16:00 〜 16:15
[S08-04] 弾性歪エネルギーと応力場の時間変化に基づく2016年熊本地震震源域の絶対応力場の考察
地震は,地下に蓄えられた弾性歪エネルギーを,断層運動により一気に解放する物理過程である.弾性歪エネルギーは絶対応力の関数であり,地下の応力状態を把握できれば,地震の発生メカニズムの解明に大きく貢献する.しかし,震源域の応力を直接測定することは難しく,とりわけ,偏差応力の大きさを推定することが本質的な課題となっている.本研究では,実効摩擦係数μ'をパラメータとした絶対応力6成分のモデリングを軸に,2016年熊本地震による弾性歪エネルギーの変化量と地震前後の応力の向き変化の両方を評価し,理論から予想される物理量の変化を観測データからの推定値と比較し,地震発生前の背景応力場の偏差応力レベルを調べることを目的とする(Terakawa et al., under review).
地震によって解放される弾性歪エネルギーΔEの大部分は剪断歪エネルギーであり,これは地震前の偏差応力レベルが高いほど大きくなる.μ’ = 0.3, 0.15, 0.1, 0.05, 0.03に対するΔEは(解放を正にとると)4.03, 2.03, 1.26, 0.437, 0.093E+16 Nmとなった.エネルギーバランスを考慮すれば,ΔEは少なくとも放射エネルギーよりも大きい必要がある.熊本地震本震の放射エネルギーは,地震波の解析や動的破壊シミュレーションにより2.09–2.7E+15 Nmと見積もられており(Kanamori et al., 2020; Kaneko & Goto, 2022),また,地震のスケーリングに基づく理論的な研究からは3.0E+15 Nm程度となることが見積もられる(Kanamori & Rivera, 2004).従って,エネルギーバランスによる拘束条件により,μ’ = 0.03は小さすぎる.
次に,熊本地震前後の絶対応力場から,理論的な応力の向きの時間変化を調べた.偏差応力が最も小さい場合でも,顕著な応力変化が予想されるのは震源断層のごく近傍(とくに日奈久断層付近は浅部のみ)に限られる.一方,CMTデータインバージョン法(Terakawa & Matsu’ura,, 2023)に地震データ(1996.1–2019.4)を適用し,熊本地震前後の応力の向きの変化を観測データからも調べた.応力の向きの違いをテンソルの内積を利用して評価すると,布田川断層と日奈久断層の接合部付近と日奈久断層の東~南東側の狭い領域に有意な応力の時間変化が見られた.しかし,この結果は応力場の理論的な予想からずれており,絶対応力場のモデル化に考慮されていない要因で発生した地震の影響であると考えられる.具体的な要因として,熊本地震発生前に知られていなかった応力場の不均質,深部からの高圧流体の流入等の局所的な応力変化,最大前震から本震までの間に発生した地震による影響などが考えられる.
絶対応力場のモデル化に考慮されていない要因に依る地震の影響を調べるために,本震後の絶対応力場の下で,本震後の約3年間に震源域から10km以内で発生した2628個の中小地震による弾性歪エネルギーの変化ΔEaを評価した.すでに述べたように,地震で解放された弾性歪エネルギーの一部は,放射エネルギーErとして消費される.放射エネルギーを地震モーメントで規格化した規格化エネルギーEr/Moについては,理論的な下限値eminを見積もることができる(Kanamori and Rivera, 2004).ΔEa/Moがeminに満たない地震の割合を調べてみると, μ’ = 0.3, 0.15, 0.1, 0.05に対して4.9, 5.9, 7.5, 16.0 %となり,実効摩擦係数が大きいほど小さくなった.各 μ’について,これらの地震を除いたデータセットを作成し,本震後の応力場(4ケース)を求めた.いずれの場合も,地震前後の応力の向きの時間変化は小さくなり,応力場の理論的な予想と解析結果とのずれも小さくなった.しかし,応力場のモデル化に考慮されていない地震を除いた場合でも,μ’= 0.1や0.05のモデルでは本震時に大きく滑った領域の応力の向きは再現できないことがわかった.
