9:00 AM - 9:15 AM
[S08-08] Strain-release duality of regular and slow earthquakes measured by quasi-point sources
地震発生の繰り返し周期を検討する際、地震発生時の歪解放量の拘束が有用である。つまり、どれくらい歪んだら壊れるか当たりをつけるとき、壊れたらどれくらい歪が戻るかが問題になる。ただし、波動射出量や滑り量を特徴づける運動エネルギーや地震モーメントが点震源解で定まるのと対照的に、点震源解の歪解放量推計値は必ず発散する。つまり、歪解放量は断層形状を無視した長波近似で良く求まる巨視的情報ではなく、これが波(運動エネルギー)や滑り(モーメント)の規模測定にはない、歪解放量特有の測定問題を生じる。破壊伝搬速度がS波速度に近い通常の地震では、点震源解でも波動エネルギーから歪解放量は測れる(e.g., Sato & Hirasawa, 1973)。しかし、スロー地震のような、低速な断層すべりはこの限りではない (Motto, 1948; Kostrov, 1966; Kanamori, 2004)。今、測れる(可測)とは、データだけから値が決まる(最尤推定が一意)かどうかを指す。以下、推定(ベイズ推論)と測定(尤度推論)は区別しよう。本研究は、地表変位から測れる歪と測れない歪があることを指摘し、いわゆる特性化震源モデル(準点震源解)を使うと前者が測れることを見つけたあと、特性化震源モデルの妥当性を検証しつつスロー地震の歪エネルギーの特徴を調べていく。
一般に、連続体媒質中に非弾性歪が生じた時、総滑り量(モーメント)と弾性歪の自己エネルギーは比例する (Eshelby, 1957)。弾性歪の自己エネルギーとは、仮想的に同じ弾性歪が0背景応力下で生じたときの弾性歪エネルギーのことであり、歪の二乗ノルムにあたる。これは、背景応力の情報を全く含まず、歪エネルギーではない。しかし、波動に変換しうる歪エネルギーの上限に相当し(Sato & Hirasawa, 1973)、熱力学的には自由エネルギーである。モーメント(総滑り量)と自己歪エネルギー(歪解放量)の比例係数は、非弾性歪あたりの応力降下量を表し(Eshelby, 1957)、つまりはモーメントと応力降下量がわかれば歪解放量がわかるという仕組みになっている。となれば、地震の歪解放量を測るとは、断層面の応力降下量の空間分布を測ることと同義である。
しかし、応力降下量は断層形状と滑り分布に依存するため、有限震源モデルにおいてこれらを完全に決められるだけの無限のデータがない限り、歪解放量の最尤推定量は一意ではない。この意味で、歪解放量はふつう"測れない"量である。これまでの研究で求められている(e.g., Kanamori & Anderson, 1975)のは、主に遠地波形を用いた特性化震源モデルに基づく推計値である。ここでいう特性化震源モデルは、特定形状の有限長断層上で特定空間分布の滑りを仮定する断層滑りモデルの総称を指す。
これについて、我々は、観測された地震波形から期待される歪解放量の最小値に注目する。歪解放量の下限は、断層形状未知の場合に熱力学的に期待される歪解放量にあたり、物理的に合理的な歪解放量の推計値といえる。これは、地震の波動エネルギー(radiated seismic energy)に変換できる歪エネルギーの下限であるので、便宜的に可用地震エネルギー(available seismic energy)と呼んでおく。面白いことに、可用地震エネルギーは円形クラックモデルで推定される自己歪エネルギーだった。円形クラックモデルの歪解放量は、上述の通り地表観測で良く拘束できる。つまり、歪解放量の下限は"測れる"。通常地震に関しては、上記の通り自己歪エネルギーは波動エネルギーにほぼ一致し、また可用地震エネルギー測定値は波動エネルギーに一致している(Kanamori et al., 2020)。そこで、通常の地震では可用地震エネルギーは実際自己歪エネルギーの概算値になっている。
ここまでの考察を踏まえ、先行研究で推定されてきた円形クラックモデルのソースパラメターを使い、可用地震エネルギー(歪解放量下限=円形クラック換算の歪解放量)を測定し、自己歪エネルギー、要は総歪解放量を見積もった。可用地震エネルギーを比較すると、低周波地震(LFE)や超低周波地震(VLFE)は通常の地震と同じ歪解放量(一万分の一程度)である一方で、ゆっくり滑り(SSE)は二桁ほど小さいことが確認された。 但し、スロー地震に円形クラックモデルを適用できるかは議論が残る。遠地近似の理論解(Matsu'ura, 2024; submitted)を用いて検討すると、通常地震とスロー地震活動において、例外的にVLFEについては円形クラックモデルの当てはまりが悪く(Sato, submitted; arXiv:2406.12654)、VLFEでの上記の推計は疑わしい。VLFEがLFEの集積(Shelly et al., 2007)であるなら、モデル適用性の違いは破壊過程の違いと解せるのだろう。
