[S06P-14] S波後続波の網羅的検出に基づく日本列島内陸部における地殻内反射面の探索
多点稠密な基盤的地震観測網が整備され,日々膨大な観測波形記録が蓄積されている.近年における教師あり深層学習の導入は,膨大な観測波形記録の効率的な処理を可能とした.特に直達波(P波およびS波)については高精度な検出や検測の自動化がほぼ達成された.一方,観測波形記録には直達波以外にも多様な波群がしばしば観測される.例えば,直達波に遅れて観測される実体波は後続波と呼ばれ,地震波速度不連続面など,地下に存在する顕著な不均質構造に関連して励起された波群である.膨大な観測波形記録から後続波を自動抽出して活用する技術を確立することで,地下構造イメージングにおける空間分解能の更なる向上や直達波のみでは困難な不均質構造の制約につながると期待される.
直達S波のコーダ波部分に観測されるS波後続波は,日本列島内陸部において特に報告の多い後続波であり,地下に存在する地震波反射面や散乱体を励起源とした後続波である.Amezawa et al. [under review]は秋田県森吉山地域の単一観測点で記録された群発地震の観測波形記録からS波後続波の教師データを作成し,深層学習によるS波後続波の自動検出モデル(LPS-detector)を構築した.その後,LPS-detectorを日本列島内陸の上部地殻内で発生した地震の観測波形記録に適用し,S波後続波の網羅的検出を行った[雨澤・他, 2023, 日本地震学会2023年秋季大会].LPS-detectorは過去にS波後続波の観測報告がある地域(例えば,日光白根山周辺[e.g., Matsumoto and Hasegawa, 1996]や茨城県北部[e.g., Shiina et al., 2024])に加えて,これまで報告がなかった大雪山周辺や鹿児島湾周辺でもS波後続波を検出した.
本研究ではLPS-detectorが網羅的に検出したS波後続波をS波反射波と仮定し,その励起源を概観する.励起源のイメージング手順の概要は以下の通りである.まず,LPS-detectorのモデル出力が0.65以上(最小0.0,最大1.0)となり,S波後続波を伴うと判定された観測波形記録[雨澤・他, 2023]を収集し,各観測波形記録について水平2成分エンベロープを合成する.次に,単散乱モデル[Sato, 1977]に基づき理論コーダ振幅を求め,直達S波到達から10 s間の残差エンベロープ波形を得る.その後,水平反射面での反射を仮定することでS波反射波の直達S波に対する遅延時間を深さに焼き直し,残差エンベロープ波形の振幅(以下,Brightness)をマッピングする.簡単のため,S波速度は一律の3.5 km/sを与えた.
イメージングの結果は,日本列島内陸部においてS波反射波の励起源が主に深さ10-15 kmの範囲に分布することを示唆する.雨澤・他 [2023]がS波後続波の観測を指摘した地域でBrightnessが高くなることから,LPS-detectorが実際に地殻内部に存在する不均質構造により励起された波群を検出していることが確認された.また,北海道留萌地方や茨城県北部,和歌山県付近などでは高Brightness域が広く分布する傾向が認められる.一方で,大雪山周辺をはじめとする火山周辺では高Brightness域の局在的な分布がみられる.これらの空間スケールの違いはS波後続波の励起源となる強い不均質構造や地殻流体の水平方向の分布スケールが地域ごとに異なることを示していると考えられる.
謝辞:本研究では気象庁,防災科学技術研究所,国立大学法人による観測波形記録,および,気象庁一元化震源カタログとその検測値を使用しました.また,本研究は文部科学省の情報科学を活用した地震調査研究プロジェクト(STAR-Eプロジェクト)JPJ010217の助成を受けたものです.記して感謝いたします.
直達S波のコーダ波部分に観測されるS波後続波は,日本列島内陸部において特に報告の多い後続波であり,地下に存在する地震波反射面や散乱体を励起源とした後続波である.Amezawa et al. [under review]は秋田県森吉山地域の単一観測点で記録された群発地震の観測波形記録からS波後続波の教師データを作成し,深層学習によるS波後続波の自動検出モデル(LPS-detector)を構築した.その後,LPS-detectorを日本列島内陸の上部地殻内で発生した地震の観測波形記録に適用し,S波後続波の網羅的検出を行った[雨澤・他, 2023, 日本地震学会2023年秋季大会].LPS-detectorは過去にS波後続波の観測報告がある地域(例えば,日光白根山周辺[e.g., Matsumoto and Hasegawa, 1996]や茨城県北部[e.g., Shiina et al., 2024])に加えて,これまで報告がなかった大雪山周辺や鹿児島湾周辺でもS波後続波を検出した.
本研究ではLPS-detectorが網羅的に検出したS波後続波をS波反射波と仮定し,その励起源を概観する.励起源のイメージング手順の概要は以下の通りである.まず,LPS-detectorのモデル出力が0.65以上(最小0.0,最大1.0)となり,S波後続波を伴うと判定された観測波形記録[雨澤・他, 2023]を収集し,各観測波形記録について水平2成分エンベロープを合成する.次に,単散乱モデル[Sato, 1977]に基づき理論コーダ振幅を求め,直達S波到達から10 s間の残差エンベロープ波形を得る.その後,水平反射面での反射を仮定することでS波反射波の直達S波に対する遅延時間を深さに焼き直し,残差エンベロープ波形の振幅(以下,Brightness)をマッピングする.簡単のため,S波速度は一律の3.5 km/sを与えた.
イメージングの結果は,日本列島内陸部においてS波反射波の励起源が主に深さ10-15 kmの範囲に分布することを示唆する.雨澤・他 [2023]がS波後続波の観測を指摘した地域でBrightnessが高くなることから,LPS-detectorが実際に地殻内部に存在する不均質構造により励起された波群を検出していることが確認された.また,北海道留萌地方や茨城県北部,和歌山県付近などでは高Brightness域が広く分布する傾向が認められる.一方で,大雪山周辺をはじめとする火山周辺では高Brightness域の局在的な分布がみられる.これらの空間スケールの違いはS波後続波の励起源となる強い不均質構造や地殻流体の水平方向の分布スケールが地域ごとに異なることを示していると考えられる.
謝辞:本研究では気象庁,防災科学技術研究所,国立大学法人による観測波形記録,および,気象庁一元化震源カタログとその検測値を使用しました.また,本研究は文部科学省の情報科学を活用した地震調査研究プロジェクト(STAR-Eプロジェクト)JPJ010217の助成を受けたものです.記して感謝いたします.