後半から実施してきた。なお、マルチパラメータとは、現時点でP波速度、S波速度、密度情報を取り扱っている。また、陸域浅部については全国1次地下構造モデル(Koketsu et al., 2012)をとりいれ、海域陸域を問わず様々な用途に活用可能な3次元構造モデルの構築実現を目指している。モデルの構築および環境整備と併せて、理想的な3次元構造モデルへ近づけていくためのモデル修正や更新は、今後も長期にわたって繰り返し必要であることを想定し、モデルの評価、修正、更新についても、それぞれの段階ごとに、継続的に作業できるような方針を検討し、その手順と環境整備も実施した。
本発表では、海陸統合3次元マルチパラメータ地下構造モデルの妥当性を評価する方針の検討状況と、現状のモデルについての評価結果を示す。 まず、3次元P波速度構造モデルについては、走時トモグラフィによって提案された既存の3次元P波速度構造モデル(Arnulf et al., 2022)との差を示すことで評価を実施した。Arnulf et al.(2022)で用いた制御震源データのうち、いくつかの制御震源についての観測走時と本研究で構築した3次元P波速度構造モデルから計算される理論走時とを比較した。現時点で、その差は±0.5秒から1.5秒まで散らばるが、今後比較データを増やしつつ、その特徴について整理する。 3次元S波速度および密度構造モデルの構築は、P波速度からS波速度および密度への経験的な変換式(例えば、Brocher, 2005,Ludwig et al., 1970)を適用する手法により進めてきた。3次元S波速度構造モデルについては、調査データに基づくS波速度構造情報(Liu et al., submitted., Tonegawa et al., 2017, Yamamoto et al., 2022など) との比較に基づく変換式の検証方針を検討し、既存モデル (Nakanishi et al., 2018)について適用したが(仲西ほか、地震学会2023年度秋季大会)、同様の比較を現状構築した3次元S波速度構造モデルについても実施し、変換式の妥当性について確認した。 さらに、3次元密度構造モデルについては、現状得られた3次元密度モデルから計算される重力異常と観測重力異常とを比較する方法についても整理し、検証を実施した。地殻浅部の密度構造の不均質性を確認するために、南海トラフ域の観測重力異常から沈み込むフィリピン海プレートの影響を取り除き(Furuse & Kono, 2003)、3次元密度構造モデルから計算される重力異常と比較した。
なお、海陸統合3次元マルチパラメータ地下構造モデルは、現在も修正構築が進行中で、今後も継続していくことになると想定される。そのため、新たなデータの追加や、データ自体の修正更新も可能となるモデル構築環境も整備した。多様なデータに対応できるような手順の整備も現状で想定できる範囲で用意した。また、P波に基づくS波速度と密度への変換式については、今回、海水、堆積層とそれ以深の3区分に異なる変換式を適用したが、今後、変換式の変更のみならず、地質解釈に従い、より多くの区分別(例えば、堆積物、付加体、海洋地殻など)、さらには地域別(例えば、日向灘、四国沖、紀伊半島沖、あるいは海陸別など)にも適用可能な仕組みを用意した。さらに、モデルは更新後にその都度、モデル評価し、その結果を示す必要がある。本発表で示した評価方針に従って評価する環境についても、モデルの更新や修正後に容易に対応できる仕組みを整えた。
本研究は、文部科学省による科学技術試験研究委託事業「防災対策に資する南海トラフ地震調査研究プロジェクト」の一環として実施している。また、本研究の一部は、昨年度までにJSPS科研費 JP19H01982の助成を受けた。
本発表では、海陸統合3次元マルチパラメータ地下構造モデルの妥当性を評価する方針の検討状況と、現状のモデルについての評価結果を示す。 まず、3次元P波速度構造モデルについては、走時トモグラフィによって提案された既存の3次元P波速度構造モデル(Arnulf et al., 2022)との差を示すことで評価を実施した。Arnulf et al.(2022)で用いた制御震源データのうち、いくつかの制御震源についての観測走時と本研究で構築した3次元P波速度構造モデルから計算される理論走時とを比較した。現時点で、その差は±0.5秒から1.5秒まで散らばるが、今後比較データを増やしつつ、その特徴について整理する。 3次元S波速度および密度構造モデルの構築は、P波速度からS波速度および密度への経験的な変換式(例えば、Brocher, 2005,Ludwig et al., 1970)を適用する手法により進めてきた。3次元S波速度構造モデルについては、調査データに基づくS波速度構造情報(Liu et al., submitted., Tonegawa et al., 2017, Yamamoto et al., 2022など) との比較に基づく変換式の検証方針を検討し、既存モデル (Nakanishi et al., 2018)について適用したが(仲西ほか、地震学会2023年度秋季大会)、同様の比較を現状構築した3次元S波速度構造モデルについても実施し、変換式の妥当性について確認した。 さらに、3次元密度構造モデルについては、現状得られた3次元密度モデルから計算される重力異常と観測重力異常とを比較する方法についても整理し、検証を実施した。地殻浅部の密度構造の不均質性を確認するために、南海トラフ域の観測重力異常から沈み込むフィリピン海プレートの影響を取り除き(Furuse & Kono, 2003)、3次元密度構造モデルから計算される重力異常と比較した。
なお、海陸統合3次元マルチパラメータ地下構造モデルは、現在も修正構築が進行中で、今後も継続していくことになると想定される。そのため、新たなデータの追加や、データ自体の修正更新も可能となるモデル構築環境も整備した。多様なデータに対応できるような手順の整備も現状で想定できる範囲で用意した。また、P波に基づくS波速度と密度への変換式については、今回、海水、堆積層とそれ以深の3区分に異なる変換式を適用したが、今後、変換式の変更のみならず、地質解釈に従い、より多くの区分別(例えば、堆積物、付加体、海洋地殻など)、さらには地域別(例えば、日向灘、四国沖、紀伊半島沖、あるいは海陸別など)にも適用可能な仕組みを用意した。さらに、モデルは更新後にその都度、モデル評価し、その結果を示す必要がある。本発表で示した評価方針に従って評価する環境についても、モデルの更新や修正後に容易に対応できる仕組みを整えた。
本研究は、文部科学省による科学技術試験研究委託事業「防災対策に資する南海トラフ地震調査研究プロジェクト」の一環として実施している。また、本研究の一部は、昨年度までにJSPS科研費 JP19H01982の助成を受けた。