円形クラックで見積もられてきた応力降下量とは、歪解放量の下限の測定値であり、実は歪は下限だけが測りうるというのが本発表の論旨である。歪解放量の結果は、単にLFEやVLFEの推定応力降下量が地震のそれに近く、SSEの推定応力降下量がそれより小さいということを言い換えたに過ぎない。それでも、歪解放量は地震が速いか遅いかで決まるかと思いきや、地震波を出すか否かで分かれているらしいというのは、沈み込み帯の歪解放過程を考えるうえでこれまであまり認識されていない知見かもしれない。
一般に、連続体媒質中に非弾性歪が生じた時、総滑り量(モーメント)と弾性歪の自己エネルギーは比例する (Eshelby, 1957)。弾性歪の自己エネルギーとは、仮想的に同じ弾性歪が0背景応力下で生じたときの弾性歪エネルギーのことであり、歪の二乗ノルムにあたる。これは、背景応力の情報を全く含まず、歪エネルギーではない。しかし、波動に変換しうる歪エネルギーの上限に相当し(Sato & Hirasawa, 1973)、熱力学的には自由エネルギーである。モーメント(総滑り量)と自己歪エネルギー(歪解放量)の比例係数は、非弾性歪あたりの応力降下量を表し(Eshelby, 1957)、つまりはモーメントと応力降下量がわかれば歪解放量がわかるという仕組みになっている。となれば、地震の歪解放量を測るとは、断層面の応力降下量の空間分布を測ることと同義である。
しかし、応力降下量は断層形状と滑り分布に依存するため、有限震源モデルにおいてこれらを完全に決められるだけの無限のデータがない限り、歪解放量の最尤推定量は一意ではない。この意味で、歪解放量はふつう"測れない"量である。これまでの研究で求められている(e.g., Kanamori & Anderson, 1975)のは、主に遠地波形を用いた特性化震源モデルに基づく推計値である。ここでいう特性化震源モデルは、特定形状の有限長断層上で特定空間分布の滑りを仮定する断層滑りモデルの総称を指す。
これについて、我々は、観測された地震波形から期待される歪解放量の最小値に注目する。歪解放量の下限は、断層形状未知の場合に熱力学的に期待される歪解放量にあたり、物理的に合理的な歪解放量の推計値といえる。これは、地震の波動エネルギー(radiated seismic energy)に変換できる歪エネルギーの下限であるので、便宜的に可用地震エネルギー(available seismic energy)と呼んでおく。面白いことに、可用地震エネルギーは円形クラックモデルで推定される自己歪エネルギーだった。円形クラックモデルの歪解放量は、上述の通り地表観測で良く拘束できる。つまり、歪解放量の下限は"測れる"。通常地震に関しては、上記の通り自己歪エネルギーは波動エネルギーにほぼ一致し、また可用地震エネルギー測定値は波動エネルギーに一致している(Kanamori et al., 2020)。そこで、通常の地震では可用地震エネルギーは実際自己歪エネルギーの概算値になっている。
ここまでの考察を踏まえ、先行研究で推定されてきた円形クラックモデルのソースパラメターを使い、可用地震エネルギー(歪解放量下限=円形クラック換算の歪解放量)を測定し、自己歪エネルギー、要は総歪解放量を見積もった。可用地震エネルギーを比較すると、低周波地震(LFE)や超低周波地震(VLFE)は通常の地震と同じ歪解放量(一万分の一程度)である一方で、ゆっくり滑り(SSE)は二桁ほど小さいことが確認された。 但し、スロー地震に円形クラックモデルを適用できるかは議論が残る。遠地近似の理論解(Matsu'ura, 2024; submitted)を用いて検討すると、通常地震とスロー地震活動において、例外的にVLFEについては円形クラックモデルの当てはまりが悪く(Sato, submitted; arXiv:2406.12654)、VLFEでの上記の推計は疑わしい。VLFEがLFEの集積(Shelly et al., 2007)であるなら、モデル適用性の違いは破壊過程の違いと解せるのだろう。
円形クラックで見積もられてきた応力降下量とは、歪解放量の下限の測定値であり、実は歪は下限だけが測りうるというのが本発表の論旨である。歪解放量の結果は、単にLFEやVLFEの推定応力降下量が地震のそれに近く、SSEの推定応力降下量がそれより小さいということを言い換えたに過ぎない。それでも、歪解放量は地震が速いか遅いかで決まるかと思いきや、地震波を出すか否かで分かれているらしいというのは、沈み込み帯の歪解放過程を考えるうえでこれまであまり認識されていない知見かもしれない。