09:15 〜 09:30
[S08-09] スロー地震の統計則を示す浮遊粒子分散系の固着すべり挙動:粒子運動のその場観察実験
スロー地震は,規模別頻度分布,規模-継続時間スケーリング,パワースペクトルの3点について通常の地震と異なる特性を示す場合があるが [1, 2],メカニズムや因果関係については明らかになっていない.本研究では,浮遊粒子分散系が示す固着すべりにおいて,規模別頻度分布が指数分布かつ,規模-継続時間スケーリングが線形関係で,パワースペクトルの高周波側の減衰指数の大きさが空隙率によっては1に近い値をとることを示す.
地震性すべりを実験で再現するために,本研究では球状ゲル粒子(直径約 4 mm)を透明な重液(密度約 3 g/cm³)の液面に浮遊させて,この浮遊粒子層に回転円柱を挿し入れて剪断実験を行った.回転円柱の表面には試料と同じ粒子を接着した.粒子層の厚みは粒子1個分とし,層内の空隙率約0.3(粒子数約3800個)のもとで剪断挙動を調べた.回転円柱とバネで接続されたモーターの回転速度は0.6˚/sで一定とした.実験中にはトルクを測定すると同時に,粒子の動きをその場で撮影して画像解析を行った.
実験の結果,剪断を加えた浮遊粒子層は固着すべり挙動を示し,すべりに伴うトルク降下量の頻度分布はベキ分布ではなく指数分布となった.現実のスロー地震において,規模別頻度分布がグーテンベルグリヒター則(ベキ分布)なのか指数分布なのか [1] 定説はまだないが,本研究の範囲内では実験のシステムサイズを変えても一貫して指数分布が捉えられた.
回転円柱のすべり量およびすべり継続時間はトルク降下量におおむね比例していた.現実のスロー地震において,規模(エネルギー)と継続時間との間には線形関係が見出されており,通常の地震の非線形関係とは異なるメカニズムが示唆されている[2].また,すべり速度はおおむね一定で約 0.12 mm/s(浮遊粒子層の剛体回転より約20%速い)だったが,空隙率を減少させると速いすべり(≲ 0.20 mm/s)が生じる頻度が上昇した.すべり面の面積の定量化は撮影画像の解析に基づいて実施中だが,多くの場合は回転円柱の近傍にある同一の粒子の表面で局所的にすべっていた.すべり面積がトルク降下量によらず一定だと仮定すると,トルク降下量が示す指数分布のスケールはすべり量ないしすべり継続時間が規定していると考えられる.さらに,すべり速度も一定と仮定すると,本研究における応力降下量はそのまま地震モーメントと比較可能な物理量とみなすことができる.
固着すべりを伴って増減するトルクデータのパワースペクトルは,コーナー周波数 0.03 Hzにピークを持ち,より高周波側で周波数fに対して 1/f n で減衰する特性を持っていた.コーナー周波数は回転円柱表面の粒子が1粒子直径分移動するのにかかる時間スケールに一致し,より高周波側のスペクトルの負の傾きは約 1/f 4 であり,空隙率を増加させると 1/f へと遷移する傾向が見られた.現実のスロー地震では,通常の地震と異なり 1/f に近いスペクトルが得られることが知られている[2, 3].
これまでの先行研究で,規模別頻度分布と規模-継続時間スケーリングに基づいてスロー地震のパワースペクトルが求められているが [3],規模別頻度分布と規模-継続時間スケーリングの相互関係や原因については未解決のままである.今後,これらの統計則がミクロな粒子運動の基づいてどのように説明できるのかを明らかにし,スケーリングによってスロー地震の断層パラメータの推定を試みる.
[1] Chestler & Creager (2017) JGR; [2] Ide et al. (2007) nature; [3] Hawthorne & Bartlow (2018) JGR
地震性すべりを実験で再現するために,本研究では球状ゲル粒子(直径約 4 mm)を透明な重液(密度約 3 g/cm³)の液面に浮遊させて,この浮遊粒子層に回転円柱を挿し入れて剪断実験を行った.回転円柱の表面には試料と同じ粒子を接着した.粒子層の厚みは粒子1個分とし,層内の空隙率約0.3(粒子数約3800個)のもとで剪断挙動を調べた.回転円柱とバネで接続されたモーターの回転速度は0.6˚/sで一定とした.実験中にはトルクを測定すると同時に,粒子の動きをその場で撮影して画像解析を行った.
実験の結果,剪断を加えた浮遊粒子層は固着すべり挙動を示し,すべりに伴うトルク降下量の頻度分布はベキ分布ではなく指数分布となった.現実のスロー地震において,規模別頻度分布がグーテンベルグリヒター則(ベキ分布)なのか指数分布なのか [1] 定説はまだないが,本研究の範囲内では実験のシステムサイズを変えても一貫して指数分布が捉えられた.
回転円柱のすべり量およびすべり継続時間はトルク降下量におおむね比例していた.現実のスロー地震において,規模(エネルギー)と継続時間との間には線形関係が見出されており,通常の地震の非線形関係とは異なるメカニズムが示唆されている[2].また,すべり速度はおおむね一定で約 0.12 mm/s(浮遊粒子層の剛体回転より約20%速い)だったが,空隙率を減少させると速いすべり(≲ 0.20 mm/s)が生じる頻度が上昇した.すべり面の面積の定量化は撮影画像の解析に基づいて実施中だが,多くの場合は回転円柱の近傍にある同一の粒子の表面で局所的にすべっていた.すべり面積がトルク降下量によらず一定だと仮定すると,トルク降下量が示す指数分布のスケールはすべり量ないしすべり継続時間が規定していると考えられる.さらに,すべり速度も一定と仮定すると,本研究における応力降下量はそのまま地震モーメントと比較可能な物理量とみなすことができる.
固着すべりを伴って増減するトルクデータのパワースペクトルは,コーナー周波数 0.03 Hzにピークを持ち,より高周波側で周波数fに対して 1/f n で減衰する特性を持っていた.コーナー周波数は回転円柱表面の粒子が1粒子直径分移動するのにかかる時間スケールに一致し,より高周波側のスペクトルの負の傾きは約 1/f 4 であり,空隙率を増加させると 1/f へと遷移する傾向が見られた.現実のスロー地震では,通常の地震と異なり 1/f に近いスペクトルが得られることが知られている[2, 3].
これまでの先行研究で,規模別頻度分布と規模-継続時間スケーリングに基づいてスロー地震のパワースペクトルが求められているが [3],規模別頻度分布と規模-継続時間スケーリングの相互関係や原因については未解決のままである.今後,これらの統計則がミクロな粒子運動の基づいてどのように説明できるのかを明らかにし,スケーリングによってスロー地震の断層パラメータの推定を試みる.
[1] Chestler & Creager (2017) JGR; [2] Ide et al. (2007) nature; [3] Hawthorne & Bartlow (2018) JGR