これらの分析の結果,この地域の地殻の実効摩擦係数は0.15から0.3程度であり,深さ10kmでの偏差応力の大きさは,布田川断層で37-65 MPa,日奈久断層で39-70 MP程度である.これは従来の応力インバージョンによる研究で見積もられてきた値(μ’ < 0.1)よりも有意に大きい.また,余震のデータセットの中に,応力場のモデル化に含まれていない要因で発生した地震が数パーセント含まれており,これらは応力の時間変化を過大評価し,偏差応力レベルを過小評価する原因となることもわかった.
地震によって解放される弾性歪エネルギーΔEの大部分は剪断歪エネルギーであり,これは地震前の偏差応力レベルが高いほど大きくなる.μ’ = 0.3, 0.15, 0.1, 0.05, 0.03に対するΔEは(解放を正にとると)4.03, 2.03, 1.26, 0.437, 0.093E+16 Nmとなった.エネルギーバランスを考慮すれば,ΔEは少なくとも放射エネルギーよりも大きい必要がある.熊本地震本震の放射エネルギーは,地震波の解析や動的破壊シミュレーションにより2.09–2.7E+15 Nmと見積もられており(Kanamori et al., 2020; Kaneko & Goto, 2022),また,地震のスケーリングに基づく理論的な研究からは3.0E+15 Nm程度となることが見積もられる(Kanamori & Rivera, 2004).従って,エネルギーバランスによる拘束条件により,μ’ = 0.03は小さすぎる.
次に,熊本地震前後の絶対応力場から,理論的な応力の向きの時間変化を調べた.偏差応力が最も小さい場合でも,顕著な応力変化が予想されるのは震源断層のごく近傍(とくに日奈久断層付近は浅部のみ)に限られる.一方,CMTデータインバージョン法(Terakawa & Matsu’ura,, 2023)に地震データ(1996.1–2019.4)を適用し,熊本地震前後の応力の向きの変化を観測データからも調べた.応力の向きの違いをテンソルの内積を利用して評価すると,布田川断層と日奈久断層の接合部付近と日奈久断層の東~南東側の狭い領域に有意な応力の時間変化が見られた.しかし,この結果は応力場の理論的な予想からずれており,絶対応力場のモデル化に考慮されていない要因で発生した地震の影響であると考えられる.具体的な要因として,熊本地震発生前に知られていなかった応力場の不均質,深部からの高圧流体の流入等の局所的な応力変化,最大前震から本震までの間に発生した地震による影響などが考えられる.
絶対応力場のモデル化に考慮されていない要因に依る地震の影響を調べるために,本震後の絶対応力場の下で,本震後の約3年間に震源域から10km以内で発生した2628個の中小地震による弾性歪エネルギーの変化ΔEaを評価した.すでに述べたように,地震で解放された弾性歪エネルギーの一部は,放射エネルギーErとして消費される.放射エネルギーを地震モーメントで規格化した規格化エネルギーEr/Moについては,理論的な下限値eminを見積もることができる(Kanamori and Rivera, 2004).ΔEa/Moがeminに満たない地震の割合を調べてみると, μ’ = 0.3, 0.15, 0.1, 0.05に対して4.9, 5.9, 7.5, 16.0 %となり,実効摩擦係数が大きいほど小さくなった.各 μ’について,これらの地震を除いたデータセットを作成し,本震後の応力場(4ケース)を求めた.いずれの場合も,地震前後の応力の向きの時間変化は小さくなり,応力場の理論的な予想と解析結果とのずれも小さくなった.しかし,応力場のモデル化に考慮されていない地震を除いた場合でも,μ’= 0.1や0.05のモデルでは本震時に大きく滑った領域の応力の向きは再現できないことがわかった.
これらの分析の結果,この地域の地殻の実効摩擦係数は0.15から0.3程度であり,深さ10kmでの偏差応力の大きさは,布田川断層で37-65 MPa,日奈久断層で39-70 MP程度である.これは従来の応力インバージョンによる研究で見積もられてきた値(μ’ < 0.1)よりも有意に大きい.また,余震のデータセットの中に,応力場のモデル化に含まれていない要因で発生した地震が数パーセント含まれており,これらは応力の時間変化を過大評価し,偏差応力レベルを過小評価する原因となることもわかった.