日本地震学会2024年度秋季大会

講演情報

B会場

一般セッション » S08. 地震発生の物理

[S08] PM-2

2024年10月22日(火) 15:15 〜 17:00 B会場 (3階中会議室301)

座長:プリード ネルソン(防災科学技術研究所)、寺川 寿子(名古屋大学)

16:15 〜 16:30

[S08-05] 2023年ロイヤリティ諸島南東部地震(MW 7.7)で発生した複雑な破壊過程

*村上 明叶1、八木 勇治1、奥脇 亮1 (1. 筑波大学)

沈み込み帯周辺の海洋プレート内部で発生する大地震では,複数の断層を破壊するような複雑な破壊伝播過程が複数報告されている.このような震源過程を解析する場合,断層形状をあらかじめ仮定する従来型の手法では断層形状をモデル化することが困難な場合があり,断層形状の不確実性に由来するモデリング誤差が解を大きく歪める可能性がある.こうした地震の一例として,2023年5月19日(UTC)にバヌアツ沈み込み帯南部のアウターライズにおいて発生したロイヤリティ諸島南東部地震(MW 7.7)がある.アメリカ地質調査所(USGS)は2023年ロイヤリティ諸島南東部地震に対して走向105°,傾斜66°の矩形断層モデルを設定して有限断層インバージョンを行ったが,得られた理論波形は観測された遠地実体波P波の特徴を説明することに失敗している.これはUSGSが仮定した従来型の震源過程モデルではこの地震の複雑な震源過程を表現できなかったことを示唆する.観測波形をより良く説明する震源過程モデルを構築するためには,断層形状や破壊伝播方向に自由度を与えた高自由度な震源過程モデルを用いるのが望ましい.
ポテンシー密度テンソルインバージョン(PDTI)は,断層すべりを5つの基底ダブルカップル成分の重ね合わせで表現することで,モデル平面上に周囲の断層すべりを投影する手法である.PDTIでは断層形状の仮定をしないため,仮定した断層形状の誤差によって生じるモデリング誤差を軽減させるだけではなく,断層形状も推定することが可能である.また本研究においてはハスケルモデルのような単調な同心円上の破壊伝播だけでなく,破壊伝播方向の反転を含む自由な挙動を許容するために,仮想的な破壊フロント到達後のモデル平面上の全ての領域において自由にすべりが起きることが可能であるようにした.仮想的な破壊フロント速度は,震源近傍のS波速度を参考に3.2 km/sとした.また真の波源とモデル平面の位置のずれによる誤差を軽減するためにGlobal Centroid Moment Tensor解から得られる震源メカニズム解の節面と余震分布を参考に,走向285°,傾斜45°,長さ136 km,幅32 kmのモデル平面を設定して解析を行なった.解析には方位角に偏りのないよう選択した31観測点で得られた,遠地実体波P波の鉛直成分をダウンロードして用いた.グリーン関数は,CRUST1.0モデルの速度構造を用いて計算した.
破壊は,破壊開始から6秒まで,震源から南南東22 km地点までユニラテラルに伝播する.破壊開始時の走向は290°であるが,4秒から5秒の間,時計周りに305°まで変化し,6秒になると逆に反時計回りに回転し285°まで変化する.7秒以降,震源の東において,破壊は走向を265°まで変化させながら東南東に伝播する.その際震源から南東30 km地点にある半径5 kmの円形領域(領域B)を避けるように伝播するが,9秒以降には領域Bを破壊する.このとき,領域Bを破壊する前の走向は265°であるのに対し,領域Bを破壊した後13秒以降に走向は275°まで変化する.18秒後までに,破壊は領域Bを超えて震源から南東55 kmの地点まで到達する.このとき,走向は反時計回りに回転しながら270°まで変化する.一方で震源よりも西の領域では,破壊開始11秒後,西北西に向かって破壊が伝播し,14秒後に停止する.破壊開始時の走向は285°であるが,直後に300°まで時計回りに変化し,震源から西45 km到達時に再び285°まで変化する.得られた震源過程モデルによって再現された理論波形は観測波形をよく説明している.
一連の破壊伝播過程における急激な走向変化,および,その変化領域での破壊停滞は,破壊が形状の異なる複数の断層セグメントを次々と破壊した可能性をする.走向が遷移的に変化しかつ破壊がスムーズに伝播しているところは,断層形状が屈曲していることを示唆する.また震源西の領域における時間遅れの破壊エピソードは,断層セグメント間で破壊が停滞した結果,西側の断層セグメントを破壊するためのエネルギーが集中したことによって引き起こされた可能性がある.